リバプールはなぜ、マンCはなぜ隆盛を極めたのか。深い絆が他クラブを突き放す【プレミアビッグ6崩壊・後編】

マンチェスター・ユナイテッドを中心に、アーセナル、リバプール、チェルシー、マンチェスター・シティ、トッテナムの6クラブが<ビッグ6>と呼ばれる。プレミアリーグをけん引してきた6クラブだが、近年ではその勢力図は変りつつある。6クラブはいかにして躍進し、衰退していったのか。ビッグ6崩壊の過程を前後編に分けて追っていきたい。今回は後編。(文:粕谷秀樹)

2019年10月09日(Wed)10時00分配信

シリーズ:粕谷秀樹のプレミア一刀両断
text by 粕谷秀樹 photo Getty Images
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リバプールにも辛酸を舐めた時代が

リバプール
プレミアリーグ第8節を終え無傷の全勝としているリバプール。しかし、つい最近までは業界の隅に追いやられていたのも事実だ【写真:Getty Images】

前編はこちら

 第8節を終了したプレミアリーグは、リバプールが8連勝で首位を走っている。彼らを追えるとすれば、驚異的な攻撃力を誇るマンチェスター・シティを置いてほかにない。

 トッテナムはひとつのサイクルが終わった。マンチェスター・ユナイテッドは暗中模索まっしぐらで、アーセナルもウナイ・エメリ監督の手腕に小さからぬ疑問符が付きはじめている。若手主体のチェルシーは小気味よいフットボールを見せているが、優勝を争うような力はまだない。かくしてビッグ6の構図は崩れ、リバプールとシティの時代がやって来た。

 ただ、彼ら二強も辛酸を舐めている。

 1980年代にイングランドとヨーロッパを席巻した後、リバプールはプレミアリーグが発足した1992年からつい最近まで、業界の隅に追いやられていた。本拠アンフィールドは陰鬱なムードに支配され、メディアも否定的に取り上げる。そう、近ごろのユナイテッドのように……。ロイ・ホジソン、ケニー・ダルグリッシュが率いた2010~11年は、連日のように暗いニュースがヘッドラインを飾っていた。

 諸悪の根源はアメリカ人の共同オーナー、トム・ヒックスとジョージ・ジレットである。彼らはリバプールに愛情を示さず、商品としか考えていなかった。当然、サポーターとの間に深くて大きな溝が生じる。

 強化部門も機能していなかった。ボウデビン・ゼンデン、クレイグ・ベラミー、ジャーメイン・ペナント、ライアン・バベル、アンドリー・ボロニン、グレン・ジョンソン、アルベルト・アクィラーニなど、2000年代の補強は大半が失敗に終わっている。

 もちろん、シャビ・アロンソ、フェルナンド・トーレス、ディルク・カイト、そしてルイス・スアレスのような大当たりもあるが、リバプールにふさわしくない選手の方がはるかに多かった。

ユルゲン・クロップほど魅力的なボスはいない

ユルゲン・クロップ
リバプールを率いるユルゲン・クロップ監督【写真:Getty Images】

 しかし2010年10月、『ニューイングランド・スポーツヴェンチャーズ』(現フェンウェイ・スポーツグループ=FSG)が買収すると、すべてが好転した。『FSG』は財政的な自立、移籍市場の見直し、世界的な企業とのタイアップを三本柱に設定。中長期的な視点に基づく再建プランを実行に移していった。

 その一環がユルゲン・クロップの招聘だ。いま、彼ほど魅力的なボスが存在するだろうか。DFのジョー・ゴメスは「監督として尊敬し、男として憧れる」と全幅の信頼を寄せ、トム・ワーナー会長も賛辞を惜しまなかった。

「優しい心とユーモアを兼ね備えたすばらしいリーダー。選手だけではなく、われわれフロントもユルゲンの魅力に取りつかれている」

 クロップを信頼しているからこそ選手たちは全力を注ぎ、フロントも全面的に支援する。トッテナムとユナイテッド、アーセナル、チェルシーは、リバプールのような関係性が欠如している。彼らの失墜は当然の帰結だ。

 また、強化部門の充実も忘れてはならない。最終的なターゲットはクロップに委ねられ、投資の決定権は『FSG』のマイケル・ゴードン社長が有しているものの、彼らふたりにスカウティング・ディレクターのデイブ・ファローズ、チーフスカウトのバリー・ウィンターを加えた合議制で、市場の動きが決定する。

