ユルゲン・クロップを生み出したグアルディオラの存在。混沌と化す新たな戦術の時代【戦術の教科書(3)】

常に進化し続けるサッカー界の「戦術」。世界的サッカー史家がサッカーの進化を読み解く『戦術の教科書』(ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之著/2017年刊)から、一部を抜粋して全3回で公開する。今回は第3回。(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

2020年01月03日(Fri)10時30分配信

text by ジョナサン・ウィルソン photo Getty Images
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カウンターとプレッシングの融合

ユルゲン・クロップ
ユルゲン・クロップとジョゼップ・グアルディオラ【写真:Getty Images】

 ならば、ここから戦術はどこに向かって進化していくのか。

 結論的に言うなら、確信を持って進化の方向性を予言できる人間など、誰一人いないのではないか。

 一昔前までは、戦術は直線的に進化していた。グアルディオラのようにポゼッションを追求する立場であっても、あるいはモウリーニョのようにカウンターを旨とする立場においても、進化の方向性は明確になっていた。戦術論の座標軸が、クリアーだったからである。

 ところが現代のフットボール界では、戦術論の座標軸そのものが、限りなく不透明になってきている。それは近年、ヨーロッパで存在感を発揮してきた監督たちのアプローチを比較すれば、容易にわかるだろう。

 例えばユルゲン・クロップは、ボルシア・ドルトムントを率いていた頃、モウリーニョ並みにダイレクトに前線にパスを供給する方法と、グアルディオラの5秒ルール並みに激しいプレッシング(ゲーゲンプレス)を組み合わせている。

 しかもクロップは、バルセロナの美学を是とするか非とするかという議論から、このアプローチを導き出したわけではない。若き野心家は、グアルディオラのバイエルンにいかに対抗するかという動機を追求した末に、この着想に辿り着いたに過ぎなかった。

 アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネもしかり。シメオネは4-4-2をベースに、徹底的に守備を固めることでリーガの3強に食い込んだが、彼が最も腐心したのは、スター選手抜きでレアル・マドリーとバルセロナに一泡吹かせることだった。その試行錯誤の中で再発見したのが、シメオネの出身地、アルゼンチンのフットボールに脈々と流れるアンチ・フットボールの伝統だったのである。

 他方、プレミアリーグでは、やはりレスター・シティのクラウディオ・ラニエリがもはや古典的ともいえる4-4-2でリーグを制覇。ユベントス時代のアントニオ・コンテは、過去の遺物とされた3-5-2が、いまだに武器となり得ることを証明している。

 群雄割拠というべきか、はたまた混沌というべきか。現在の状況に比べれば、グアルディオラ対モウリーニョ、ポゼッション対カウンターという二元論で戦術を論じることができた時代は、牧歌的にさえ映る。

 さらに付け加えるならば、今日ではグアルディオラやバルセロナの立ち位置さえ変わり始めている。

 ドイツの皇帝を率いるようになったグアルディオラは、バルセロナ時代ほど極端にポゼッションを追求しなくなったことで話題を集めた。ポゼッション原理主義からの後退は、本家本元のバルセロナでも見られている。

 前線ではメッシにネイマールとルイス・スアレスまで加わり、逆に中盤ではチームの心臓ともいえるシャビ・エルナンデスが存在感を失っていく。ルイス・エンリケはチーム事情の変化を踏まえて、縦に速い攻撃を目指すようになった。

 むろん、バルセロナの哲学が根本から失われたわけではないが、グアルディオラ時代よりもダイレクトなプレーは明らかに増えた。と同時に、守備と攻撃のある種の分業化は確実に進んでいる。

 かつてのバルセロナやグアルディオラは、戦術論を戦わせる際の1つの基準点になってきた。その両者の座標軸がずれたという点でも、戦術進化の方向性を予測するのは難しくなってきたのである。

(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

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【了】

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