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バルセロナは空中分解寸前? 物議を醸すピケの弱気発言…ピッチ内外に不安要素が山積み

現地19日にラ・リーガ第30節が行われ、バルセロナはセビージャと0-0で引き分けた。優勝争いに大きな影響を与えそうなのは、結果のみならずバルセロナの関係者たちの発言だ。3位のセビージャと勝ち点を分け合ったことからうかがい知れたのは、選手たちとフロントの間に亀裂や意識の違いが存在し、それらがピッチ内外で優勝に向けた障害になりかねないということだ。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

ピケの弱気発言が意味するもの

ジェラール・ピケ
【写真:Getty Images】

「ラ・リーガ優勝は非常に難しいだろう」

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 ジェラール・ピケが珍しく弱気な言葉を残した。現地19日に行われたラ・リーガ第30節で、セビージャと0-0の引き分けに終わった直後の『モビスター・プルス』のフラッシュインタビューでのことだ。

 第29節終了時点で首位バルセロナと2位レアル・マドリードとの勝ち点差は2ポイント。バルセロナが第30節でセビージャと引き分けて1ポイントの上積みにとどまったため、マドリーが21日のレアル・ソシエダ戦に勝利すれば、順位表のトップが入れ替わる。バルセロナは今季のエル・クラシコで1分1敗と負け越しているため、勝ち点が並ぶとマドリーに順位で上回られてしまうのである。

 ピケの発言は、そうした現状を受けてのものだ。

「僕たちはできる限りのことをするつもりだが、彼らが失う勝ち点はごくわずかだと思う。(優勝は)自分たちしだいではなくなったし、これまでの2試合を見ているとレアル・マドリードが勝ち点を落とすとは考えづらい」

 まだ8試合残しているうえ、今節は勝ち点で並ばれる可能性があるだけにもかかわらず、すでに白旗を揚げたような雰囲気すらある。

 一方で、マドリーに逆転されかねない状況でもリーグ優勝に「楽観的」な見方もバルセロナのチーム内に存在する。キケ・セティエン監督は試合後の記者会見でピケとはやや矛盾する自身の考えを述べた。

「(ピケは試合が終わったばかりの)あの時、フラストレーションが溜まっていたんだろう。特に前半は良かったからね。今の気持ちはポジティブでないかもしれないが、明日は違う見方をするだろう。マドリーも全ての試合に勝つことはできない」

「セビージャ戦への期待が高かったのは当然だろう。難しい試合だったが、内容は良かったと思う。問題はリズムを維持する方法がわからなかったことだ。そうしたことに対する不満が選手たちを悲観的にさせるかもしれない。だが、明日には全てが違って見えるはずだ。私はまだ楽観的だよ」

フロントはあくまで楽観的だが…

リオネル・メッシ
【写真:Getty Images】

 セティエン監督に同意するのは、バルセロナでスポーツおよびコミュニケーション部門のディレクターを務めるギジェルモ・アモール氏だ。クラブのレジェンドでもある同氏のセビージャ戦後のコメントを『アス』紙が伝えている。

「試合も、獲得できる勝ち点も残っている。選手たちの集中は素晴らしかったし、いい試合をしたと思っている。私たちが先を行っている。(優勝は)自分たちしだいだ」

 アモール氏は「最も失敗の少なかった者が優勝することになる」と気を引き締めたが、発言全体としては前向きだった。

 ここで疑問なのは、たった1試合とはいえ、なぜこれほどまでに選手や監督、フロント、それぞれの立場で意見が異なるのかということだ。優勝の可能性を信じるなら「俺たちはまだ終わっちゃいない。絶対に勝ち続けるんだ」と言えばいい。なのに選手は「優勝は非常に難しい」と語り、監督やフロント幹部は「私はまだ楽観的」「我々が先を行っている」と、意思統一が図れていない。

 バルセロナが「リーグ優勝」という1つの目標に対して、一丸となれていないのではないかと勘繰ってしまう。特に今季は序盤から“内紛”続きだったこともあって、どこか歯車が噛み合っていないような印象を受ける。

 例えばリオネル・メッシやジェラール・ピケら古参組が望んだネイマール獲得は実行に移されず、「MSN」の復活は夢のまま終わった。エルネスト・バルベルデ監督の解任に際し「選手の努力が足りなかった」と発言したエリック・アビダルSD(スポーツディレクター)に対し、メッシはSNSを通じて公に怒りを表明した。

 新型コロナウイルスによる中断期間中にバルセロナの選手たちは一時的な給与カットに応じたが、フロントから圧力をかけられていたことをメッシがチームを代表して明かしたことも話題になった。こうした選手たちとフロントの間に生まれた亀裂は、今季のバルセロナにとって大きな不安要素と言われてきた。

