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「ボルト騒動」はなぜ長引き、なぜ幕を下ろしたのか? 世界最速の男をめぐる“大人の事情”

オーストラリア・Aリーグがかつてないほどに世界的な注目を浴びた。セントラル・コースト・マリナーズは、練習生として帯同していた陸上短距離界の元世界王者ウサイン・ボルトと正式な契約を結ばないことを発表した。この結論が出るまでに多くの時間を費やした理由とは。(文:植松久隆)

text by 植松久隆 photo by Getty Images

“どこかで”マリナーズを応援してくれているはず

ウサイン・ボルト
セントラル・コースト・マリナーズに無期限練習生として参加していたウサイン・ボルト【写真:Getty Images】

 11月1日、ダラダラ長びいていた「ボルト劇場」の幕がようやく下ろされた。

 Aリーグのセントラル・コースト・マリナーズ(以下CCM)が、無期限練習生として帯同していた元陸上の世界王者ウサイン・ボルトと正式な契約を結ばないことで本人側と合意したと発表。すでにボルトは、チームを離れていることも明かされた。

「ようやく終わった」

 率直な感想だ。それにしても、結論が出るまで時間が掛かり過ぎた。明らかにプロレベルに達していない選手と契約するかどうかの騒動が、大事なシーズン開幕後までもつれ込んだ弊害は大きい。CCMが、開幕3戦いまだ勝ち星なしとスタートで躓いた遠因に、この騒動の影響があるのは否定できない。

 10月27日、今季のAリーグ開幕2戦目、引き分けに終わったホーム開幕戦の試合後の会見で、実際の試合を戦った選手ではなく契約すらしていないボルトのことを聞かれて、マイケル・マーヴィー監督はいら立ちを隠さずに語った。

「彼(ボルト)は『頑張れ、マリナーズ』みたいなインスタグラムを上げていたし、どこかでマリナーズを応援してくれているはず。でも、すべてのファンが同意してくれるだろうが、今日は彼についてではない。今、ここで、素晴らしい働きをした選手たちについてだ。確かに、ウサインは過去8週間ほど我々のファミリーの一員だった。それは素晴らしいことだが、今日は(プレーをした)選手(について話すべき)だ」

 今、思えば思わせぶりなコメントだ。「どこかで応援している」なんていうのは「もう関係が無い」と言わんばかりだ。実際、その3日後には冒頭のリリースが発せられるわけで、もうこの時点で話は付いていたのだろうか。少なくとも、マーヴィー監督の肚は決まっていたはずだ。

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