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マンU、必然だった失速。モウリーニョ政権はなぜいつも短命に終わるのか【マンチェスター・ユナイテッドの20年史(終)】

マンチェスター・ユナイテッドは世界屈指のビッグクラブだが、その長い道のりの中で紆余曲折を経験している。1986年から指揮を執るアレックス・ファーガソン監督は、27年にも及ぶ輝かし時代を作ったが、その後は苦しい時期が続く。今回は、そんなマンチェスター・ユナイテッドの現代史を複数回に渡って辿る連載の最終回となる。(文:西部謙司)

シリーズ:マンUの20年史 text by 西部謙司 photo by Getty Images

モウリーニョ見参

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【写真:Getty Images】

 マンチェスター・ユナイテッドは20回のリーグ優勝を成し遂げているが、優勝監督は3人しかいない。

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 初期のアーネスト・マングノールが2回、マット・バスビーが5回、アレックス・ファーガソンが13回。いずれもクラブの黄金時代を築いた名将だ。

 ファーガソン監督退任後、デイビッド・モイーズが監督となったが上手くいかず、ルイ・ファン・ハール監督でも頂点には立てず。2016年夏に新監督となったジョゼ・モウリーニョはFCポルト、チェルシー、インテル、レアル・マドリードと率いたクラブをことごとく優勝させてきた。ファン・ハールも名将ではあるが、モウリーニョにはプレミアリーグでの経験がある。4人目の優勝監督になりうる人物だった。

 ズラタン・イブラヒモビッチ、ヘンリク・ムヒタリアン、ポール・ポグバ、エリック・バイリーと縦軸を補強して臨んだ2016/17シーズンは、リーグカップこそ獲ったもののリーグの順位は6位。ただし、UEFAヨーロッパリーグでは優勝を果たした。

勝負の2年目

 次の17/18は勝負のシーズンだった。モウリーニョは2年目でチームをピークに持っていってタイトルを獲ってきたからだ。ロメル・ルカクとネマニャ・マティッチの補強はモウリーニョらしい。GK、CB、ボランチ、トップ下、CFの縦軸を重視して、攻守に安定感のあるチームを作るのがモウリーニョ流である。

 堅守速攻のイメージが強いが、それは同等以上の相手と戦う場合で、基本的に攻守にバランスのとれたチームを作る。対戦相手しだいで奇策に出ることもあるが、チーム構成はけっこうオーソドックスなのだ。ボランチに起用する選手はモウリーニョの手堅さが表れていて守備力を重視する。アンドレア・ピルロやセルヒオ・ブスケツのようなゲームを作るタイプではなく、しっかり守れる選手を起用してきた。ユナイテッドには欠けていた部分であり、そこにマティッチを持ってきている。

 このシーズン、ユナイテッドは81ポイントを獲った。通常なら優勝しておかしくない勝ち点だったが、シティが強すぎた。勝負の2年目は2位に終わっている。

ファーガソンとの違い

 モウリーニョ監督の2年目が勝負どころなのは、4年目がない監督だからでもある。ユナイテッドでも3年目の12月に解任された。

 縦軸に強力な選手を揃え、守っても攻めても強いチームを短期間で作る。取りこぼしが少なく、強い相手とも張り合える。ただ、2年をすぎると伸びしろがない。選手がピークを過ぎると失速する。早く出来上がるだけに劣化も早い。

 ファーガソン監督のチーム作りと似ているが、ファーガソンの場合は移籍を含めてクラブの全権を掌握していて、先を見据えて世代交代を行うことができた。世代交代の成功が長期政権につながっている。モウリーニョにそこまでの権限が与えられたことはなく、ユナイテッドでもそれは同じだったので、3年目の失速は必然的だったといえる。

 モウリーニョの後任はトレブルのメンバーだったオーレ・グンナー・スールシャールが就いた。ファン・ハール、モウリーニョと続いた大物監督路線が行き詰まり、ファンの受けもいいOBが起用されたことになる。当初は暫定だったスールシャールはまずまずの結果を残して正式契約をとりつける。

 マーカス・ラシュフォード、アントニー・マルシアル、ジェシー・リンガードのFW陣はスピードと個人技に優れ、ユナイテッドらしいイキの良さは出している。スールシャール監督が今後どのぐらいチームを伸ばせるかはわからないが、もし上手くいかなくてもユナイテッドは諦めることも歩みを止めることはないはずだ。

赤いバスは走り続ける

 ファーガソンはユナイテッドを「バス」に喩えている。

 途中で下車する人、乗り込む人がいるが、バスはお構いなしに進んでいく。勝利という次の停留所へ向けて走り続ける。

 ミュンヘンの悲劇でチームが壊滅寸前になったとき、ユナイテッドはすぐに動き始めている。木曜日に大事故があったのに、土曜日のリーグ戦は行われた。リーグ側はその後の試合延期を打診したが、ユナイテッドが拒否した。事故の直前にチャンピオンズカップを戦ったレッドスターからは「ユナイテッドの優勝にしたらどうか」という提案がされたがそれも丁重に断り、残務処理のような準決勝をACミランと戦って敗れた。リーグ3連覇の夢は霧散し、FAカップは決勝まで行ったが優勝を逃した。トレブルを期待されたシーズンは散々なものになってしまった。

 ただ、何があっても前だけを見て自力で進むというクラブの性格は、このときに確固たるものになっている。ユナイテッドという赤いバスは強力なエンジンを装備した。これからもバスは進んでいくに違いない。

(文:西部謙司)

【了】

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