世界一の夢を表現する場所。レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブが開拓したサッカーの新たな価値

サッカーで「世界一」を目指せるのはFIFAワールドカップだけではない。ブラジル代表FWネイマールが考案した新感覚の5人制サッカー「レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ」は、世界中の若者たちに夢を与えた。7月にブラジルで開催されたワールドファイナルに日本から出場した2チームの戦いぶりを振り返りながら、世界に挑むことの価値や意味を考える。(取材・文:舩木渉【ブラジル】)

2019年07月27日(Sat)11時07分配信

text by 舩木渉 photo Wataru Funaki, Marcelo Maragni/Red Bull Content Pool
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サッカーで世界一になるということ

レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ
日本女子代表として女子の部で準優勝に輝いたCienciaボスベイビーの選手たち【写真:Marcelo Maragni/Red Bull Content Pool】

 何かの「世界一」に憧れることはできても、本気で目指すことができる人は、世の中でも一握りしかいないのだろうか。今、これを読み始めたみなさんに、そんな経験のある人はどれだけいるだろうか。

 サッカー界で言えば「ワールドカップ」と名のつく大会が、一般的に「世界一」を目指せる舞台として認識されている。男女11人制、年代別、フットサル、ビーチサッカーなどいくつかの「ワールドカップ」があるとはいえ、予選も含めて、それらの舞台に立てる選手の数はごくわずかだ。

 では、サッカーで「世界一」を目指せるのは「ワールドカップ」に挑戦できる少数のトップレベルの選手たちだけなのだろうか。いや、そんなことはない。FIFAが管轄している公式大会の他にも、実はサッカーには無限の可能性がある。

 あのブラジル代表のスーパースター、ネイマールが考案し、ストリート由来の競技性を加えた新感覚の5人制サッカー「レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ」でもワールドファイナルを制せば「世界一」だ。

 今月12日から13日にかけてブラジルで開催されたワールドファイナルには、男女混合の一般の部と女子の部を合わせて40ヶ国以上から集まった全55チームが激闘を繰り広げた。各地の予選に参加した選手の数は6大陸から10万人を超える。これだけの規模であれば、優勝は十分に「世界一」と呼ぶにふさわしい栄誉と言える。

 日本からは一般の部に「FC Capachild」が、女子の部には「Cienciaボスベイビー」が参戦した。ともに6月のジャパンファイナルを勝ち抜いた確かな実力を備えたチームである。

 12日に行われたグループステージでは、両チームとも強敵揃いのグループを首位で突破。全員が海外でのプレー経験を持つ選手で構成されたFC Capachildは一般の部のラウンド16へ、武蔵丘短期大学の女子サッカー部現役部員とOGで組んだCienciaボスベイビーは女子の部の準決勝へ駒を進めた。

 最終的に「世界一」により近づいたのは、Cienciaボスベイビーだった。現役短大生の中貝夢、小嶋菜々、今村南海、小林和音、富井寿里菜、滝沢織寧の6人に、昨年の前回大会も経験しているOGの金勝里央を加えた7人は13日の準決勝でカナダ代表を破り、スロバキア代表との決勝に挑んだ。

準優勝で流した涙

レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ
惜しくも準優勝。試合後には大粒の涙を流す選手も【写真:舩木渉】

 決戦を前に、何人かの選手は「怖い」とつぶやいていた。それもそのはず。スロバキア代表は、Cienciaボスベイビーがグループステージ初戦で0-5の大敗を喫していた相手だった。ネイマール・ジュニア・ファイブは1試合10分、GKなしの5対5で行われ、失点するとさらに1人退場になってしまう。

 初戦のスロバキア戦では先制を許して数的不利になったところから崩れ、全員退場に追い込まれる完敗を喫してしまった。しかし、そこからCienciaボスベイビーは普段から同じチームで練習を積んでいる強みを生かし、短時間で戦い方を修正。先発メンバーやもしもの場合の退場順を入れ替えることでチーム全体のバランスを改善させた。

 迎えた決勝、Cienciaボスベイビーは残り約5分50秒の時点で富井がゴールを奪い、宿敵スロバキア代表相手に先制に成功する。

 だが、フィジカル自慢のスロバキア代表は数的不利を感じさせない迫力で日本のゴールに迫り、残り約3分30秒で同点に。最後は逆転ゴールを許してしまった。5失点の大敗から、先制して追い詰めるところまでいきながら、「世界一」は目の前でこぼれていった。