 セビージャ戦はピッチ外のみならず、ピッチ内における不安も浮き彫りにした。リーグ再開から3試合目で、これまでの対戦相手がマジョルカとレガネスという下位クラブだったことを考えると、セビージャ戦にある程度コンディションのピークを持ってきたかったはずだ。相手は3位と勢いがあり、決して甘く見ていい試合ではない。

交代策に感じた疑問

ルイス・スアレス
【写真:Getty Images】

 だが、バルセロナの選手たちの動きは60分ごろから明らかに悪くなった。にもかかわらず交代カードは3枚しか切らず、セティエン監督は使えるはずの枠を2つ残したままにしたのである。途中投入されたのはアルトゥール、アントワーヌ・グリーズマン、リキ・プッチの3人だった。

 交代枠が5人に増えたことで、一般的には選手層の厚いビッグクラブが有利になると言われている。積極的に交代カードを切ってもピッチ上に並ぶ11人の質が落ちにくく、先発メンバーのローテーションも組みやすいからだ。

 ただ、バルセロナに関しては逆に苦しい台所事情が露わになってしまった。セビージャ戦はサミュエル・ウンティティが出場停止、ウスマン・デンベレやフレンキー・デ・ヨング、セルジ・ロベルトは負傷で遠征メンバー外だった。するとベンチ入り12人のうち8人がBチーム登録の若手選手になってしまったのだ。

 リキ・プッチやアンス・ファティは継続的にトップチームで出場機会を得ている。とはいえ、控えの層がこれほど薄ければ、セティエン監督も優勝争いに大きな影響を及ぼす重要な一戦で交代をためらってもおかしくはない。

 また、長期欠場明けのルイス・スアレスも好調時のパフォーマンスには程遠かったのが痛かった。リーグ再開3試合目で満を持して先発起用されたが、さしたるインパクトは残せず。加えてグリーズマンが大一番でベンチに座り、本来なら実績も実力も劣るマルティン・ブライスワイトが先発起用されたことからも、なかなかベストな組み合わせを見出せていない苦しいチーム事情がうかがえる。

 選手たちは「今のままではヤバい」と感じているから、悲観的な発言も出てくるのではないだろうか。過密日程に晒されて、意外に薄かった選手層とメッシへの依存度の高さばかりが目立ってしまう現状では優勝まで逃げ切れない、と。

バルセロナは綱渡り状態。一歩間違えば…

キケ・セティエン
【写真:Getty Images】

 セティエン監督はグリーズマンをベンチスタートにした理由について「相手や試合の状況、選択できるオプションについて考えた上での決断だった。ブライスワイトはヘスス・ナバスの背後にあるスペースを突ける可能性があった。この試合は彼でうまくいくと思った」と語った。

 でも、うまくいかなかった。逆にセビージャの右サイドバックだったヘスス・ナバスは嬉々として攻撃に参加し、度々危険なクロスをバルセロナのペナルティエリア内に放ってきた。

 交代枠を2つ残した決断についてはどうか。「投入した3人は相手にとって不快な選択になると思った。スアレスには状態を尋ねたが、彼は『大丈夫だ』と言った(のでピッチに残した)。メッシはピッチにいなければならないことを知っている。他の選手を組み込む以前にリキ・プッチを入れるかアンス・ファティを入れるか悩んだが、中盤での強度を考えなければならなかった。攻撃的な選手を増やし始めると、解決策より問題が多くなってしまう」というのがセティエン監督の言い分だった。

 スアレスやメッシは、1点でももぎ取るために外せなかった。88分にピッチへ送り出されたリキ・プッチの最大の課題は、線が細く守備の強度が足りないこと。63分のアルトゥール投入は自然の流れだっただろうが、中盤に「解決策」をもたらす選択肢は他にほとんどなかったのだろう。

 大一番でチームとしての脆さを露呈し、ライバルに追い越されそうな状況で不安が募っていけば、これまで積み上げてきた自信が簡単に崩れてしまってもおかしくない。「優勝」という1つの目標へ突き進むにあたって、立場によって意見が違い、意思統一が図れていない状況はとても危険だ。

 残り8試合の中には次節のアスレティック・ビルバオ戦をはじめ、アトレティコ・マドリーやビジャレアルといった難敵との試合が多く組まれている。マドリーを振り切るには1つの勝ち点も落とせない。

 綱渡り状態のバルセロナは、一歩間違えば奈落の底という微妙なバランスを保ちながら対岸にある光を掴み取ることができるだろうか。

(文:舩木渉)

【了】

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