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日本代表 6年前

「すべて人のせい、周りのせい、環境のせいにする」。南アW杯躍進が示す日本社会の課題と改善点【岡田武史×小野剛 特別対談】

text by 粕川哲男 photo by Editorial Staff

「この国はリーダーが必要なんじゃなくて、主体性のある大衆が必要」

 岡田  いま問題になっているスポーツ界のパワハラの問題も、殴って勝つ現実があるから起きてしまう。それは、選手が主体性を持っていない証拠。監督に殴ってもらって初めてコノヤローと奮起する。これはブラックパワー。ブラックパワーはものすごく強力だけど長続きしない。そうじゃなくてホワイトパワーと言うかどうか知らないけど、選手たちが主体性を持って動いて、勝つ日が来なきゃいけない。そういった意味での大きな実験を、いま今治でやっているんだよ。

小野  今治での様々な活動はまさにそうですね。

岡田  メソッドとかいろいろ言っているけど、一番大事なのは自分で自分の人生を生きることができる、主体性のある人間になれるかどうか。うちの会社でも、残業しないで早く帰れと言うと、「仕事があって帰れません」と言う。いや、お前がいま席を立って、家に帰ればいいだけ。帰れる。そうして「これだけ仕事が多過ぎてできません」と言えばいい。人のせいにしないで、「お前が自分で自分の人生を選べばいい」と言っている。この国はリーダーが必要なんじゃなくて、主体性のある大衆が必要なんです。

小野  一人ひとりが主体性を持つことの大切さですね。

岡田  これまでずっと、国民性や制度、教育の問題としてきたから、簡単じゃないことはわかっている。だけど、ひょっとしたらスポーツで変えられるんじゃないかと思い始めて、そういう希望を持って今治で頑張っている。よく言うじゃん。試合後「リードを守るのか、もう1点取りにいくのかわかりませんでした」と。あれを聞くとバカじゃねぇかと思う。そんなの、お前たちが決めればいいんだから。

(文中敬称略)

岡田武史(おかだ・たけし)
1956年8月25日生まれ。大阪府立天王寺高等学校から早稲田大学。大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。 引退後は指導者の道に進み、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。その後、横浜F・マリノスやコンサドーレ札幌などの監督を経て、2007年から再び日本代表監督に。10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国・杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグFC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる。

小野剛(おの・たけし)
1962年8月17日生まれ。千葉県立船橋高等学校から筑波大学。各カテゴリー日本代表チームのスカウティング(戦力分析)活動を行い、アトランタ五輪での28年ぶりの五輪出場、「マイアミの奇跡」などに貢献。その後、フランスW杯アジア最終予選途中、岡田監督にコーチとして抜擢された。2002年には、サンフレッチェ広島監督としてチームを指揮。1年でJ1復帰を果たす。2006~2010年まで日本サッカー協会技術委員長。2009年からFIFAインストラクター。2017年からFC今治のコーチディベロップメントマネージャーを務めながら、2018年から再び日本サッカー協会技術委員に。

【了】

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今号のフットボール批評では、戦術と近未来を総力特集。ポゼッションvsカウンターという二極対立の構図が終わり、いま世界の最前線で何が起きているのか?
本誌ならではの視点で、世界トップシーンにおける「戦い方」の変革に迫ります。

【巻頭特別対談】
岡田武史×小野剛 いま明かす日本代表激闘の舞台裏

【特集Ⅰ】
その戦術はもう死んでいる? フットボールの「戦い方改革」最前線
◎≪近未来のフットボール≫新しい戦術は生まれるのか? 西部謙司
◎≪新しい戦術の教科書≫解題:欧州トップシーンにおける3バック活用法 坪井健太郎&小澤一郎
◎≪最先端戦術の旗手≫サッリ戦術の革新を追う 内藤秀明
◎≪守備戦術 解体新書≫なぜ4-4-2は主流であり続けるのか?  岩政大樹
◎≪戦術ルネッサンス≫最先端の戦術は既存戦術の焼き直しに過ぎない

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