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アルゼンチンが見せつけられた力の差。ブラジルの圧倒的だった質、何が運命を分けたのか?【コパ・アメリカ】

コパ・アメリカ2019(南米選手権)・準決勝、ブラジル代表対アルゼンチン代表が現地時間2日に行われた。1993年大会以来の優勝を目指してこの一戦に挑んだアルゼンチンだったが、ブラジルの質に圧倒され、結果的に0-2の敗北を喫して3位決定戦に回ることになってしまった。試合の運命を分けたポイントは一体どこにあったのだろうか。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

今大会屈指の好カード

アルゼンチン代表
アルゼンチン代表はブラジル代表に0-2で敗れた【写真:Getty Images】

 ライバル同士らしい、激しく、そして熱い試合だった。現地時間2日、ミネイロン・スタジアムで行われたコパ・アメリカ2019(南米選手権)・準決勝のブラジル代表対アルゼンチン代表は、やはり期待を裏切らない今大会屈指の好カードになったと言えるだろう。

 国歌斉唱からお互いの気持ちが表れていたこの一戦。試合は立ち上がりからアルゼンチンがテンション高く挑んでいた。高い位置からプレスをかけ、ボールホルダーに対して2人以上で囲んでマイボールへと持っていく。攻撃時はアンカーのレアンドロ・パレデスにパスを集め、そこからビルドアップしてブラジルの守備陣を攻略しにかかった。

 守備時はインサイドハーフのマルコス・アクーニャ、ロドリゴ・デ・パウルの両者が中盤で豊富に動き回って相手に自由を与えず。激しく身体をぶつけ、ブラジルに対し気持ちよくプレーさせることはなかった。

 15分過ぎまで、アルゼンチンはブラジルと互角の戦いを演じた。いつもより高い集中力を持って挑んでいるのは明らかであり、リオネル・メッシですらも守備に献身的と、この一戦に懸ける想いは選手の表情からも伝わってきた。

 それでも19分、アルゼンチンは痛恨の先制点を献上してしまう。右サイドを突破したダニエウ・アウベスがパレデスをかわしてサイドに開いていたロベルト・フィルミーノへパス。ボールを受けた背番号20は中央へグラウンダーのクロスを送ると、最後はガブリエル・ジェズスが冷静に合わせゴールネットを揺らしたのである。

 決勝進出へ向けまずは同点に追いつきたいアルゼンチンはその後、反撃に出る。とくに後半はブラジルを押し込んだ。リオネル・スカローニ監督もアンヘル・ディ・マリアやジオバニ・ロ・チェルソをピッチに送り出すなど、全体の意識を常に前へと向かせたのである。

 それでも、だ。今大会で無失点を誇っているブラジルの守備に手を焼いたアルゼンチンは、うまくブロックを攻略できず苦しむ。ディ・マリアやロ・チェルソといった交代選手も起爆剤とはなれず、時間ばかりが過ぎていった。

 反対に、ブラジルに追加点を献上する。61分、G・ジェズスに左サイドを突破され、最後はフリーとなっていたフィルミーノにゴールを割られたのである。この時点でアルゼンチンの決勝進出は、ほぼ不可能となっていた。

アルゼンチンが攻略された部分

 結果、アルゼンチンはこのまま0-2の敗北を喫し、1993年大会以来の優勝を果たすことができなかった。シュート数は相手の倍近い14本放ち、支配率でも上回ったが、ブラジルの“壁”を突破するにはまだまだ力不足だったと言えるだろう。

 しかし全体的にすべてが悪かった、という印象はない。厚みのある攻撃でブラジルを苦しませていた時間帯があったのは明らかであり、守備も結果的には2失点となったが、被シュート数はわずか4本だ。少ないチャンスを確実にモノにしたブラジルのクオリティは評価すべきだが、90分間を通して「完敗」とまではいかないのではないだろうか。

