安西幸輝が追う「内田篤人」という理想。痛感した王者との差、常勝を知るが故の葛藤抱え…

安西幸輝がポルトガルでもがいている。勝利に見放され続けるポルティモネンセにおいて、いかに個人の成長を追い求めながら、チームの一部として機能するか。王者ベンフィカに力の差を思い知らされ、サイドバックとしての理想像はよりクリアになってきているかもしれない。(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

2019年11月02日(Sat)12時00分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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「リーグで一番のSB」への挑戦

安西幸輝
ポルティモネンセに所属している日本代表DF安西幸輝【写真:Getty Images】

「自分の価値をどんどん高めていくことによって、周りの人から認められる。リーグで一番のサイドバックになりたいし、そのためには1試合1試合、階段をどんどん踏んでいくこと。やっぱり日本代表のサイドバックのスタメンを絶対に獲りたいので、そこまで気合いを入れてやりたいと思っています」

 この夏、鹿島アントラーズからポルトガル1部のポルティモネンセに移籍した日本代表DF安西幸輝は、強豪ポルトに2-3と肉薄した激闘の後、力強い口調で「リーグで一番のサイドバック」「日本代表のスタメン」への強い思いを口にした。

 あれからおよそ1ヶ月半、今度はリーグ王者ベンフィカに挑んだ。2019年10月30日は、安西にとって忘れられない日になっただろう。「きついっすよ、本当に」。0-4というスコア以上に力の差を見せつけられての完敗に、いつも笑顔を絶やさない24歳の表情は落胆に満ちていた。

「今日に関しては本当に力の差がたくさんあったゲームなので、体力的にというよりは精神的にきつかったですね」

 そう振り返るのも無理はない。ベンフィカはしたたかで、王者の風格に満ちていた。じっと睨みつけるように相手を威嚇しつつ、ここぞという時に牙を剥いて襲いかかる。常に選手の実力差を見せつけながら圧力をかけ続けるポルトやスポルティングCPとは違う質の強さ。クラブを象徴する鷲のような猛禽類というより、まるでサバンナを支配する獣の王ような貫禄があった。

 ポルティモネンセもなんとか抵抗を試みたが、セットプレーの流れから2失点。さらに劣勢から立ち直りきれず疲れの色が濃くなってきたところで、急所をえぐる強烈な2発を浴びて万事休す。選手交代でも試合の流れを変えることはできず、反撃の糸口を掴めないまま敗れた。「精神的にきつい」負け方とは、まさにこの試合のことを言うのだろう。

 1ヶ月半前のポルト戦で、安西は印象に残った選手として2トップの屈強なストライカーや、サイドバックとしてマッチアップしたコロンビア代表ウィンガーの名前を挙げていた。彼らとの対峙で「まだまだ力の差がある」と感じた一方、ベンフィカ戦では同じサイドバックの選手たちに自分との「差」を突きつけられた。

安西が考える「いいSB」とは

 ベンフィカの右サイドバックは元ポルトガル代表のアンドレ・アウメイダが務めた。経験豊富で攻守にソツがない実力者だ。左サイドバックはバルセロナ出身のスペイン人、アレハンドロ・グリマルドだった。左足のキック精度は抜群で、ゲームメイクも個での突破もお手の物。ビッグクラブからも注目を浴びるリーグトップクラスのタレントだ。

「(A・アウメイダは)本当にビルドアップもうまいし、背丈もあってヘディングも上手くて、体も強くて、本当にいいサイドバックだなと思ったし、左サイドバックの選手(グリマルド)はもっといい、すごくいい選手だと思いました。ああいう選手は日本にはいないので、いい勉強になりました」

 グリマルドは現代的なサイドバックに必要な能力を満遍なく備えた、高い完成度を誇る選手だ。先述した通り、プレーの選択肢が豊富で基礎技術も極めて高いレベルにある。安西も「本当にそう思います」と、トップレベルで求められる理想的なサイドバックの姿を目の当たりにした。

 とはいえ日本代表にも選ばれている24歳にも、確固たる「サイドバック」としての考え方がある。

「僕はサイドハーフと後ろのセンターバックがめちゃくちゃやりやすいと言ってくれるサイドバックが『いいサイドバック』だと思うし、本当に最後の局面に顔を出せるサイドバックに一番なりたいんです」

 日本でプレーしていた頃から、身近にいた「いいサイドバック」の模範となる選手を追いかけてきた。内田篤人。かつて日本代表で輝いていた熟練の右サイドバックは、安西にとって目指すべき理想像であり、追い越さなければならない目標でもある。

「篤人くんがシャルケでやっていたのはそういうサイドバックでした。サイドハーフの選手を信頼して、ここぞというときにオーバーラップしてクロスを上げてアシストするとか、そういうプレーを目指しているので。まだまだ理想とはいかないですけど…」

