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サッカー本大賞2018直前!サッカー好き書店員座談会

いよいよ3/12(月)に5回目となる「サッカー本大賞」が開催されます。そこで、サッカー好き、サッカー本好きの書店員さんたちにオススメのサッカー本を語っていただきました。紹介していただいた本はどれも面白いものばかり。ぜひご覧ください。

司会)本日はお忙しいところにお集まりいただきましてありがとうございます。今日はサッカー好き書店員の皆様に集まっていただきましてそれぞれのサッカー本大賞候補作をご紹介いただくという主旨になっています。それではさっそくですが、よろしくお願いいたします!

●澤野雅之
 有隣堂の店舗にて18年間勤務の後、現在は同社で図書館などの運営管理などを行う傍ら、図書館でのJクラブの紹介展示やサッカー本のビブリオバトル、映画「MARCH」上映会などの企画運営も行う。横浜FCの熱狂的なサポーター。書店時代は文芸書を主に担当。

「ヘダップ!」三羽省吾著 新潮社刊

 この本はJFLが舞台のサッカー小説です。昼は仕事、夜に練習するというような選手が主人公なのですがある意味、華やかではない世界においてサッカーはもちろんのこと仕事のトラブルや人間関係での悩み、苦しみを抱えつつも一生懸命生きている人たちが描かれていて、泥臭く、骨太な内容になっています。

 少しサッカーの知識もないと読みにくい部分もあるのですが、社会人として、酸いも甘いも味わった大人にこそ読んで欲しい、熱くなれる一冊です。読んだら、よし!やるか!という前向きな気持ちになってもらえるはずです。

阿久津)舞台背景ってどんな感じです?

澤野)松本山雅と長野パルセイロの対立構図を彷彿とさせるんですよね。ちなみに「ヘダップ」は「ヘッドアップ」=「顔を上げろ」という意味です。

新井)サッカー本の売り場で置いていなかったので知らなかったのですが、面白そうですね!

澤野)文庫になってくれたらなあ。小説からサッカーに興味を持ってもらうというアプローチもありかなという意味でもオススメです。

「レッドスワンの奏鳴」綾崎隼著 アスキー・メディアワークス刊 ※三部作の最終巻

 ライトノベルの作家さんの作品なのですが、絶命、生還、と続く、三部作最終巻です。これは図書館のスタッフが、サッカー好きの私のためにオススメして下さったんですよ。女性監督に率いられた高校サッカー部が全国に勝ち上がっていくという、いわゆる王道スポーツものです。

 登場人物たちは美男美女ばかりといういかにもラノベっぽい設定なのですがとにかくサッカーの描写が非常に丁寧でこの作家さんは本当にサッカーが好きなんだなというのが伝わってきます。物語の中でサッカーのルールの解説があったり、読み進めていくうちにサッカーってこんなところが魅力的で、面白いところなんだなというのがわかるようになっているので、サッカーに興味を持ってもらうためのとっつきやすさも含めてすごく良い作品だなと思いました。

 また、この監督が科学的な視点を持って、選手たちにトレーニングを
させていくところなど、実際の日本サッカーを取り巻く状況を反映させている点もすごく好きですね。

新井)これで完結になっているんですか?

澤野)いや、いちおうは完結なのですが、第一部完のようにもとれるのでおそらくセカンドシーズンのような形で続くのではとにらんでいます!これもノーチェックの方が多いように思いますので、ぜひ!

「一流プロ5人が特別に教えてくれたサッカー鑑識力」大塚一樹著 ソル・メディア刊

 様々な立場でサッカーに関わる人物たちが、サッカーをどういう視点で見たら面白いか、ということを語っている作品です。特に中村憲剛選手のパートは非常に面白くて、色々な媒体で憲剛選手のインタビューを読むのですが、この本でもサッカーの技術だけじゃなくて、サッカーを伝える言葉を持っている選手なんだなと再認識できます。

 サッカーをするときに自分を俯瞰して見ているというところや、視野が広く見えていてそれが彼の素晴らしいプレーにつながっているんだなと感心しました。自分がプレーする時だと、声が聞こえたり、狭い視野に入ってこないと気づかないことのほうが多いので、より彼の凄さがわかります笑

 この本は一流のプロたちがそれぞれの視点でサッカーの間口を広げてくれる本でして、サッカーを将棋に例える人もいますし、「サッカーの見方」はひとつじゃないということを教えてくれる一冊だと思います。

