フットボールチャンネル

代表 6年前

クロアチア、強さの根源。始まりは「ギロチンマッチ」。指揮官が不屈の魂を植え付けた道のり【ロシアW杯】

text by 長束恭行 photo by Getty Images

主力選手の大量離反が戦術変更の契機に

 ダリッチ政権最初の危機は、今年3月のアメリカ遠征だ。ワールドカップに向けて結束と相互理解を深めようと戦術確認よりはチームビルディングに重きを置かれたが、初戦のペルー戦(0-2)で完敗すると、ダリッチ監督の手腕を疑問視するメディアから非難が集中。更に彼を厳しい立場に追い詰めたのは、クラブからの帰還命令に主力6人(ルカ・モドリッチ、FWマリオ・マンジュキッチ、GKダニエル・スバシッチ、FWイヴァン・ペリシッチ、FWニコラ・カリニッチ、MFマルセロ・ブロゾヴィッチ)が応じたことだ。3日後のメキシコ戦では若手主体のチームで挑まざるを得なくなった。

 これを機にダリッチ監督は大胆に戦術変更を決めた。それまでのクロアチアはテクニカルな中盤とフィジカルの強いアタッカー陣の即興に頼った「自分たちのサッカー」だったが、ポゼッションを捨てて自陣にブロックを築き、ロングボールを競わせるスタイルに転換。ポゼッション率は36%まで落ちたが、決定機ではメキシコを上回り、バルセロナの帰還命令を拒否したMFイヴァン・ラキティッチのPKで1-0の勝利。代表初先発のFWアンテ・レビッチは、闘争心みなぎるパワーとスピードで一躍レギュラーに名乗り出た。試合後、ダリッチ監督は吠えるようにメディアにぶちまけた。

「クロアチアはこの10年間、大舞台で何も成し遂げていないじゃないか! 誰一人だろうとスタメンは確約されていない。過去の栄光にすがって生きる選手のせいで私は苦しむことなんてできない」

 右足首アキレス腱の故障から1年近いリハビリを克服し、ようやく戦列に復帰したCBヴェドラン・チョルルカも指揮官の主張に呼応する。

「彼ら6人が去ってしまったのは残念だ。そう頻繁に僕たちは集まれるわけじゃない。ワールドカップ開幕まで3ヶ月もないんだよ。そもそも代表を去る理由なんて誰にも見つからない。遠征に参加した全選手が最後まで残って、2試合を戦うべきだったと僕は思うんだ」

 代表に12年間貢献し、多大なる影響力を持つベテランの意見は、去った選手たちの心に響いたはずだろう。こうしてクロアチアは開幕前の危機を乗り越えた。

1 2 3

KANZENからのお知らせ

scroll top