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ボスマン判決という分岐点。40年以上オセールを率いた老将が語る、「選手の商品化」【特集:ボスマン判決、20年後の風景】

選手の自由移動は、実際に必要なくとも移籍の必然性を生じさせてしまう

ボスマン判決後は、外国籍のスター選手を獲得できるクラブ、リーグが一層の存在感を示すようになった。
ボスマン判決後は、外国籍のスター選手を獲得できるクラブ、リーグが一層の存在感を示すようになった。

 1995-96シーズンにはフランスのリーグ&カップ戦で優勝し、私のキャリアは最高潮に達する。当時はボスマン判決が効力を有するようになったばかりで、はっきりとした影響が現れるまでにはまだ時間がかかり、二冠を達成した選手たちは次のシーズンもチームに残ってくれた。

 しかし、その後に私を裏切ったのは、ほかでもないクラブの首脳陣だったのである。彼らは自分たちの影よりも素早く動いて、複数の選手を売り払ってしまったのだった。何より悲しむべきは、彼らがそうやって手にした金を有効活用しなかったことにほかならない。

 カントナを売却したとき、自分からはその金で50×35メートルの人工芝のフットサルコートを設置するよう提案した。それがスカンジナビアのフットボールからの模倣であったことは否定しない。が、そのコートのおかげで、我々は冬により良い練習ができるようになり、チームの競争力を高められた。

 私はほかにも、多くの名声を得ているフランスで最も優れたピッチや、将来に数多くの才能ある選手をクラブにもたらすであろう育成センターを残してきた。だが不幸にも、期待していたようなことなど起こりはしなかった。自分の退団後にやって来た監督たちは、すでに有毒なシステムの一部であり、補強のための補強を繰り返していったのである。

 今、クラブに到着する選手たちはすぐに高い値札を付けられ、どのような足跡も残さぬまま姿を消してしまう。選手は1年毎にクラブからまた別のクラブへとわたる彷徨い人であり、一つの街、そこに住んでいる人々、そしてクラブを愛する時間など持ちえない。それこそが、私を落ち込ませている要因の一つである。

 選手の自由移動は、実際には必要のないことだとしても、移籍の必然性を生じさせてしまうのだ。私はボスマンにこそ一度も会ったことがないが、彼の弁護士とは同じ場所に居合わせ、次の言葉をそっくりそのまま口にしている。

「あなたはとても良い弁護士だ。倫理はあなたとともにあるよ。しかしね、この判決は金持ちのクラブを、不道徳な向きに変質させてしまうだろう」

 その通りのことが、現実に起こったのだった。

 このボスマンの時代に成立したすべての移籍を分析すれば、恥ずべきことで溢れ返っているはず。私には当初から常識を逸したもののように映り、だからこそ異論を唱え続けてきた。ボスマン・ルールは一般的な市場のルールと同じく、ただ金だけによって支配されるものなのだから。今日ではもう、かつてのような取引が行われることはない。金があれば勝つ。それだけだ。

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