新井)お店ではサッカー好きな人には買っていただけていたんですがこういう面白い本をどうやってもっと売り伸ばせばいいのか、悩みどころです。

澤野)難しいところですよね。一番は収録されている方たちが一般の方たちにも知られるくらいに有名になれば、とは思うのですが。

阿久津)もっと面白くサッカーを観たい!と思う人に読んでほしいですね。

●新井孝典
 ジュンク堂新宿店実用書担当を経て、現在はジュンク堂池袋店実用書担当。ひいきにしているチームはないが、中村憲剛選手がファイバレットプレーヤー。

「残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日」飯尾篤史著 講談社刊

 特にどこかのチームのサポーターというわけではないのですが中村憲剛選手がとても好きでして。サッカー本大賞2017の優秀作品に選ばれていたので、「おお!」と思っていたのですが大賞にはならず、個人的には残念でもありました。

 この本は南アフリカW杯のときの話からはじまります。中村憲剛選手は少しだけ出場することができたのですがそのときのプレーに後悔が残っていて、その後悔を糧にブラジルの地でその悔しさを晴らしたい!という主旨でこの本の企画が始まっています。結果的にチームメイトだった大久保嘉人選手が選ばれ、自分は落選してしまうという結果になるのですが・・・。

 読んでいても、なかなか重たい部分が多くて、読んだ後にすごく救われたなと思う部分もあるんです。特に中村憲剛選手が代表に落選した翌日に自身のブログで語った言葉に本当に胸を打たれました。当時の心境でなかなか言えることではないと思います。ちょっとだけ抜粋して読み上げさせてもらいます。
※座談会では文章を読み上げていただきました。内容はぜひ本書をどうぞ!

 当時も読んでグッと込み上げてくるものがあったのですが、今読んでも目頭が熱くなります・・・

 アスリート目線の話ではありますけど、ぼくらでも頑張っても結果が出ないこともありますし憲剛選手の考え方や言葉には、なんていえばいいんでしょうか、「光」を感じます。

「ボールピープル」の近藤さんが撮った写真も収録されていて、それも非常に素晴らしいです。憲剛選手、かっこいいです!!!

澤野)いわゆる二枚目ではないんですけどね。でも笑顔が本当に素敵です。子煩悩な父親でもありますし、人間的な魅力に溢れていますね。

新井)自伝本、今はなかなか売るのが難しいですけどね・・・

半田)自伝本は誰が買うのか、誰が欲しいのか、発売時期も含めて、突き詰めて考えないといけないですよね。

阿久津)自伝本だと、佐藤寿人・勇人選手の「あきらめない勇気」(佐藤勇人+佐藤寿人 著 東方出版刊)はとても良かったです!

半田)その本は久々に読んでみたいと思った本でした!

阿久津)自分のサッカー人生はもちろんのこと、兄弟間の話もあって読み応えのある内容でしたよね。

●半田純一
 丸善丸の内本店実用書担当の後、合併に伴ってジュンク堂吉祥店へ異動。現在はMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店で実用書を担当。浦和生まれ浦和育ち、根っからの浦和レッズサポーター。

「橋を架ける者たち 在日サッカー選手の群像」木村元彦著 集英社新書刊

 この本は間口が広い本ではないのですが、木村元彦さんの本だけあってサッカーが切り口にはなりつつも社会性を帯びた内容になってます。自分自身が日本に生まれ住みサッカーに触れている中で、より在日選手のことを知りたいと思いました。そしてもっと多くの人にも知ってほしいという思いで選びました。実用書担当として最初は新書ではなく、単行本のハードカバーとして出版して欲しかったのですが笑。

 在日選手が日本でサッカーをする困難やアイデンティティの話など、様々な状況におかれた選手たちのストーリーを丹念な取材で描かれてます。さらに本書では、朝鮮籍や韓国籍の選手のこと以外にも朝鮮学校の成り立ちなどにも触れられていて、とても勉強になりました。

 スポーツ実用棚、サッカー棚でも売りたいなとは思いつつも、新書なので置きづらいというものありまして…。でも多くの方に読んでもらいたい本としては新書の方が手に取りやすいですからね。

澤野)置いちゃえばいいんだよ笑 担当者の了解とってさ。

阿久津)そうそう、例えばウチの店だと掛けラックで雑誌の棚に差したりしてる。

半田)度々ニュースになる外国人サッカー選手への差別問題がありますけど、このような本をより多くの方に読んでほしいと思いますね。やはりそう考えると、単行本ではなく新書で良かったかもしれません。

「百年構想のある風景 スポーツ文化が国の成り立ちを変える」傍士銑太著 ベースボールマガジン社刊

 タイトル通り、Jリーグが掲げる百年構想についての本で、Jリーグ公式HPでの連載をまとめたものです。海外では街とその街に暮らす人々の関係、暮らしの中に自然とサッカーがあり、自分たちの街にサッカーチームが溶け込んでいる様子が描かれていて、そこにはJリーグが目指している人々の姿があるんです。

 1つ1つの話はWEBでの連載なので文は短いのですが、読みやすいうえに濃密でグイグイ読めます。短いので持ち歩いて読むのにもすごく良いです。

 先々ですけれど、日本でもサッカーがこんな風になったらいいなあと思いましたね。
私は読み終わった本は手放してしまうことが多いのですが、この本はずっと手元に残してあって、たまに手にとって読むと、やっぱりこの本いいなあとなるんですよね。

澤野)この本みたいに、読んでいて情景を思い浮かべることができるような作家さんがもっと増えてくると、サッカー文化もさらに根付いてくるんでしょうね。

阿久津)今、パラパラと読んでみて昔の「Number」の雰囲気を感じました。

半田)これはサッカー好き、とくにJリーグのサポーターの方にも読んでみてほしい1冊です!