 買収した当初はチャーリー・アダム、アンディ・キャロル、スチュアート・ダウニングを獲得し、メディアとサポーターに疑念を抱かせたが、近年の移籍はすべて大成功だ。サディオ・マネ、フィルジル・ファンダイク、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、アリソン・ベッカー、アンディ・ロバートソン……。周囲の疑念は一掃された。

『FSG』が中長期的なプランで運営し、人心掌握に長けたクロップが率いているかぎり、リバプールは進撃を続けるだろう。今シーズンの目標はチャンピオンズリーグの連覇と、30シーズンぶりとなるイングランドのテッペンである。今シーズンも好調だ。二冠は十分に考えられる。

クラブを一変させたグアルディオラの招聘

ジョゼップ・グアルディオラ監督
マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督【写真:Getty Images】

「カネで創られたチーム」

 シティを批判する際の常套句だ。『CIESフットボール・オブザーバトリー』の調査によると、直近10シーズンの移籍市場に投下した16億3800万ユーロ(約1965億6000万円!)は、ヨーロッパ最高額。2位にバルセロナを135億円も引き離している。なんだ、バルセロナだってかなり使っているじゃないか。カンテラ重視も今は昔。

 さて、いまでこそイングランドを、ヨーロッパを代表する強豪として名を馳せるシティも、永い冬も経験している。1995/96シーズンにプレミアリーグから陥落し、98/99シーズンはディビジョン2(実質3部)で闘う憂き目に遭った。

 02/03シーズンからプレミアリーグに定着したものの、立ち位置はその他大勢。2008年、『アブダビ・ユナイテッド・グループ』(以下ADUG)が買収した後も、補強戦略はうまくいかない。潤沢な補強費を準備していたにもかかわらず、多くの選手に興味すら示してもらえなかった。

 好条件のオファーは魅力だが、その他大勢への移籍はリスクが大きい。約10年前のシティは、〈ユナイテッドじゃない方〉程度のイメージでしかなかった。〈うるさい隣人〉にもなっていない。要するに、ブランド力の欠如だ。ロベルト・マンチーニ、そしてマヌエル・ペレグリーニによってプレミアリーグを制しても、地味な印象は拭えなかった。

 こうした経緯を踏まえ、『ADUG』は実績、知名度とも申し分のないジョゼップ・グアルディオラの招聘を決断。この人選で潮目が変わった。

 ジョン・ストーンズ、イルカイ・ギュンドアン、レロイ・ザネ、エデルソン、バンジャマン・メンディ、ベルナルド・シウバ、アイメリク・ラポルテ、リヤド・マフレズ、ロドリ……。

 数多くのタレントがグアルディオラに吸い寄せられていく。もしマンチーニだったら、あるいはペレグリーニだったら、彼らはシティを選んだだろうか。デイビッド・モイーズだったら笑われる。

 B・シウバはこう言った。

「もっと上手になりたいから、グアルディオラ監督のシティを選んだ」

 ラヒーム・スターリングも感謝している。

「監督と出会っていなければ、いまオレはここにいない」

フロントと現場が同じ絵を描く

 リバプールの項で触れた深い絆が、シティにも通じている。バルセロナでもバイエルンでも、グアルディオラは確固たる信念がゆえに軋轢も起こしてきた。しかし、彼の薫陶を受けた選手たちが急成長し、直近3シーズンで二度もプレミアリーグを制している。グアルディオラによって、シティのレベルとブランド力が飛躍的に向上したことは間違いない。

 そして今日の隆盛を語るうえで、CEOのフアン・ソリアーノ、ディレクターを務めるアイトール・ベギリスタインの存在も忘れてはならない。バルセロナで苦楽をともにし、フットボールの未来について熱く語り合ったふたりがいたからこそ、グアルディオラはシティにやって来た。もし、ソリアーノとベギリスタインが違う人生を歩んでいたら、ヨーロッパの勢力分布図はまた違う形になっていたはずだ。

 なお、彼ら3名が取り仕切る強化部門の交渉力は世界有数のレベル。定期的にミーティングを開き、戦略の進捗状況をチェックしている。次のビッグムーブは来年夏。ソリアーノも「大胆に動く」と宣言した。

 シティは究極のポゼッション、リバプールはゲーゲンプレスと持ち味は異なるが、ともにフロントと現場が同じ絵を描き、目覚ましい進化を遂げてきた。今後も慎重、かつ大胆な戦略で、突き進んでいくだろう。他のクラブは、そう簡単に追いつけそうもない。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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