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日本サッカーの守備に足りない“スペースを埋めようとする感覚”。守備マイスター・松田浩が考えるゾーンディフェンスの極意とは?

text by 鈴木康浩 photo by Getty Images

マンツーマンとゾーディンフェンスの融合

日本サッカーの守備に足りない“スペースを埋めようとする感覚”。守備マイスター・松田浩が考えるゾーンディフェンスの極意とは?
図2

日本サッカーの守備に足りない“スペースを埋めようとする感覚”。守備マイスター・松田浩が考えるゾーンディフェンスの極意とは?
図3

 そうしておいてバルセロナからボールの出しどころを奪い、たとえば、密集したエリアへの強引な縦パスを誘い込んで自分たちの守備の網に絡めとったり、バルセロナに逃げるようなロングボールを前へ蹴らせてハイボールで競り勝ったり、という守備のイメージをチームとして共有できている。

 そしてボールを奪ったら、バイエルンのストロングポイントである両サイドのリベリーやロッベンが果敢に仕掛ける。この攻撃参加のあとの守備がまた肝となる。

「ボールを奪われた直後には、リベリーやロッベンが駆け上がった背後のスペースに戻らなければいけないのですが、このとき、2シャドーのうちのミュラーがその空けたスペースに戻るようにしている【図2】。あるいは、ボランチのハビ・マルティネスがサイドへスライドしてスペースを埋め、そのマルティネスが元々いたボランチのスペースにミュラーやシュバインシュタイガーが戻って埋めている【図3】。

 僕はこの作業をローテーションと呼んでいるのですが、空いてしまったスペースを誰かが埋める、という意識が非常に高いと感じるんです。

 この試合のバイエルンは4-2-3-1の布陣で、守備時には両サイドのスペースを埋めるように4-4のブロックを築く形をとっている。その4-4のスペース全体が必ず埋まるように、バイエルンの選手たちは局面が守備に切り替わった瞬間、もっとも近い選手がすかさず空いているスペースに戻って埋める、というイメージがチームで徹底できているんです」

 さらにいえば、と松田氏がこう続ける。

「この試合のバイエルンは洗練されたゾーンディフェンスの要素に、マンツーマンの要素も融合させた守備を遂行している節がある。4-2-3-1から守備時は4-4-2に変形するのですが、4-4の8人でゾーンのブロックを築いたときに、シュバインシュタイガーがバルサのシャビ、マルティネスがイニエスタ、リベリーがダニエウ・アウベス、ロッベンがジョルディ・アラバをマンツーマン気味に見ている。そしてミュラーはブスケツに対峙するからちょうどはまる。

 それでも、バルサはシャビが少し後ろに下がってボールを受けて動かそうとするシーンもあるから、そのときはバイエルンのシュバインシュタイガーが味方のミュラーの位置を追い越してシャビの位置までマンツーマン気味についていくようなシーンもある。

 そうするとシュバインシュタイガーが空けたスペースにミュラーが気を利かせて戻って埋めたりしている。そういうスペースを埋めようとする感覚、ゾーンディフェンスの感覚が彼らにはあるんです」

 マンツーマンとゾーディンフェンスの融合。それが世界のサッカーの守備の最前線の感覚となりつつあるのかもしれない。しかし、それを日本のサッカーシーンで成立させるためには、まずは少なくとも選手たちが守備をするときのスペース管理の感覚、つまりはゾーンディフェンスを機能させるだけの感覚を各々が持てるようにならなければ始まらない。

“スペースを埋めようとする感覚”が広く浸透することなくして、日本サッカーの守備の考え方に不足するピースは埋まらない。

【了】

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第2章 ゾーンディフェンスの衝撃
第3章 ゾーンディフェンスとは何か
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