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武器が「インサイドキック」? デ・ブルイネの特殊性。守備の監視かいくぐった「1人時間差」【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

サイドキックという武器。ベッカム同様、セットプレー同然の威力

デ・ブルイネ(左)のインサイドキックは速度と精度が抜群。セットプレー同然の威力がある
デ・ブルイネ(左)のインサイドキックは速度と精度が抜群。セットプレー同然の威力がある【写真:Getty Images】

 ケビン・デ・ブルイネはベルギーが生んだ現在最高のプレーヤーだろう。ベルギーにはエルジェ作の世界的に有名な漫画「タンタンの冒険」があるが、主人公のタンタンとデ・ブルイネはよく似ている。

 デ・ブルイネの武器はインサイドキックの強さと正確さ。サイドキックができない選手はいないので、これが武器といわれてもピンとこないかもしれないが、誰もがやっていることだからこそ「止める・蹴る」が秀でていれば、それは大きな武器になる。

 逆サイドのゴールエリア角へフワリと上げるパス(というよりほぼトスアップ)はシティ定番の攻め手だが、近いほうのGKとDFのわずかな隙間へ刺すような低いパスも速度と精度が抜群。いずれもデ・ブルイネの右足を生かした攻撃ルートだ。かつてのデイビッド・ベッカムと似ていてセットプレー同然の威力がある。

 右サイドのスペースへ斜めに走り込んで縦パスを引き出し、そのままダイレクトで折り返すクロスボールもよく使っている。無理な体勢なのに無理に見えない。まるで体を液状化させてGを分散させているかのようで、そんなときのデ・ブルイネは大きなネコになる。

 カウンターアタックではジェズスやアグエロを狙ったスルーパスが十八番。球足が速く、距離が遠くても失速せずにDFの間を通過させられる。

 かつて冷遇されたチェルシーに対する決勝点は得意の右足でなく左足のミドルだった。左足でも同じような質のボールを蹴る。これもデ・ブルイネの長所だ。走れるしコンタクトにも強い。ただ、彼の武器は誰もができるが同じ水準では決してできないサイドキックである。

 チェルシーはバチュアイとペドロを投入、前線を厚くして1点を追ったが、あまり効果的な攻撃はできずに終わる。カンテからのパスが再三カットされてシティのカウンターを許していたのは痛々しくもあった。

 カンテ、バカヨコは守備力抜群、とくにカンテは攻撃でも長足の進歩をみせている。しかし彼らの武器はやはり守備であって攻撃ではない。チェルシーにはリードされたときの武器が足りなかった。

(文:西部謙司)

【了】

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