モウリーニョの原点回帰。トッテナムが徹底した“嫌がらせ”、アーセナル制圧計画の全貌

現地12日にプレミアリーグ第36節が行われ、トッテナムがアーセナルとのノースロンドンダービーを2-1で制した。中断明けから調子が上がりきっていなかったトッテナムを、ジョゼ・モウリーニョ監督はいかにして勝利に導いたのか。ここにきて“らしさ”全開の原点回帰である。(文:舩木渉)

2020年07月13日(Mon)13時08分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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今季最後のノースロンドンダービー

ジョゼ・モウリーニョ
【写真:Getty Images】

 相手の嫌がることを考えさせたら、ジョゼ・モウリーニョという男の右に出るものはいない。

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 現地12日にプレミアリーグ第35節が行われ、トッテナムはアーセナルとのノースロンドンダービーを2-1の逆転勝利で制した。

 リーグ戦再開後は前節終了時点で2勝2分1敗、ゴールもわずか5つ。シェフィールド・ユナイテッドには3失点で敗れるなど、ここのところ停滞感が拭えなかった。11年連続のトップ6入りも怪しくなってきている。

 そこでモウリーニョは自らの原点とも言える戦い方を、アーセナルとのダービーマッチで披露した。

 勝利で終えた試合後のインタビューで、「とても拮抗したゲームだった。皆さんが考えるよりもずっと戦術的だった」と百戦錬磨のポルトガル人指揮官は語った。

「ミケル(・アルテタ)は、安定して改善できる彼らなりの戦い方を見つけた。彼らは良くなっている。そして、我々は彼らのやり方に適応するべきだと感じた。それを非常にうまくやれたと思う」

 アーセナルは中断明けから採用している3-4-3でトッテナムに挑んだ。シュコドラン・ムスタフィ、ダビド・ルイス、セアド・コラシナツが並ぶ3バックが徐々に安定感を増し、新システム導入後は3勝1分と結果も出ていた。

 ミケル・アルテタ監督も「試合は我々のもので、完全にコントロールできていた。相手には何もさせなかった。こちらがプレスをかければ、相手はボールをつなぐことができなかった。今日のトッテナムのように低い位置でブロックを敷く相手を攻略するのは難しいが、十分なチャンスを作ったと思う」と、内容そのものには手ごたえを感じている。

 しかし、アーセナルを率いるスペイン人監督は「細部に犠牲を払うことになった。それがチームとして取り組む必要のある最大の課題だ」と悔やむ。したたかなモウリーニョは、その「細部」を狙っていた。

 3-4-3のアーセナルに対して、モウリーニョが用意したのはハリー・ケインとソン・フンミンを2トップに据える4-4-2だった。相手ディフェンスラインがボールを持てば、トッテナムは前線から激しくプレッシャーをかけて、アーセナルの選手の後ろ向きな判断を誘発する。

支配されても「非常にやりやすかった」

 最初のビッグチャンスは開始17秒で訪れた。アーセナルのディフェンスラインにケインが圧力をかけてダビド・ルイスのパスミスを誘うと、ボールを拾ったルーカス・モウラがミドルシュート。これはGKエミリアーノ・マルティネスがキャッチして難を逃れた。

 さらに10分、トッテナムは中盤でニコラ・ぺぺのコントロールミスに乗じてボールを奪うと、左サイドのルーカス・モウラが浅いディフェンスラインの背後にロングパスを狙う。そしてコラシナツとダビド・ルイスの間から抜け出したケインがGKと1対1を迎えるが、ループシュートはエミ・マルティネスの好反応に阻まれた。

 16分、アーセナルはアレクサンドル・ラカゼットの強烈なロングシュートで先制に成功する。ところがリードの時間帯は長く続かなかった。最初の失点はわずか3分後だった。

 左サイドでボールを受けたコラシナツにケインが寄せてパスコースを限定すると、アーセナルの左ストッパーを務めるボスニア・ヘルツェゴヴィナ代表DFは後ろを向いてダビド・ルイスへのバックパスを選択する。