 ただ、力の差があったのは確かだ。とくに、この試合に限って言えば個の能力ではブラジルの方が圧倒的に上回っていたと言えるだろう。

 中でも存在感が際立っていたのがダニエウ・アウベスとアレックス・サンドロの両サイドバック+アルトゥールとフィリッペ・コウチーニョのインサイドハーフだ。

 彼らの怖さが最も引き出されたのが守→攻へ切り替わる瞬間である。とくに右サイドのD・アウベスとアルトゥールがこの日のアルゼンチンを最も困らせた存在と言っていいだろう。

 ボールを奪った際、D・アウベスとアルトゥールは絶妙な距離感を保っており、こうしたことによってパスをテンポよく交換できる形となる。アクーニャは主にD・アウベスを捕まえにいくのだが、彼らの巧みなボールコントロールと繊細なタッチに翻弄され、無力化されてしまった。

 ワンタッチパスを織り交ぜながら中盤をいとも簡単に突破できれば、ブラジルの攻撃時における選択肢は格段に広がる。数的にも有利な状況を作ることができ、パレデスの脇のスペースを効果的に使うことができるのだ。もちろんその際には様々なアイデア、落ち着きぶりなどが必要となるが、とくに右サイドを幾度となく突破したD・アウベスはそうした点でもアルゼンチンの選手を上回った。先制ゴールの場面でも、落ち着いてパレデスをかわし、フィルミーノへのパスコースを確保していた。

 反対の左サイド、A・サンドロとコウチーニョは右サイドとは少し違った形を見せた。背番号12はD・アウベスほど攻撃参加する機会がなかったが、常にコウチーニョのサポートに回れる位置を意識。そのことにより、背番号11をマークするデ・パウルはややA・サンドロ側のパスコースを切りながら寄せていくが、それを逆手に取ったコウチーニョは華麗なターンなどで抜き去り中盤を突破。こちらも相手のインサイドハーフの選手を引き出してそこを“個”の能力で打開するという形ができていた。

 アルゼンチンはここをうまく攻略されてしまったのが、なんとも痛かった。

メッシを封じた男の貢献度

カゼミーロ
メッシを封じたブラジル代表MFカゼミーロ【写真:Getty Images】

 守備面でブラジルの質を見せつけられ苦戦したアルゼンチンは、攻撃面でもある男の能力に手を焼いた。それがMFカゼミーロである。

 ボール奪取能力に長けるなど主に守備面でその存在感を引き出す同選手はこの日、メッシを封じる役割を与えられていた。基本、攻撃時にトップ下のような位置でプレーする背番号10に対し、カゼミーロはほとんど中盤底のポジションから動かず、メッシを迎え撃った。

 しかしそれは、ただ単純にボールへ向かって飛び込むといったものではない。セルヒオ・アグエロ、ラウタロ・マルティネスのどちらかのパスコースを切りながらメッシと対峙し、自分の足を出せる範囲内までレフティーを誘導させてから、足だけでなく身体をぶつけうまくボールを奪い取っていた。

 仮に2トップへパスを通されてもすぐに身体を回転させCBと2人で挟み込む守備を意識。その際も走り出すメッシの位置を確認しながらボールホルダーへ向かっていくなど、守備のクオリティは非常に高かった。

 カゼミーロはこの日、両チーム合わせてトップとなるタックル数9回を記録。空中戦の勝利数でも5回で両チーム合わせてトップとなる成績を収めるなど、ピッチ内でその存在感を光らせたのは明らかだった。

 ドリブルからボールを失ってピンチを招くシーンがあったのも事実だが、ディフェンスでの貢献度と献身性はこの試合に出場した選手の中でもトップクラスのものがあったと見ていいだろう。メッシがこの男に捕まり、全体の攻撃がペースダウンしてしまったのも、アルゼンチンからすれば痛手であった。

 1993年大会以来となるコパ・アメリカ優勝を果たせなかったアルゼンチン。まだ3位決定戦が残っているが果たして最後は笑って大会を去ることができるだろうか。

(文:小澤祐作)

【了】

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