 キャプテンを務めた中貝は「世界一を目標にしていたので、決勝まで行って、準優勝で終わるのはめちゃくちゃ悔しい」と唇を噛んだ。富井が「初戦で0-5で負けた時は本当にショックでした。でも戦い方を変えて、決勝で先制した時は普通に勝てる気がして、でも余裕を持っちゃった部分があった。追加点を決められた時にはちょっと厳しいかなと思いました」とメンタル面の揺らぎが結果に反映されてしまったと分析した。

 試合が終わった瞬間、大粒の涙を流す選手もいた。小嶋はピッチの外に出ると、仰向けのまま顔を覆ってしばらく泣き続けた。

「ジャパンファイナルは優勝して嬉し泣きをして、試合前は優勝してまた感動して泣くのかな……と想像していたけど、悔し泣きは想像していなかった。それでも本気でやったから勝手に涙も出てきたし、自分の責任もあったから、めっちゃ泣いちゃいました」

サッカー選手として、人間として。世界の舞台で急成長

レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ
レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブに出場した日本代表の選手たち【写真:舩木渉】

 彼女の言う「自分の責任」とは、1失点目の場面だ。「(スロバキアの)1点目は自分が前に出ちゃって、それを我慢して出なかったら裏をやられることはなかった」と小嶋は痛恨の失点を振り返る。それまではゴールの数でも人の数でも勝っていた。それだけに「5人対4人だったので、流れも変わっちゃうじゃないですか。あの1点がなかったらと考えたら…やっぱり自分のせいだなと考えちゃいました」と思いは溢れ出る。

 葛藤もあった。0-5で敗れた初戦に先発していた小嶋は、2戦目からベンチスタートに。決勝前には「素直に言えばスタメンで出るのが嬉しいけど、(金勝)里央さんという助っ人がいるので。一番は優勝することだから、悔しいけど大丈夫」と気丈に振る舞っていたが、その「助っ人」金勝から受け継いだバトンを「優勝」というゴールまで運ぶことができなかった悔しさは、世界の頂点を目前にした舞台がゆえに果てしなく大きい。

 とはいえ、真の成長はこういった悔しさや困難な状況を乗り越えた先にこそ見えてくるはず。そこに「世界一」を目指す戦いの特別な価値がかけ合わさって、他では味わえない唯一無二の経験となっていくのだ。

 中貝は「自分は世代別の代表にも入ったことがないし、世界と戦うのは初めてだったので、体格差やスピード感のある相手とやれることが自分にとって大きな経験だったし、めちゃくちゃ大きな財産になった。海外の選手の実力を知れたので、これからもっと自分もレベルアップしていきたいなと思います」と前を向く。

 世界一を目指す過程で得た自信も人それぞれだ。「仲の良い子たちも多かったけど、私はそんなに上手くないから、サッカーの面では一緒にいて足を引っ張らないか心配だった」という滝沢は、主に途中出場から貴重なゴールをいくつも決めた。そうして勝利に貢献する過程で「みんなとここにいるだけじゃなくて、サッカーでも関わることができた」と手応えを掴んでいった。

 かつてU-17女子ワールドカップで準決勝を経験し、世界の厳しさを知る金勝は後輩たちの成長ぶりを見て「優勝はできなかったですけど、短期間で(スロバキア代表相手に)0-5から1-2に持ってこれたということは、この大会だけじゃなく、後輩たちは普段のサッカーにも役立てられるんじゃないか」と目を見張っていた。

変わりつつある意識

レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ
Cienciaボスベイビーは各国の選手たちから記念撮影攻めに【写真:舩木渉】

 目標とする場所も変わってくる。キャプテンの中貝や富井は「もっと上を目指して、代表に選ばれるように頑張っていきたい」と競技者としての高みを見据える。一方、小林は「やっぱりサッカーって楽しいなと思ったので、これからもどんな形になるかまだわからないですけど、サッカーには関わっていきたい」と生涯スポーツとしてのサッカーに目を向けていた。

