フットボールチャンネル

メッシ+カンテのような恐ろしさ。リバプール加入内定、ナビ・ケイタが打ち砕く固定観念【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

戦術の最先端とストリート・キッズ

 ラルフ・ラングニックがスポーツディレクターを務めるRBライプツィヒは特殊なクラブだ。飲料メーカーのレッドブルがスポンサーとなっていてザルツブルクとは兄弟関係、ラングニックはザルツブルクでも仕事をしていた。ヨーロッパでは珍しい新興クラブというだけでなく、サッカーも少し変わっている。

 ラングニックの哲学は1980年代後半から世界を席巻したACミランの発展形であり、攻守をシームレスにとらえる。フィールドの片側半分にほとんどの選手が集まり、錐で穴を空けるような突破を狙う。

 狭いところを攻撃するので難しさはある半面、奪われたときのプレスが速い。むしろプレスで奪うために攻撃をしているといったほうがいいかもしれない。ボールポゼッションにはほとんど興味がないし、ビルドアップにもそれほど時間をかけない。

 データ分析と研究を重ねた結果の合理的なサッカーということなのだが、従来の価値観とは違った先鋭的な、ある意味挑戦的なスタイルである。

 この未来的ともいえるスタイルのサッカーで、戦術など無縁の育ち方をしたナビ・ケイタが不可欠な存在になっているのが面白い。ストリートサッカー番長であるために、ボールを奪ってドリブルで突き進んだケイタだからこそ、従来の常識にとらわれないラングニックのサッカーにピタリと適合したのではないかとも思う。

 狭いエリアでボールを奪いとり、そのままドリブルで突入して守備を切り裂く。ケイタが路上でやっていたサッカーと同じといえば同じなのだ。

 ラングニックのスタイルはドイツでは多くの指導者に影響を与え、「ラングニック派」ともいうべきグループを形成している。来季にケイタを迎えるリバプールのユルゲン・クロップ監督もラングニックに影響を受けた1人だ。

 ケイタの父親は熱烈なリバプールファンで、周囲のストリートサッカー仲間もリバプールのファンが多かったという。ザルツブルクで兄弟のような関係だったサディオ・マネも待っている。プレミアリーグでもケイタは大きな衝撃を与えるだろう。

 考え抜かれた知性の集積のようなサッカーとストリート・キッズの相性が抜群だったのは意外だが、それも我々が固定観念にとらわれている証拠かもしれない。メッシとカンテの融合など思いもよらなかったのに、もう実物が存在しているのだから。

(文:西部謙司)

【了】

1 2

KANZENからのお知らせ

scroll top