フットボールチャンネル

ムバッペ・ショーの開幕!「オレを試合に出す、というのはこういうことだ」。思い出すベッカムの勇姿

UEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループリーグA組第3節、クラブ・ブルージュ対パリ・サンジェルマン(PSG)の試合が現地時間22日に行われ、PSGが0-5と大勝した。この試合で52分からピッチに立ったFWキリアン・ムバッペはハットトリック+1アシストと大暴れ。途中出場で自らの価値を示す姿はかつてのデビッド・ベッカムを思い出す。(文:小川由紀子)

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

負傷から完治。瞬く間に話題をかっさらう

1025mbappe_getty
クラブ・ブルージュ戦でハットトリックを決めたFWキリアン・ムバッペ【写真:Getty Images】

 チャピオンズリーグ・グループリーグ(GL)第3節のクラブ・ブルージュ対パリ・サンジェルマンは、PSGが敵陣で0-5と快勝した。

 3本打ったシュートを3本とも枠内に収め、そのうち2本を得点にするという素晴らしい決定力を見せつけたマウロ・イカルディ、そして5得点のうち3得点をアシストし、もう1点にも直接的に絡んだアンヘル・ディ・マリアも、マン・オブ・ザ・マッチ級の働きだった。

 彼らは、今シーズン、パリ・サンジェルマンがチャンピオンズリーグでどこまでいけるかに、大きな影響を与える2人だ。

 しかしこの試合の話題をかっさらったのは、この男。

 52分にピッチに上がってから、ハットトリック+1アシストと、大暴れしたキリアン・ムバッペだ。

 今シーズンは、リーグアン第3節のトゥールーズ戦でハムストリングを痛めてから欠場が続いていたムバッペ。チャンピオンズリーグGL第1節のレアル・マドリー戦も出場は叶わず、そろそろ癒えたかと思われた9月末、ボルドー戦で後半30分だけプレーして体を馴らすと、3日後のCL第2節ガラタサライ戦には、やはり終盤の30分間だけピッチに上った。

 しかし筋肉の痛みは完全にとれず、10月の代表ウィークも召集を辞退してメンテナンスに集中。インターナショナル・ブレイク後初戦のリーグアン10節ニース戦で、ラスト10分に出場(そして1ゴール1アシスト!)すると、トマス・トゥヘル監督いわく「はじめて試合後に筋肉の痛みを訴えなかった」ことで完治のお墨つきをもらい、このブルージュ戦にも晴れてメンバー表に名を連ねたのだった。

『僕を置き去りにすることなんてできないよ』

 PSGはこの試合、イカルディが開始7分に先制点を決めてリードはしていたが、よく走っては徹底してボールポゼッションを狙いにきたブルージュ相手に、なかなかペースをつかめず、追加点を奪えずにいた。

 ベンチがエリック・マキシム・チュポ=モティンに替えてムバッペをピッチに送り出したのは、そんな状況の中だった。

 するとそこからは、『ムバッペ・ショー』の開幕!

61分、ディ・マリアのクロスの跳ね返りをヘッドで押し込んで1点
63分、エンドラインからの折り返しのパスでイカルディのシュートをアシスト
79分、ディ・マリアのパスを受けてドリブルからシュート
83分、ふたたびディ・マリアのパスからシュート

 あっという間にハットトリック完成。プラス、イカルディの得点をアシストし、気づけばスコアは0-5と、PSGが大勝していた。

「てっきり今日は自分は先発すると思っていたんだ。だけど監督の決めたことだから仕方がない。受け入れたよ。だからこそ、『僕を置き去りにすることなんてできないよ』ということをプレーで証明したかった」

 試合後ムバッペは、TVリポーターに、この試合にこめた思いを話した。

『ハットトリックに1アシスト』は、十分な証明だろう。

 そして何より、この自信こそが彼の最強の武器であることを、ムバッペは結果で示してみせた。

圧倒的な存在感。ムバッペの姿に重なるのは…

1025beckham_getty
当時マンチェスター・ユナイテッドに所属していたデビッド・ベッカム【写真:Getty Images】

 この試合のムバッペを見ていて思い出したのは、デビッド・ベッカムだ。

 マンチェスター・ユナイテッドで最後の年となった2002/03シーズン、彼の去就は不安定だった。敗戦に怒ったサー・アレックス・ファーガソン監督が蹴ったスパイクがベッカムの額を直撃する、というロッカールームでの事件もあった。

 オールド・トラッフォードで行われたチャンピオンズリーグ準々決勝、対レアル・マドリー戦の第2レグも、ベッカムはベンチスタートだった。カメラはベンチからイライラした様子で試合を見つめるベッカムの表情を映していた。

 試合はマドリーが先制。ユナイテッドも返して前半は1−1で折り返したが、後半、相手のオウンゴールでラッキーな得点を得るも、ロナウドがハットトリックを決めて、2−3でマドリーがふたたびリードを奪った。

 そんな時だった。63分、ファーガソン監督はついにベッカムをピッチに送り出す。
 すると10分もたたないうちに、ルート・ファン・ニステルローイが倒されて、ユナイテッドが直接FKのチャンスをゲット。静かにボールに歩み寄ったベッカムが、息をするようにふわりと右足で蹴り上げると、ボールはクロスバーに当たって、ゴールの中へと収まった。

 伝家の宝刀を抜いたベッカムに、スタンドは狂喜乱舞した。

 しかしベッカムからは少しも笑みはこぼれなかった。スコアは同点に追いついたが、第1レグとの総計ではまだビハインドだったから。しかしその背中は「オレを試合に出す、というのは、こういうことだ」と語っているようだった。

 試合終了間際にも、ベッカムはファン・ニステルローイのシュートを押し込んで、3−4の逆転勝利に大きく貢献した。

 総得点では及ばずユナイテッドはここで敗退したが、この試合は、彼の真価を存分に証明した一戦となり、翌年ベッカムは、対戦相手レアル・マドリーのメンバーとなっていた。

そしてファーガソン監督は、「彼を先発させていたら、勝ち抜けは十分ありえた」と手痛く叩かれたのだった。

「もう100%万全だ」。暴れっぷりに乞うご期待

「自分にできることを証明したい」
「自分の真価を発揮したい」

 というセリフを聞くことはよくある。とくに移籍後の会見などで目標や抱負を聞かれたときに、そう答える選手は多い。

 しかし、周囲をうならせるほどのレベルでそれを実行するのは、なかなかできることではない。

 ブルージュ戦でのPSGは、それほど切羽詰まった状況ではなかった。

 しかし、「途中出場だとペースをつかむのが難しい」、という選手も少なくない中、負傷明けで途中から出場した20分間で、GKシモン・ミニョレ相手に3点+1アシストを実行してしまえるムバッペの能力、そして精神的なタフさは、やはりタダモノではない。

 試合終了の笛が鳴ると、ムバッペは審判のもとへ駆け寄り、この試合のマッチボールをもらったという。すでにW杯のトロフィーを手に入れた彼にとっても、チャンピオンズリーグでの初ハットトリックは、記念すべきものらしい。

「怪我は完治した。もう100%万全だ。これから思う存分プレーしたい」

 と自信たっぷりに語ったムバッペの、ここからの暴れっぷりに乞うご期待だ。

(文:小川由紀子)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top