●阿久津洋明
 啓文堂書店南大沢店から府中店を経て、現在は狛江店店長。 FC東京のサポーターだが、出身は伊勢原なので湘南ベルマーレにも注目している。休みの日には子どものサッカーチームのコーチとして活動中。

「急いてはいけない 加速する時代の「知性」とは」イビチャ・オシム著 ベスト新書刊

 オシムさんがジェフ時代に教えていた阿部選手や羽生選手から一般のサラリーマンまで10人以上の人たちの疑問や悩みに対してQ&Aでオシムさんが答えていくという内容です。

 サラリーマンの方であれば、仕事の悩みを持ちかけるのですが、答えるのはオシムさんなので、そこはやっぱりサッカーに例えるんです。オシムさんの教え子さんたちの悩みも出てくるのですが、その内容がある意味、女々しくて笑 意外性も含めてすごく面白いんです。それだけオシムさんという存在が彼らの心の中に残り続けていたんだと想像しました。

 自分自身が今、子どもたちにサッカーを教えるのに悩んでいるせいなのか、オシムさんの言葉がすごく沁みるんです。それに教えていると子どもたちにも色々と質問されるんですよ。技術的なことだけじゃなくて。その時にちゃんと答えてあげないといけないっていう気持ちもありますし。そういった指導者の立場からの見方としてもすごく参考にもなりました。

澤野)オシムさんはわかりやすくというより哲学的な感じですか?

阿久津)そうですね。やはりオシム節といいますか、独特な言い回しな部分もあります。答えは教えてくれないんですよね。自分で考えなさいというメッセージなんだと思ってます。

「サッカーで子どもの力を引きだす池上さんのことば辞典」池上正著 カンゼン刊

 カンゼンさんの企画で出すのもちょっと微妙かなとも思ったのですが・・・これも先程の本と同じで、子どもの指導に使えるかなと思って読みました。

 この本で著者の池上さんが言い続けているのは、とにかく「大人が決めつけてはいけない」ということで。教えないということじゃなくて、こういう選択肢もあるんじゃない?という提示であったりとか教え方には正解がないんだということをずっと言っているんです。

 やっぱり子どもたちって言うこと聞かないじゃないですか笑。それに練習をしていても5分位で飽きちゃうんですよ。集中させるためには、楽しいと思わせる必要がありますよね。そこで、どうすれば楽しくスポーツをさせることができるかを池上さんが提示してくれるんです。

 なので、いつも読みながら「こういう教え方もあるのか~」と反省していたりします。仕事も一緒なところもありますしね。

澤野)実際に本で紹介されている言葉を使ったりしましたか?

阿久津)使いました!子どもたちそれぞれが自分のやりたいように蹴っていたらサッカーとして成立しないですし、最近は「サッカーは思いやり」という言葉を伝えています。自分も常にこの言葉を頭の片隅に置いて、子どもたちに接していますね。蹴る人がいれば、必ずそのボールを受ける人もいるわけですから。それをわかってもらおうと。怒っちゃったりもしますけどね、子どもにも、仕事のバイトさんにも笑

澤野)実践するのは難しいですね~

阿久津)この2冊に共通しているのは「自分で考えよう」ということですかね。そして、考えて出した答えを否定しないというか。そういう部分が似ていると思います。

半田)未読なのですが、かなりサッカーに寄った内容ですか?それとも一般的なことにも応用できそうな感じですか?

阿久津)一般的なことにも応用できると思います。内容はジュニアサッカーなので子どもたちに向けていますけど自分の仕事と人間関係に当てはめることもできるはずです。全部ではないですが。

司会)ということで、皆様にそれぞれのオススメサッカー本をご紹介いただきました!この中から1冊、本日のサッカー本大賞を選んでいただきたいと思っていたのですが、サッカー本の中でも小説、ノンフィクション、自伝、指導書などジャンルも、読んでほしい対象読者も違いましたし、ここは皆様が選んでいただいた本をすべて大賞とさせていただきたいと思います!

一同)笑

司会)ご賛同いただいたということでよろしいでしょうか笑

澤野)あとは担当者がいかにいいな!と思ったサッカー本を「売りたい!」と思えるかどうかですね。ジャンルの垣根を超えてどんどん新しい読者に届けてほしいです。

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