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代表 6年前

クロアチアが「選手追放」の混乱にも揺らがない理由。強く結ばれた“家族”の絆【ロシアW杯】

text by 長束恭行 photo by Getty Images

ハリルホジッチ監督が語る“チーム”

 天性のゴール嗅覚と巧みなポストプレーを備えたカリニッチは、リソースの限られたクロアチア代表にとっては貴重なオプションだった。代表出場41試合のうち、半分以上(24試合)は交代出場にもかかわらず15得点を記録。昨年11月9日のギリシャとのワールドカップ欧州予選プレーオフ第1戦ではダリッチ監督の先発起用に応え、先制点につながるPKをもらうだけでなく、得意のバックヒールで追加点を相手ゴールへと流し込んだ。

 しかし、昨季のカリニッチは移籍先のミランで大スランプに陥ったことで代表内のステータスも低下。ホッフェンハイムで好調の後輩アンドレイ・クラマリッチにも抜かれ、ワールドカップ出場に対して焦りを感じていた。

 これまで大舞台はEUROを3度経験しているものの、4番手FW、3番手FW、2番手FWとステータスは回を追うごとに上がりはすれど、出場時間は計136分間に留まっている。サポーターの不評を買ったミランを1年で追いやられるのは確実だっただけに、彼自身がロシアワールドカップに期するものは尋常ではなかったはずだ。

 ただ、クロアチア国内でカリニッチを擁護する者は少なく、世論は圧倒的に追放を「英断」として尊重している。ネット上のアンケートでは実に「86%」がダリッチ監督支持に回った。クロアチア最大のスポーツ紙『スポルツケ・ノヴォスティ』の代表番、ドラジェン・アントリッチは追放劇を報じた記事をこう結んでいる。

「クロアチア代表で大会中に選手が追放されたのは初めてで、これは最大の激震といえる。だが、よくやった、ダリッチ監督。まだ、攻撃のオプションは充分に残されている。クロアチアの野心は低くなるどころか、更に高まるだけだ」

 カリニッチに同情を寄せた1人が、前日本代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチだ。1982年のスペインワールドカップではユーゴスラビア代表の予選突破の原動力になったのにもかかわらず、本大会では政治的な理由が絡んで出場時間が計61分間に限られた。『GOAL』のクロアチア語版のインタビューで彼はこう語る。

「ユーゴスラビア最優秀選手にも選ばれ、ワールドカップでは出場機会がたくさんあると確信していたのに、トレーニングで監督の構想に自分がないと分かった時の不愉快な気分といったら。私は怒ったし、失望もしたし、他の選手以上に練習量を増やした。しかし、規範の枠外へと飛び出すことは一度もしなかった。

カリニッチもそう振る舞うべきだったのだ。彼がどう感じているかは自分の肌を通して知っている。ただ、監督にとっても単純な話ではない。試合に出たくとも23人全員が出られないことも選手たちは尊重せねばならない。そんな選手時代の苦い経験から、今は選手たちに対してなるべく誠実であろうと励んでいるのかもしれないね」

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