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「ボルト騒動」はなぜ長引き、なぜ幕を下ろしたのか? 世界最速の男をめぐる“大人の事情”

text by 植松久隆 photo by Getty Images

なぜスポンサーは現れなかった?

 本田圭佑は、10月18日の開幕前の会見で、その時点では可能性のあった「本田対ボルト」対決に関して日本メディアから聞かれて、「どこか興味のあるクラブがあれば(獲得に)手を挙げてくれればいい」とリップサービス気味に答えていたが、ボルトがCMMと破談になったタイミングでは、既にシーズンが動き出していたこともあって、ボルト獲得に興味を示すクラブは皆無。

 これすなわち、ボルトの純粋なスキルベースでのプロ選手としての「価値」は、年棒1,200万円でもまだ高いということの証左。スポンサー絡みでの美味しい思いができないならば、戦力たりえない選手を囲っておくほどの余裕は、Aリーグの10クラブの小さなコンペティションにはない。

 さらに言えば、CCMの契約交渉の段階で「では、私たちが…」と二者のギャップを埋めるべく名乗りを上げるスポンサーが現れなかったのにも、どうやら大人の事情がありそうだ。

 というのも、ボルト個人の豪州でのスポンサーは豪州第2の通信会社Optus。同社は、昨年度、長らく主だったサッカー中継をほぼ独占してきたFoxtelからプレミア・リーグ独占中継権を奪い、自らのネットワークOptus Sportsでの配信サービスを始めた。

 さらには、今季のAリーグからOptusの不倶戴天の敵ともいうべき旧国営通信会社Telstraが、Aリーグのストリーミング配信を行うようになった。ようは、Aリーグ/FFAが関係深い大型スポンサー2社とOptusは直接的に競合しているという図式がある。

 ライバルのOptusの広告塔であるボルトがAリーグの話題をかっさらうのを好ましく思わない勢力が、影響力を行使したとするのは、ボルト側の要求額とのギャップを埋めるスポンサーが最後まで現れなかったことと併せて考えると、妙に合点が行く話だ。勿論、これは推測の域は出ないのだが、あながちあり得ない話でもないということで付記しておきたい。

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