 大学卒業とともに選手としてのプレーを辞めようとしていた滝沢の意識も「サッカーが好きなので、サッカーと関わっていけたら良い。少し離れた仕事も考えていたんですけど、国際的にも広まっているスポーツだし、サッカーには携わっていきたいなという気持ちはすごく大きくなりました」と変わり始めている。

 こうしたピッチ内外での人間的な成長は、選手を送り出した武蔵丘短期大学や田本監督が狙っていた通りのものだ。女子サッカー部としての公式戦がある中でも、かけがえのない経験を積むチャンスを与える意味があると監督は言う。

「普段の部活動は閉鎖的なところにありますが、拙い英語を使って自分から海外の選手とコミュニケーションを取ろうとするだけでも彼女たちにとっては大きな成長だと思ったし、プレーに関してもこのパワーやスピード感、体格差は日本では味わえません。

実は今週末も日本に残っているチームには2試合の公式戦が組まれています。今回ブラジルに来ている選手たちがいないことによって他の選手にチャンスが生まれるのも確かで、そこで新たな可能性が生まれるかなとも思っているので、選手たちを連れてきています。

私は大学女子サッカーはなでしこリーグへのステップアップの場だと思っているんですけど、他の大学にはそう考えていない指導者の方もいます。うちは短大だから特になんですが、ステップアップができる環境を作らなきゃいけない。そういう意味で、この大会に出ることによって人としての成長も絶対に生まれるんじゃないかと思っています」

レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ」はオーバーエイジ選手2人までの出場が認められているものの、基本的には18歳以上25歳以下の選手でチームを組まなければならない。若い選手たちにとってはこの上ない機会であり、様々な制約や乗り越えるなければならないハードルがあるとしても、今後男女ともに大学サッカー部などのチームからの予選参加が増えてくればさらに面白くなりそうだ。

アマもプロも関係ない。世界一を目指すことの価値

レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ
FC Capachildは一般の部でベスト8に進出した【写真:Marcelo Maragni/Red Bull Content Pool】

 女子の部で日本代表チームが結果や戦い方を称賛された一方、菅優樹、荻野大悟、加藤禅、吉岡摩周、ルカス・ムライ・アウヴェス、江川雅信、石田仁志の7人でワールドファイナルに挑んだFC Capachildは一般の部の準々決勝で、のちに優勝することになるハンガリー代表に敗れた。

 キャプテンの菅は全ての試合が終わった後、目に涙を浮かべながら「やっぱり思い出すと悔しいですね。すごく準備してきたのと、本当に自分たちの実力が通用した、ハンガリーに勝てば優勝できたかもしれないという思いがあるので」と底知れぬ悔しさを吐露した。

 彼らは「世界一を獲るまでやり続ける」と、来年以降の大会にも挑戦し続けるつもりだ。菅は「アマチュアでも世界一になるというのは、プロで何か達成するのと同じくらい価値があると自分は思っています。何か決めた目標を達成するというのはすごく大切なことだと思うので、自分たちの得意なサッカーで世界一を獲るということにこれからも挑戦を続けていきたい」と言葉に力を込める。

「今までは自分自身もプロになりたかったですし、ワールドカップじゃなきゃ意味がないと思っていたところもあるんですけど、アマチュアでもやっぱりこうやってレッドブルが主催して、ネイマールが中心にいる大きな大会で、サポートしてくれる人たちもいる。それでアマチュアとかプロとか関係ないなって」

 FC Capachildは、Cienciaボスベイビーとは異なる動機で「世界一」に挑んでいる。それでも彼ら彼女らに共通しているのは、頂点を極めるまでの過程の中で自分たちを磨いて成長するとともに、サッカーを通じて生まれる大きなエネルギーを全身で感じることに意義を見出している点だ。

「世界一」を本気で目指す特別な経験は、選手たちの心と体に大きな財産として刻まれ、今後の人生における飛躍への糧となる。サッカーはプレーするだけでなく、多様な側面のある人生をかけて楽しめるスポーツだ。「レッドブル・ネイマール・ジュニア・ファイブ」は特殊なルールで行われるアマチュアの大会ではあるが、サッカー人としての可能性を大きく広げ、夢を表現するチャンスであることも間違いない。

(取材・文:舩木渉【ブラジル】)

【了】

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