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レアル・マドリードがリーガ制覇に有利な理由? 躍動の19歳…それよりも燃える判定問題

現地21日にラ・リーガ第30節が行われ、レアル・マドリードがレアル・ソシエダに2-1で勝利を収めた。今季リーグ最少失点と安定感抜群の白い巨人は、バルセロナから首位の座を奪還。一方のソシエダにも再浮上の気配が見え始めた。そして、この試合では微妙な判定が連発され、「これぞラ・リーガ」という議論が生まれている。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

再開後初先発の19歳が躍動

ヴィニシウス・ジュニオール
【写真:Getty Images】

 順位表の“リーダー”が入れ替わった。ラ・リーガの優勝争いはますます混沌としてきている。

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 現地21日にラ・リーガ第30節が行われ、レアル・マドリードがレアル・ソシエダを2-1で下した。この結果、マドリーとバルセロナが勝ち点65で並んだが、直接対決の結果で1勝1分と上回るマドリーが首位に躍り出た。

 たくさんのポジティブな要素が見られた試合でもあった。

 リーグ戦再開から2試合連続で先発起用され、好調ぶりを存分にアピールしていたエデン・アザールは休養を与えられてベンチスタートになった。代わりにマドリーの左ウィングに入ったのはヴィニシウス・ジュニオールだ。

 直近2試合は途中出場だった19歳のブラジル代表は、およそ3ヶ月ぶりの先発出場でたくましく成長姿をアピールした。ドリブルの切れ味は相変わらずで、さらに体を当てられても簡単には倒れない肉体的な強さも身につけたようだ。

 前半から左サイドで崩しの起点となり、積極的に突破を仕掛けて対面のアンドニ・ゴロサベルを苦しめた。後半開始早々には超絶技巧で2人を置き去りにしてペナルティエリア深くに侵入されると、ソシエダのセンターバック、ディエゴ・ジョレンテに倒されてPKを獲得して先制点のきっかけに。終盤はやや疲れが見られたものの、間違いなくマン・オブ・ザ・マッチ級のパフォーマンスだった。

 今後も続く過密日程においてアザールとヴィニシウスは激しい定位置争いを繰り広げるだろう。ジネディーヌ・ジダン監督も安心してターンオーバーを組めると確信したに違いない。ヴィニシウスの成長ぶりには目を見張るものがある。

 一方、右サイドは試行錯誤が続く。ルカス・バスケスが負傷離脱中で、マルコ・アセンシオも長期欠場明けで慎重に起用法を探っているところ。リーグ再開初戦からロドリゴ、フェデリコ・バルベルデが先発起用されてきたが、ここにきてソシエダ戦でハメス・ロドリゲスにチャンスが与えられた。

 中央に入ってボールに触ることを好むハメスに純粋なウィング的タスクの遂行を望むのは難しいが、パフォーマンスのレベルは前回の先発出場が昨年10月というのが気にならないほどだった。バルベルデは中盤インサイドの方が持ち味を生かせるため、選択肢から除くとしても、右ウィングにはロドリゴ、アセンシオ、ハメスに加えてガレス・ベイルもおり、全員に計算が立つ。絶対的な存在がおらずとも、いい意味でジダン監督の頭を悩ませることになりそうである。

ソシエダからは若手続々

 そして、カリム・ベンゼマの絶好調ぶりにも触れておかないわけにはいかない。リーグ再開初戦から3試合連続で先発出場し、前節バレンシア戦の2ゴールに続いてソシエダ戦でも技巧的なゴールを奪った。長期の中断期間の影響を微塵も感じさせずに躍動するエースは、すでにリーグ戦17得点を挙げている。このままいけば20得点は確実に視野に入ってくる。リーグ優勝を成し遂げるためには、まず代役不在のベンゼマが今のパフォーマンスを維持できるかが大きなカギになるだろう。

 敗れたソシエダにも前向きな雰囲気が漂う。再開初戦から3試合連続で勝利から見放されてはいるものの、徐々にチームとしての調子を取り戻しつつあるようだ。一時はチャンピオンズリーグ出場権内の3位につけていただけあり、地力は十分にある。イマノル・アルグアシル監督のもと、今季のラ・リーガで最も魅力的なフットボールを展開していたクラブの1つで、若手の成長も目覚ましい。

 ここのところ元気のなかったマルティン・ウーデゴーは、レンタル元のマドリーとの一戦で奮起し、攻守にアグレッシブなプレーを披露した。特に守備面では前線から積極的にプレッシングを試みてソシエダを引っ張っていた。

 かつてのような奔放さは見る影もなく、プレーのムラが小さくなったことでひと回りもふた回りもスケールの大きな選手へと成長を遂げている。経験を積んで精神的に落ち着いたことも大きそうだ。攻撃だけでなく守備にも献身性を発揮できることを十分に示した。

 さらに下部組織出身の若手たちがどんどん台頭してきている。Bチームで指揮経験を持つイマノル監督は積極的にカンテラ育ちの有望株を抜てきしており、強豪マドリー戦の緊迫した終盤にベンチから20歳のロベルト・ロペスと21歳のマルティン・スビメンディを送り出した。

