我慢の10番
スウェーデンをベスト8へ導いたスイス戦のゴールは、左サイドからカットインしての右足という得意の形からだった。相手に当たってコースが変わってのゴールだったが、エミル・フォシュベリに何ができるかを示していた。
スウェーデンの10番は特権階級ではない。4-4-2の左サイドを担当し、受け持ちエリアでの守備をしっかりと行う。守備のときのフォシュベリは機能的なゾーンディフェンスにおける1ピースにすぎない。“スカンジナビアン・ブロック”を構成する歯車の1つであり、そこで要求されているのはいわば機械的な作業だ。
多くの時間を守備に費やしているスウェーデンは、それが天職のように黙々と部品としての仕事を遂行できる選手で占められている。フォシュベリはその中では異質な選手だ。
長身2トップへの単調な縦ポン攻撃になりがちなスウェーデンだが、フォシュベリだけは違うアイデアとテクニックを出せる。守備の任務があるので自由奔放とはいかない。動ける範囲は左サイドから中央まで。それでも彼がボールに触れるとリズムは変わり、何かを生み出すことができる。
ただ、同じような感覚を持った選手がいないので、フォシュベリのインスピレーションは単発に終わりがちだ。何かが起こりそうで結局何も起きないことも多い。相当フラストレーションが溜まるのではないかと同情したくもなる。
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