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セリエA 4年前

冨安健洋はなぜインテルに苦戦したのか? 突きつけられた課題と指揮官が明かした途中交代の真相

セリエA第30節、インテル対ボローニャが現地時間5日に行われ、1-2でボローニャが勝利を収めた。右サイドバックで先発した冨安健洋はインテルの攻撃に苦しみ、65分にベンチに下がっている。冨安にとっては苦しんだ試合となったが、ボローニャはその後に2点を奪って逆転。冨安はなぜ苦戦を強いられたのか。また、どのようにしてボローニャは逆転勝利を収めたのか。(文:神尾光臣)

text by 神尾光臣 photo by Getty Images

「正直勝てるとは思わなかった」

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【写真:Getty Images】

 前半はゲームを支配された末に0-1。後半にはPKとそのこぼれ球を狙ったシュートを立て続けにストップしたGKウカシュ・スコルプスキの活躍がなければ、大差で負けていた可能性もあった。インテル対ボローニャは、そういう内容の試合だった。

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 そして冨安健洋も、決して良いパフォーマンスを展開できていたわけではなかった。後方からスピードを上げて走り込んでくるアシュリー・ヤングへの対応に苦しみ、股抜きを許した場面もあった。65分には交代を命じられベンチへと下がる。これまで今シーズン良好なパフォーマンスを続けていた彼が、後半の比較的早い時間に交代を命じられたのは初めてのことであった。

 しかしサッカーとは本当にわからないものである。ロベルト・ソリアーノが主審への暴言の末に退場を命じられたため、ボローニャは10人。冨安が下げられた時には敗色濃厚な雰囲気だったのだが、終わってみれば2-1の逆転勝利。「采配? いや悪運だよ。最初の25分間を見ていると正直勝てるとは思わなかった」。試合後の記者会見でシニシャ・ミハイロビッチ監督は正直に語っていた。

 これまでどんな強豪に対しても内容上渡り合っていたボローニャが、ここまで全く噛み合わなかったのはなぜか。彼らは何を修正したのか。そして冨安が交代を命じられ、反撃の時間にピッチにいられなかった理由はどこにあるのか。

インテルの狙いとボローニャの苦戦

 まずミハイロビッチ監督が言った最初の25分間だが、ボローニャは全くインテルを食い止めることができなかった。ボールは相手に持たれ、プレスをかけようにもあてを外され、右に左に揺さぶられピンチに陥った。

 ラインを上げて、高い位置からプレスを掛けてボールを奪っていくのがボローニャのスタイル。しかし、アントニオ・コンテ監督が仕上げたインテルのパスワークは、ボローニャを相手によく機能していた。3バックと中盤のマルセロ・ブロゾビッチが絶妙な距離感を保ち、後方でテンポよくパスを回してボローニャFW陣のプレスをかわした。ここで相手を先に捕まえることができず、展開の先手を取られる。ここがまず一つのネックになっていた。

 その時、ボローニャはプレスを掛ける必要上小さく収縮している。そこでインテルは、大きく早いサイドチェンジで手薄な逆サイドを突きに掛かった。ここに、この日の冨安がヤングに対し常に不利な戦いを強いられていた理由があった。大外のスペースにポジションを取ったヤングは、ボールを受けるとそこからスピードを上げて走ってくる。冨安が後方からカバーに回った時には相手がスピードに乗った状態。そこに本職のサイドバック、またはウイングバックでない弱みが出たのか、対応は常に遅れた。

 22分の失点も、そうやって生み出されたものだ。インテルの右WBアントニオ・カンドレーバが大きくサイドチェンジを左に放つ。そこにはヤングがしっかりと待ち構えていた。ボールホルダーを組織で取り囲むために、ピッチのやや中央に寄っていたところ。そこからカバーを図るももう遅い。クロスを出すコースに体を入れる前に、ヤングに左足で蹴られてしまう。中央には、横に拡げられたボローニャDFラインの間にラウタロ・マルティネスがポジションを取る。そこをヘッドで合わせ、ポストに弾かれたボールをロメル・ルカクに押し込まれた。

冨安が下げられた理由

 同じ3バックを採用するウディネーゼやエラス・ヴェローナとの試合で、冨安がウイングバックへのマッチアップに苦労することはこれまでもあった。本人そのものにはスピードがあり、身体能力で振り切られることは少ない。だが3トップのウイングなどと違い、WBは低い位置から加速をしてくる。最初の時点でプレスがかけられていないと、冨安がカバーに行く頃には相手をスピードに乗せてしまう。

 ヤングへの対応はまさにその図式。28分には慌ててカバーに付いたところでまた抜きを許し、そのままシュートまで持っていかれてしまう。GKのセーブがなければそれこそ試合はそこで終わっていたのかもしれない。

 さすがにミハイロビッチ監督は、ハーフタイムに修正を入れる。前線からのプレスを噛み合うようにしたボローニャは、前半ほど苦しまなくなった。冨安のいる右サイドも同様だった。味方とプレスの位置などを確認、ヤングに対しても高めの位置からチェックを掛けるように変わり、前半ほど突破を許すようなことはなくなっていた。

 しかしその冨安は65分に指揮官が行った最初の選手交代の際に、リッカルド・オルソリーニやニコラ・サンソーネと共に下げられている。戦術上の問題そのものはクリアになっていたようにも見えたのだが、ミハイロビッチには別の考えがあった。「オルソリーニと冨安は、少なくとも30分程度は休ませないといけなかった」。

 冨安は再開後の3試合でフル出場を果たしていた。豊富な運動量が要求されるサイドバックとして、しかも中3日、あるいは4日のペースで行われる過密日程の中でだ。他に右サイドバックのできるイブラヒマ・エムバイエは故障中で、フル稼働だった冨安には当然疲労が蓄積しているはずだった。インテル戦では63分に、何でもない逆サイドへのパスをミスしている。それを疲労の証として目処を立てたのか、程なくして冨安はマッティア・バーニと交代させられた。

ボローニャが高みを目指すために

 ということで、チームのストロングポイントである右サイドの人員をいっぺんに変えることとなったボローニャ。しかしミハイロビッチ監督は、そこから勝負に行っていた。18歳のFWムサ・ジュワラを右サイドに回したところ、これが大当たりしたのだ。

 プリマベーラで11ゴール5アシストと大活躍中だった、卓越したスピードを武器とするガンビア人。「ムチャクチャな動きをするから相手にはわかりにくくなるに違いない」と読んで、右サイドにぶつけたのだという。その結果同点のミドルシュートをねじ込み、突破からファウルを誘ってアレッサンドロ・バストーニを退場に追い込み、ついには逆転ゴールの起点にもなった。

 交代は疲労が要因だった。冨安が下げられた後で逆転勝利が生まれた形になったとは言え、彼自身の立場が揺らぐことはないだろう。ただ先発した彼も含め、チームとしてさらなる高みを目指さなければならない課題を突きつけられた。

 ミハイロビッチは試合後の記者会見でこう語ったのだという。「数日前にアタランタのビデオを選手たちに見せた。お前らは彼らのように勝ちに行っているのかと」。前節でナポリを破り、CL出場権の4位はおろかそれ以上を目指す位置に付けたプロビンチャの雄を引き合いに、順位上昇とEL出場権への挑戦を求めたのである。レベルアップの期待に応えることができるか。

(文:神尾光臣)

【了】

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