 シャルケ時代の内田は、日本人サイドバックとして新たな境地を切り拓いた。タッチライン際を上下動して、守備では目の前のウィンガーを封じ、攻撃ではオーバーラップしてクロスを上げるだけがサイドバックではない。時に攻撃の起点としてパスでゲームのリズムを作り、ボールを前進させるためのパスの受け手にもなる。

内田篤人という理想形を追いかけて

内田篤人
シャルケ時代の内田篤人。安西幸輝が追いかけるSBの理想像そのものだ【写真:Getty Images】

 内田はひざの負傷によってかつてのような力を発揮することは難しくなってしまったが、安西は鹿島で共にプレーすることで、他の選手とは違う武器を持って世界と戦ってきた先輩の偉大さを肌で感じてきた。サイドバックながらあれほどの存在感で、試合の流れに大きな影響を与えられる選手はそうそういない。

「篤人くんのシャルケ時代のビデオとか、本当に何回も見たし、篤人くんと(フィリップ・)ラームがめっちゃ好きで、あの2人の動画を試合前とか暇さえあればずっと見ていたし、ああいう選手になれるようにやっていきたいです。

(内田とは少しタイプが違う?)そうですね。僕の方がもっと馬力がある。でも、篤人くんの全盛期はめちゃくちゃ足速かったし、俺より絶対速いと思うので、それにプラスでベンフィカの3番(グリマルド)みたいに自分で崩せる、ドリブルで剥がせる選手になりたいなと思っています」

 ただ、サイドバックはあくまで「脇役」だと安西は言う。ゴールを決めるストライカー、ゴールの前に立ちはだかるセンターバックやGKとは違う。味方に生かされてこそ初めて本当の力を発揮できるポジションがサイドバックなのだ、と。

 サイドバックが試合の流れを変える“ゲームチェンジャー”であるべきなのか? 安西はそれに「サイドバックがそれをやってしまったら、チームのバランスが崩れちゃうんですよ。そこが難しくて」と異を唱える。しかし、ポルティモネンセがリーグ戦で2ヶ月以上勝利から遠ざかる中で、どうにかしてチームに貢献したいという思いとの間に葛藤がある。

 鹿島で“常勝”が体に染みついたが故に、勝てないことが何よりも苦しい。「僕は本当に鹿島でずっと勝ってきて、本当に負けるのが嫌なんですよ。今、こんなに勝てていないのは本当に辛い」と苦虫を噛みつぶしたような表情で語る。だが、エゴを出せばチームの歯車が狂ってしまうことも十分に理解している。

「本当は自分で全部やりたいと思っているし、やりたいですけど、ただやっぱりサイドバックというのはそうじゃない。チームが機能して初めて生きるポジションだと思うし、正直言っちゃえば本当に脇役だと思っているので、我慢してやっていますね」

「やっぱり味方がボールをつないでくれて、(パスを)出してくれて初めて生きるポジションがサイドバックだと思うので、僕自身もっと仲間を信頼しなきゃいけないし、もっとボールを出してくれるように味方にアピールしなきゃいけないのかなと思います」

「もっと自分を変えなきゃいけない」

安西幸輝
安西幸輝はベンフィカ戦の経験を今後にどう繋げていけるだろうか【写真:Getty Images】

 ベンフィカ戦は5-4-1の左サイドバックとして先発し、劣勢でも勇気を持って高い位置を取って攻守に奔走した。フリーでサイドチェンジを要求する場面は幾度となくあったが、とにかく味方からパスが出てこない。なかなかボールに触れず、苦しい状況を打開するのに関われない自分にもどかしさを感じないわけがなかった。

 どうやったら勝てるのか。ポルティモネンセは9節までを終えて16位に沈んでいる。1人が成長するだけでは、この危機的状況を乗り越えることはできない。個人の成長だけでなくチームとして殻を突き破らなければ勝利を掴み取ることはできないだろう。

 安西も「今のプレーじゃ絶対に(日本代表に)選ばれるとは思っていないし、今のままじゃスタメンは取れない。もっと自分を変えなきゃいけないし、やることがすごく多い」ともがきながらも、悩んでいるわけではないという。視線の先に見えているものはハッキリしているからだ。

「もっとできるのにという気持ちがあるので、その気持ちをしっかり押し殺して、今はエゴを出さないように、チームのために戦うことが大事だと思います。時にはエゴを出すことも大事ですけど、上手くチームとして戦えるように頑張ります」

 ベンフィカには王者との力の差を突きつけられたが、「リーグで一番」「日本代表のスタメン」を志す上で理想とする選手像はより明確になった。内田やグリマルドを超え、チームの中で機能しながら、個でも違いを作れるサイドバックになる。そのための道は長く険しいが、安西の目はしっかりと前を見据えていた。

(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

【了】

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