身と外見のギャップ
容姿端麗のサイドハーフ、ディビッド・ベッカムを思い出す。今ではすっかりファッション・アイコンのベッカムは現役時代からスターのオーラに包まれていた。ただし、プレーヤーとしてのベッカムはかなり地味なハードワーカーだったのだ。史上最高クラスのクロッサーで、ロングキックの精度と美しいフォームがトレードマーク。だが、ベッカムが華麗なのはキックだけで、それ以外は徹底的にハードワーカーだった。止める、蹴るが無類に正確だが、驚くようなアイデアはさほどなく、スピードもドリブルも人並み。しかしスタミナは抜群で、上下動を繰り返して攻守に穴を開けるようなことはなかった。
金髪と端正な顔立ちのフォシュベリはヒラメキがあり、一振りで局面を変えるシュートやパスを繰り出せる。キープ力も優れている。典型的な10番タイプにみえるが、むしろ10番の仕事ができるハードワーカーなのかもしれない。容姿で勘違いしそうだが、本質的にはそうなのだと思う。というのも、RBライプツィヒで頭角を表したスターだからだ。
スポーツディレクター、ラルフ・ラングニックがプレースタイルをデザインしているRBライプツィヒはブンデスリーガの異端児だ。強度の高いプレッシングと錐で穴を開けるような中央突破の組み合わせで旋風を巻き起こした。わざと狭い場所に人数を集めて攻撃し、そのために守備に切り替われば即座に相手を封鎖することができる。ハイテンポの攻守を連続させることで相手を巻き込んで分解してしまう独特のサッカーだ。
そのスタイルを実現するために、ライプツィヒは若くて走れる選手を重点的に補強している。技術や経験ではなく、走れることが何よりも重視される。フォシュベリもそうした補強計画に沿って獲得した選手なのだ。
ハードワークをしながら一瞬のチャンスに技術とインスピレーションを集中的に発揮する。フォシュベリはそうした役割に慣れているに違いない。外見的には我慢のサッカーのスウェーデン、そして我慢の10番フォシュベリだが、彼らにとってはそれが当たり前なのだと思う。
(文:西部謙司)
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