ソン・フンミンのレッドカードは、なぜ取り消しとなったのか? 発端は明らかな誤審、VARも機能不全に

今季からプレミアリーグでは、ビデオアシスタントレフリー、通称VARを導入している。主審のジャッジを助け、誤審を減らすはずのVARだがここまでの疑惑の判定の数々を見る限り、運用は完璧とは言い難い。というのも11月に入ってからだけでも、いくつもの疑惑の判定が生まれており、トッテナムの FWソン・フンミンへのレッドカードを巡る問題から検証する。(文:内藤秀明)

2019年11月23日(Sat)10時00分配信

text by 内藤秀明 photo Getty Images
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ソン・フンミンの誤審問題

プレミアリーグ
プレミアリーグ第11節のエバートン戦でA・ゴメスに大けがを負わせてしまったソン・フンミン。この時の主審の判断は正しかったのか?【写真:Getty Images】

 最も怪しい判定のうちの一つはトッテナム所属FWソン・フンミンの一発レッドおよび、その取り消しという事案だ。事件はプレミアリーグ第11節トッテナム対エバートンの一戦で起こった。

 78分、ソンがエバートン所属MFアンドレ・ゴメスに対して後方からタックルをしかけると、それ単体ならやや危ないイエロー相当のレイトチャージだったのだが、ゴメスが転んだ先にはセルジュ・オーリエが待ち構えていた。コートジボワール代表SBと交錯したゴメスは、結果的に足がとんでもない方向に曲がるほどの大けがを負ってしまったのだ。

 この場面、主審のマーティン・アトキンソンは、一度イエローカードに手をつけるものの、ゴメスの怪我の状態が視界に入ったからか、1分ほど後にソン・フンミンにレッドカードを提示。大けがの原因となってしまった韓国代表FWは、自身の犯した罪に対してショックを受けたのか、頭を抱えたまま放心状態で、抗議を一切することなくピッチを後にした。

 さてこの場面、ソンのタックルそのものだけを評価するとイエローが妥当な判定という印象だった。確かに危ないものの、足裏を相手に向けたり、両足でカニばさみしているわけでもない。

 一方で後方からのタックルだったこともあり、絶対にイエローとも言い切れない、というプレーだ。そういう意味ではアトキンソンが迷わずレッドカードを出していれば、この判定は大きな問題にはならなかったはず。もちろんスパーズファンからは「厳しすぎる」という不満の声は上がり、クラブは抗議しただろうが。その場合は主審の判断が優先されてレッドカードの取り消しもなかったかもしれない。

 ただ問題になったのは、アトキンソン主審がイエローを提示しようとしていたにも関わらず、最終的にレッドカードに変えたことだ。

 主審はなぜ判断を変えたのか。まずVARの助言が考えられる。それであれば、これもルール上は問題ない。退場に関するジャッジはVARの助言を聞くことが認められているからだ。その際はよりシンプルに、VARの「レッド判定は正しいのか否か」という部分が論点になったはずだ。

 ただこのパターンだった場合も、VARは機能しているとは断言しにくい。瞬間的に様々な判断を下す必要のある主審とは違うVARなら、精度の高いジャッジが求められる。あのファールをレッドとするのには違和感がある。

何故、審判は判断を変えたのか

 と、VARの助言があった可能性も考慮したものの、スタジアムにある大型ビジョンでは「VARが確認中」の旨の映像は流れず、また試合映像で確認する限りではアトキンソンがVARと交信している様子もなかった。つまりVARの助言なしで、アトキンソンは自身の判断を変えた可能性が高い。

 ではVAR以外が判断を変えるきっかけとするならば、考えられるのは「ゴメスの足の状態を見たこと」と考えるのが妥当ではないだろうか。映像を見る限り、アトキンソンはポルトガル代表MFが苦しむ様子を見る素振りがあった。審判も人間だ。足が曲がっていれば、その視覚情報に引っ張られて判断を変えもおかしくない。

 ただし、「ゴメスの足の状態を見たこと」をきっかけに判断を変えたのが事実だとすると、この判断は決して正しいとは言えない。というのも基本的に審判がジャッジする時は結果から逆算するのではなく、プロセス評価するべきである。あくまでそのタックル自体がゴメスにとって危ないかどうかで判断しなければならない。それでいうと、きっかけはソン・フンミンのタックルだが、骨折にいたったのは芝生に足をとられたから、あるいはオーリエとの交錯である。

 試合が終わった後には、退場理由についてリーグ側から「ゴメスの安全性が脅かされたから」と発表されており、確かに大けがの起点はソンかもしれない。一見この判断は正しいように思える。

 ただ今回のように「ゴメスが骨折したから、タックルそのものはイエロー相当でも、結果的に危ないプレーだったからレッドを提示する」という事例を認めれば、同様のロジックで「足裏で突っ込むレッド相当のタックルだが無傷だったから結果的に危なくなかった。カードはなし」というジャッジがまかり通ってしまう。これでは選手の安全性を守ることができない。おかしい。

VARは何をしていたのか

 リーグから十分な説明がないこともあり、一部状況証拠による推測もあるのだが、ここまでの推測が正しければ、これは「主審の判断の範疇」からは逸脱している誤審である。後日ソンのレッドカード取り消しは非常に妥当な判断だろう。

 一方で、その際、VARは何をしていたのか。こういう判断に悩む微妙な場面で、ゴメスの治療のために時間がある状態だからこそ、VARから主審に適切な助言が行われるべきである。

「ソンのタックル自体はイエローカード相当である」と、VARが助言していないのか。あるいは審判本人が助言を聞いたうえで自身の判断を優先したのかはわからない。

 ただどの可能性を考慮したとしても、1点だけ確かなことがある。現状の運用ではVARは機能していないということだ。もちろん導入は1年目で、しかもオンフィールドレビューを一度も使わない、主審の権限を大きく持たせるなどプレミア独自の運用をしていることもあり多少の運用エラーもあるだろう。

 現段階でVARは即刻やめるべきとは言わない。ただし現状は機能していないという事実を認めて、今後、運用は改善されていくべきである。エンターテインメント性を維持しつつ、即時正しい判定を下すための最適解を今後も模索していきたいところである。

(文:内藤秀明)

【了】

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