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原口元気も離脱。危険な「脳振とう」、どうケアすべきか? 重度の障害招く恐れ

text by 山下祐司 photo by Getty Images,Yuji Yamashita

安心してはいけない「一時的な回復」

 スポーツで起こった脳振とうからの回復には、症状が消えてから24時間以上の完全な休息をとった後、負荷を徐々に高める段階的トレーニングが推奨されている。

 試合を再開できるのは最短でも完全な休息を終えてから6日後になる。だが、スポーツドクターの多くは整形外科が専門で、脳神経外科を専門とするスポーツドクターとなると人数はかなり少ない。最近では脳振とうの正しい知識を持った整形外科医も多くなっているが、脳神経外科のスポーツドクターがより多く必要になるという。

 さらに脳振とうの対策は現在も研究が進展中のため、今後も変わる可能性がある。例えば、2016年までは長期的に脳振とうで頭痛などの症状が続いている間はずっとプレーを休ませる必要があったが、2017年からはリハビリを開始するようになった。大橋医師は「今後もアップデートされる可能性があるので、最新の情報を持っている医療機関を訪ねて欲しい」と話す。

 小学生、ジュニア世代にはどのようなケアが必要なのか。

「一時的に回復したように見えても、自分の症状をうまく表現できないこともある。保護者はなんとなくぼーっとしている、食欲が減っているなどのシグナルに目を配って欲しい。症状が続くこともある。対応の第一基準はしっかりと休ませること」

 脳振とうだけではなく、ヘディングが後年に脳の機能障害や認知症などを引き起こす原因と疑われている現状では、体が未熟な成長・発達段階での影響が長期的に大きいことも否定できない。そのため練習では軽めのボールを使用するなど頭への衝撃を減らす工夫を大橋医師は勧める。

 スポーツで起こる脳振とうの対策を世界的リードし、4年ごとに開催されているのが国際スポーツ脳振とう会議だ。FIFAやIOC(国際オリンピック委員会)、IIHF(国際アイスホッケー連盟)などがサポートするこの会議が発表するSCAT(Sports Concussion Assessment Tool)がスポーツ現場で行う脳振とうの評価ツールとして世界標準になっている。もちろん、FIFAもSCATの利用を推奨している。

 最新版は2017年に発表されたSCAT5で主に医療関係者が利用する。和訳版は前の版のSCAT3までが存在する。また、簡易評価ツールのポケットSCAT2は医療関係者以外も利用でき、和訳版は各所から無料でダウンロードできる。また5歳~12歳用のチャイルドSCATもある。

 ただしこのSCAT3を使った脳振とう評価は、FIFAが決めた3分間では時間が足りないという。

「SCAT3は3分ではとうてい不可能。シーズン前の評価を記録しておき、比較もしなければならない。日本サッカー協会も早い段階で最新のSCAT5を導入する方向になるでしょう。また今後のために、サッカー独自の評価ツールを考えないといけない」

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