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グアルディオラVSモウリーニョ。対極に位置する2つのサッカーはどのようにして生まれたのか【戦術の教科書(1)】

常に進化し続けるサッカー界の「戦術」。世界的サッカー史家がサッカーの進化を読み解く『戦術の教科書』(ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之著/2017年刊)から、一部を抜粋して全3回で公開する。今回は第1回。(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

text by ジョナサン・ウィルソン photo by Getty Images

バルセロナイズムを受け継ぐ存在だったモウリーニョ

ジョゼ・モウリーニョ
ジョゼ・モウリーニョ(左)とジョゼップ・グアルディオラ(右)【写真:Getty Images】

 現代のフットボール界における、戦術のトレンドとは何か。

 5年前ならば、この質問に答えるのは造作もなかった。ピッチ上で圧倒的な強さを誇るだけでなく、戦術論においても一世を風靡していたチームが存在したからだ。ペップ・グアルディオラが率いていた、バルセロナである。

 当時のバルセロナは、まさに眩い光を放っていた。ボール支配率を極限にまで高め、ピッチの高い位置で絶えずプレスを掛けながら、ラ・マシアで薫陶を受けた選手たちが常にゴールのチャンスをうかがう。このスタイルをいかに模倣するかが、フットボール界全体の一大関心事となっていた。

 ただしグアルディオラのバルセロナが、かくも持て囃された理由は他にもある。美しきフットボールに真っ向から異を唱える戦術家、ジョゼ・モウリーニョの存在だ。

 もともとモウリーニョはボビー・ロブソンの通訳としてバルセロナに雇われた人物だったが、程なくして事実上のコーチに昇格。ルイ・ファン・ハールにも右腕として重用されるまでになっている。言葉を変えれば、少なくともこの時点までは、バルセロナのフットボール哲学を踏襲する立場にあったといえる。

 ところがモウリーニョは、古巣と袂を分かったのを機に徐々に変貌。ポルトでチャンピオンズリーグを制してチェルシーに招かれると、理想ではなくリアリズムを追求し、「アンチバルサ」の急先鋒を自任するようになる。 

 そのアプローチが1つの完成型を見たのが、2010年のチャンピオンズリーグ準決勝だった。インテル・ミラノを率いるようになっていたモウリーニョは、ポゼッションを追求するのではなく、ラディカルなまでにポゼッションを放棄することでバルセロナを撃破する。ついにはファイナルでバイエルン・ミュンヘンをくだし、二度目のヨーロッパ制覇を為し遂げた。以降もモウリーニョは、戦術論という名のイデオロギー闘争において、一貫してバルセロナに対抗し続けてきた。

 指導者としてのキャリアと戦術的なバックグラウンドを考えた場合、グアルディオラとモウリーニョを隔てたのは、「クライフイズム」を是とするか非とするかの違いだったともいえる。だが両者の関係性は、戦術史に沿って位置づけても興味深い。

 まずポゼッションを突き詰めたグアルディオラは、最終的にゼロトップに到達している。リオネル・メッシをセンターフォワードに起用しつつも、試合開始のホイッスルが鳴った途端に、「9番」のポジションから忽然と姿を消すことを命じる手法だ。

 結果、当時のバルセロナでは、他のいかなるチームよりも圧倒的なボール支配率を誇り、かつバルセロナ史上、最強とも言われる攻撃的なゲームを展開していたにもかかわらず、他のチームよりもフォワードの枚数が減るという現象が見られた。

 当時は、これを奇策と受け止める向きも少なくはなかった。しかし実態は異なる。長期的な戦術進化のベクトルと重なり合うからだ。

(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

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