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サッカーの戦術とは何か? 黄金時代のバルセロナに「勇敢な戦い」を挑んだ男の生き方【戦術クロニクル(1)】

クライフ、サッキ、グアルディオラ、ジダン…強く美しい戦術はどのような系譜をたどり、いま、まさに究極の戦術が生まれようとしているのか? トータルフットボールの進化という大河の源流と革新を綴る濃密な戦術ガイド本『サッカー戦術クロニクル ゼロ』から一部抜粋して公開する。(文:西部謙司)

text by 西部謙司 photo by Getty Images

「これしか戦い方を知らないからだよ」

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【写真:Getty Images】

 なぜ、その戦術なのか。

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 そう問えば、ほとんどの監督は「勝つためにそうしている」と答えるだろう。確かに、戦術は勝つための方策なのでそれ以外の答えはないはずだ。

 しかし、よく考えてみるとそれだけではないように思える。およそ合理性があるようには思えない戦術を採用しているケースは珍しくないからだ。

 マウリシオ・ポチェッティーノが初めて監督に就任したのはエスパニョールだった。そして就任直後にはバルセロナ・ダービーが控えていた。ペップ・グアルディオラ監督が率いていて、チャビ、メッシ、イニエスタらがプレーしていた黄金時代ど真ん中のバルセロナである。バルセロナ戦までのトレーニングは2回ほどしかなかったそうだ。

 ポチェッティーノ新監督は、エスパニョールの選手たちに対バルサ戦略を説明してトレーニングを開始したのだが、話を聞いた選手たちは不安でいっぱいだったに違いない。ポチェッティーノは前線からプレスをかけていく戦い方をすると明言したからだ。ところが、無謀にしか思えない戦術のエスパニョールはバルセロナに0-0で引き分けた。

「なぜ、勇敢な戦術を採用したのですか?」

 記者がポチェッティーノに尋ねると、答えは極めてシンプルだった。

「これしか戦い方を知らないからだよ」

 そして、ポチェッティーノはこうつけ加えている。

「フットボールには人生が表れる。勇敢な人生をゆくなら、勇敢なフットボールをやるほかにはなく、私は勇敢でありたいと思っている」

 フットボールが人生で、人の生き方ならば、選択肢はたくさんあるようにみえて、そうでもないのだろう。結局はこう生きたいと思ったとおりに生きるしかない。もちろん監督は勝たなければならないが、勝敗の行方は誰にもわからない。であれば、せめて生きたいように生きる。そもそも、簡単に生き方を変えられるほど人間は器用ではないのだろう。

(文:西部謙司)

9784862554130

『サッカー戦術クロニクル ゼロ』


定価:本体¥1500+税

<書籍概要>
単に選手のポジションを交換するからトータルフットボールなのではなく、パスワークのスタイルを貫いた結果、ポジション互換性が必要になってくる。つまり、パスワークこそがトータルフットボールの源ということがみえてきます。(中略) パスワークとプレッシング。この2つをトータルフットボールの成立要件と仮定して、過去から現在に、そして現在から未来へ、トータルフットボールをキーワードに戦術史を紐解いていきたいと思います。 (本書「プロローグ」より抜粋)

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【了】

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