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母国EURO初出場の裏で――。国から逃げ、身寄りもなく、それでもサッカーを続けるアルバニアの難民少年

text by 宮崎隆司 photo by Takashi Miyazaki , Getty Images

少年からの思いがけない言葉「人生って過酷だよね」

 イタリアの少年達はやはりここでも“らしく”実にイタリア的なサッカーで僅差の試合を繰り返している。

 ルーマニア人達は上手いだけでなく、球際ではモロに体ごと当たり敵を吹っ飛ばしている。しかし、いかんせん激し過ぎて他の者達との衝突も絶えないのだが。

 そして、アルバニアの少年達もまた同じように、それをたかが草サッカーでやるか? というほどの深いタックルでボールに食らいついていく。

 きっと心の中に溜まっている色んな思いをその右足や左足に込めているのだろう、彼らが放つシュートはとにかく強烈だ。

 するとそこへブラジル人たちが、続いてモロッコ人たちの集団も加わり、小さなサッカー場はボロボロのボールを抱えた少年たちで埋め尽くされていく。

 一見するととても収拾のつかない様子に思われるのだが、そこはやはりさすがに遊び方を知る王国ブラジルの少年たちが場を仕切り、とはいえ極めて適当だが程よい具合に試合が順に続いている。

 ブラジル対モロッコ、イタリア対ルーマニア……などと入れ替わり立ち替わりでゲームが続いている中、ふと見ると、順番待ちとなったアルバンくんが再び私の方へ向かって歩いてくる。そしてベンチで新聞を読んでいた私の隣に腰掛けては一生懸命、覚えたてのイタリア語に英語を交えながら話しかけてくる。

 日本のことを尋ねてみたり、イタリアへ来て以降の辛いことや嬉しい出来事をひとしきり語っていた彼は、何を思ったのだろう、突如として話すのを止めると、しばらくの間を置いてから、ベンチに座り地面に視線を落としたまま、小さな声でこう私に言った。

「La vita è dura(人生って過酷だよね)」

 15歳の少年が、である。

 こちらが何も返せずにいると、アルバンくんは続けて、広場のサッカー場でブラジル人たちに遊ばれている私の息子を見つめながら、ここでも一生懸命、片言のイタリア語で呟くようにこう語りかけてきた。

「あの子は幸せだね。だって、ボール蹴ってる姿をお父さんに見てもらえるんだから」
「僕も、僕のお父さんに今の僕を見てもらいたいなぁ……」

 彼の肩を抱き寄せてあげることしか私にはできなかった。

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