 Bチーム登録の2人は、ともに中盤で落ち着いたプレーを披露し、今後トップチームで継続的に出場機会を得てもおかしくないだけのクオリティを示した。マドリーのワールドクラスの選手たちに囲まれながらでも、的確にパスを配球し、攻撃を組み立てていく姿は頼もしくすらあった。彼らのような才能あふれる若手がどんどん輩出されてくる現状は、ソシエダが長年かけて取り組んできた地道な育成の成果と言えるだろう。

ピケ発言のその後

カリム・ベンゼマ
【写真:Getty Images】

 こうして両チームにポジティブな成果の多い試合だったが、どうしても語りたくなってしまうことがある。

 現地19日にセビージャと引き分けて首位陥落の可能性が高まった試合の後、バルセロナのDFジェラール・ピケの「(優勝は)自分たちしだいではなくなったし、これまでの2試合を見ているとレアル・マドリードが勝ち点を落とすとは考えづらい」という発言を思い出さざるをえないのだ。

 これは振るわないバルセロナの現状を憂いたものとも考えられるが、マドリーへの皮肉も込もった発言に聞こえてくるのだ。「どうせマドリー寄りの判定が増えて、あいつらが救われ、俺たちは不利になるんだろう?」という、嫌味のような一種の諦めに近いような。アンチ・マドリーの急先鋒として知られるピケだからこそでもあるが。

 そういった発言があった直後の試合で、マドリーの周りで議論が起こりかねない微妙な判定が連発するのはなぜだろう。本当に不思議だ。

 ソシエダ戦の後半開始直後、ドリブル突破でペナルティエリアに侵入したヴィニシウスがディエゴ・ジョレンテに倒されてマドリーにPKが与えられたことは先に述べた通り。これだけではない。

 マドリーの2点目の場面、直前にボールをコントロールしたベンゼマはハンドを疑われた。68分には、アドナン・ヤヌザイが豪快にミドルシュートを突き刺した際、ソシエダのミケル・メリーノがオフサイドポジションでマドリーのGKティボ・クルトワの視界を遮ったとしてゴールが取り消された。

 ジダン監督は試合後の記者会見で、レフェリーたちの仕事ぶりに関して「彼らは彼らの仕事をし、他に何もしない。私は判定を尊重し、自分たちがやったことだけを考えなければならない」と誤審はなかったと主張した。

 具体的には「PKはあったし、カリム(・ベンゼマ)はボールに肩で触れた」「私はレフェリーではないが、彼(VAR)は画像を見て、彼(ミケル・メリーノ)がオフサイドの場所にいて、クルトワを邪魔した。それを見破るのがルールだ」と、微妙な判定が全て正しいものだったと繰り返していた。

戻ってきつつある日常

 ソシエダのイマノル監督は「恣意的な決定に腹を立てることには意味がない。私は話したくない」と判定に関して口をつぐんだ。だが、当事者が語らなくとも当然のようにこの試合の判定に関するトピックは議論の的になっており、バルセロナ寄りのメディアは批判的に伝えている。『ムンド・デポルティーボ』紙は「マドリーは味方のVARとともにバルサの首位を奪う」と見出しを打っているくらいだ。詳しい中身には触れないが、どんな主張かは一行読むだけではっきりとわかる。

 元レフェリーのイトゥラルデ・ゴンザレス氏は、『アス』紙で疑惑の判定を分析し「シュートの直前にジョレンテがヴィニシウスの右足を蹴ったためPKだった」などと持論を展開している。

 ヤヌザイの取り消されたゴールに関しても「当該選手が視界を妨げている場合に対戦相手(このケースではGK)への干渉となるが、非常に主観的なものだ。個人的にはオフサイドではないと思う。メリーノはゴールエリアの外にいるため、少なくともGKから5.5m以上離れていると言える」と、メリーノが立っていてもクルトワには十分な視野や反応のための時間が確保されていたとする意見を述べた。

 個人的な意見を言わせてもらえば、ヴィニシウスにジョレンテの足が触れていたか映像だけで判断するのは非常に難しかったし、現場にいたらシミュレーションに見えたかもしれない。メリーノのオフサイドをタッチライン際で瞬時に見極めた副審には「あっぱれ」と言う他ない。シュートが放たれた瞬間、距離どうこうではなくヤヌザイとクルトワの間で視界を遮った選手のオフサイド判定は妥当で、VARの介入によって覆るものではないと感じる。

 それでも確信を持てるのはベンゼマのハンドがなかったことくらいで、前半にカゼミーロが見舞った肘打ちに対するカードの色も含めて、他の事象に関してはおそらく語る者の立場や視点によって見解が異なるだろう。答えはピッチの上でプレーしていた当事者しかわからない。

 ライバルの神経を逆なでするような発言があった直後に、こんなにも微妙な判定が重ならなくても……と少しばかり気の毒になるが、これもフットボールである。ピッチ内のスペクタクルのみならず、ピッチ外の駆け引きや新しい議論がどんどん湧き出てくるようになって、誰もが好きなように語り合える。

 マドリーとソシエダの一戦を見ながら、ようやくラ・リーガの日常が戻ってきたと感じた。

(文:舩木渉)

【了】

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