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アーセナルはホームで2点先取も逃げ切れない…課題は山積み、もう美しいパスサッカーは見られないのか

プレミアリーグ第10節、アーセナル対クリスタル・パレスの一戦は2-2の引き分けに終わった。アーセナルはこの試合は早い段階で2得点を先取しながらも、結局逃げ切ることが出来なかった。そしてこの試合も今季のアーセナルを象徴させるゲームとなってしまった。(文:松井悠眞)

text by 松井悠眞 photo by Getty Images

主導権を握ったアーセナルだが…

ウナイ・エメリ

窮地に立つアーセナル指揮官ウナイ・エメリ監督【写真:Getty Images】

 この試合はこれまで波に乗れないアーセナルと好調クリスタル・パレスを象徴するゲームとなった。

 リーグ戦第9節終了時点で5位アーセナルと6位クリスタル・パレスの勝ち点差はわずかに1ポイント差と、両者にとって上位に留まるため負けられない一戦となった。特にアーセナルはホームゲームであり、クリスタル・パレスを突き放すチャンスだっただけに、先に2点を奪っておきながら結局追いつかれた結果は悔やまれる。

 この試合フラットの4-4-2の布陣で挑んだアーセナルは、前線に怪我から復帰したFWアレクサンドル・ラカゼットとFWピエール=エメリク・オーバメヤンを並べた。昨シーズン抜群の相性を見せた2人を並べられるようになったのは大きい。また、プレミアリーグ初出場となったDFキーラン・ティアニーも積極的な攻撃参加を見せて好印象を残した。

 試合は終始アーセナルが主導権を握る。データサイト『WhoScored.com』によると、アーセナルはポゼッション57%:43%、シュート本数15本:10本、その内枠内シュートが6本:4本、パス成功率82%:76%と勝っていたのだ。

逃げ切れないアーセナル

 試合は早い時間帯から動き出す。先制点を挙げたのはホームのアーセナル。前半6分、右からのコーナキックに対してGKウェイン・ヘネシーが飛び出すも触ることが出来ず、混戦したボックス内でボールがDFソクラティス・パパスタソプーロスの足元に流れ、それを落ち着いてボレーで沈めてゴールネットを揺らした。

 そのわずか2分後にまた右コーナーキックから追加点を決める。MFニコラ・ペペのコーナーキックに、ニアサイドでFWアレクサンドル・ラカゼットが後ろにすらして、ファーサイドでフリーになっていたDFダビド・ルイスが押し込んだ。

 両チームにとってこの展開は予想していなかっただろう。アーセナルは2点先取も引くことはなく、アウェイチームのクリスタル・パレスは2点ビハインドの状態でも前線からプレスをかけることはなく、あくまでしっかりとブロックを形成して対応した。

 反撃のチャンスを伺うクリスタル・パレスは28分、FWウィルフリード・ザハが左ボックス内で仕掛けると、DFカラムチェンバースが足を引っ掛けてしまいPK。審判はシミュレーションを取るもVARによって判定は覆りPK獲得。これをMFルカ・ミリボイェビッチが落ち着いて決め1点差に詰め寄った。

 そして2-1で迎えた後半、アーセナルは早い段階で失点してしまう。左サイドに開いていたMFジェームズ・マッカーサーがファーサイドにクロスを上げるとFWジョーダン・アユーが押し込んで同点ゴールを決めた。

 その後一進一退の攻防が続く中で、82分にアーセナルがビックチャンスを迎える。左からのコーナーキックにボックス内が混戦。そのこぼれ球をパパスタソプーロスが落ち着いて決めるも、その前のプレーでファールがあったとしてVARの対象になり、ノーゴールの判定になってしまう。ただしVARの映像を見てもファールなのか微妙なシーンであったため、物議の対象になってしまいかねない判定になった。

課題は山積み

 キックオフ時のアーセナルは、中盤4枚に左からペペ、マテオ・ゲンドゥジ、グラニト・ジャカ、ダニ・セバジョスを並べた(後半60分にジャカに代え、ブヨカ・サカが投入されている)。アーセナルは中盤の勝負において負けてしまう場面が多かった。

 前半こそそれなりに良かったものの後半のディフェンス時は、セバジョスやジャカは簡単に脚を出して抜かれたかと思うとその後の戻りは遅く、相手に対するプレスも中途半端であったため、中盤での勝負で負けてしまったのだ。中盤で賢明にディフェンスをしたのはゲンドゥジだけと言っても良いだろう。

 そして、この采配で挑んだのはウナイ・エメリ監督の他に誰もいない。今季メスト・メジルの起用法について色々言われているが、背番号10番の起用法だけでなくチーム全体の起用法について考えなければいけないだろう。今回のように中盤の守備のタスクで不安を抱えた場合、幸いにもアーセナルにはMFルーカス・トレイラがいる。彼のようにディフェンスで貢献出来る選手は現在のチームにとって必要不可欠だろう。

 それでも悪いことばかりではない。この試合、アーセナルの攻撃はここ数試合に比べると幾分か良かったように映った。それも現地時間24日に行われたUEFAヨーロッパリーグ第3節のギマラエンス戦で怪我から戻ってきたラカゼットの存在が大きいだろう。ラカゼットは前線で自由に動き周り、サイドに開く場面を見せれば、少し下がってボールを受けるシーンが多く見られた。これにより攻撃の幅は広がり、リズムを生み出すことが出来た。

 しかしゴール前を固められてしまうと崩すのに苦労してしまう。本来のアーセナルなら相手ブロックを美しいパス回しで崩してゴールを奪える。だが今のアーセナルにそれを望むことは難しい。ダイレクトパス自体が少なく、ブロックを形成されるとどう攻めていいのかわからない状況が続いている。そして、その状況を打破する監督の能力にも期待は出来ない。あの美しいパスサッカーはもう見られないのだろうか。

(文:松井悠眞)

【了】

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