 この短いパスが、ズレがちになることをトッテナムの選手たちは狙っていた。ミスに反応したソン・フンミンが猛然とダビド・ルイスに追いすがってボールを奪取。GKエミ・マルティネスをかわしてループシュートを流し込み、値千金の同点ゴールを奪った。

 1-1で迎えた後半もアーセナルがボールを支配し、トッテナムがプレスをかけてカウンターを狙う構図は変わらない。むしろアーセナルのボール支配率が上がり、後半だけで見れば72%と驚異的な数字で、試合をコントロールしているように見えた。

 だが、モウリーニョ監督の見方は違う。

「後半の前半(〜70分ごろ)、相手が我々の陣内でボールを持つ時間がより長くなっていた時間帯は、非常にやりやすかった。あの状況で2人のMFは素晴らしい仕事をした。そして、我々は自分たちのチャンスを見つけた。素晴らしいスピリットを見せてくれたと思う。非常に暑かったが、誰もそんなこと考えてはいかなかった」

 ここで称賛された「2人のMF」とは、セントラルMFでコンビを組んだジオバニ・ロ・チェルソとハリー・ウィンクスのことを指している。彼らはダニ・セバージョスとグラニト・ジャカという優れたゲームメーカーと対峙しながら、しばしば前線から降りて組み立てに絡んでくるラカゼットもケアする重要なミッションを託されていた。時に中盤で数的不利を作られても、決壊することなく懸命に耐えていたからこそ、反撃のきっかけを作り出せた。

 特にロ・チェルソは高精度の左足で流れの中からもセットプレーからもチャンスを演出した。49分、自陣からのカウンターで左サイドに走ったルーカス・モウラのフィニッシュをお膳立てしたロングスルーパスは見事な軌道だった。

照準はEL出場権獲得へ

トッテナム
【写真:Getty Images】

 後半のトッテナムはボール支配率こそ24%と押し込まれたが、シュート数は9本、枠内シュート数も5本とアーセナルを決定機の数で上回った。自分たちでボールを握る時間帯をあえて捨て、相手の泣き所でもある3バックの細かいミスや両ウィングバックの裏を狙うカウンターに活路を見出していたのだ。

 そして、決勝点につながるコーナーキックも3バックの弱点を突いて獲得した。トッテナムは左サイドでルーカス・モウラがボールを持つと、対面のエクトル・ベジェリンが寄せてくる。アーセナルは右ウィングバックが前に出た背後のカバーが間に合っておらず、そのスペースにムスタフィの背後からケインが飛び出して、ルーカス・モウラからのスルーパスを受けてシュートに持ち込んだ。

 ソン・フンミンのコーナーキックに、トビー・アルデルヴァイレルトが完璧なヘディングシュートで合わせて、81分に逆転。トッテナムはそのゴールを守りきって今季最後のノースロンドンダービーを制した。

 モウリーニョ監督にとってはキャリアを通じてアーセナルとのホームゲームでは負けなしを継続。10試合を戦って6勝4分の好成績を残している。トッテナムの指揮官としては初めてのノースロンドンダービーで、初勝利も収めた。

「難しい試合だったが、最後の瞬間まで途切れなかった選手たちの気持ちや努力、バトルが勝利につながった。問題はゼロだ。全てがコントロールされていた」

 用意したゲームプランで勝利を手にし、満足げな指揮官は、すでに次の目標に頭を切り替えている。アーセナルを下して8位に浮上し、残り3試合でヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得が射程圏内に入ってきた。

「勝利はとても嬉しいが、ノースロンドンダービーを勝ち取るよりも、もう少し野心が必要だ。我々はELに出場したいと思っている。クリスタル・パレス戦の最後の最後まで戦うつもりだ」

 トッテナムの今後の対戦カードはニューカッスル、中断明けから調子の上がらないレスター・シティ、最終節のクリスタル・パレスとなっている。現実的にトップ4入りは厳しいが、6位ウォルバーハンプトンまでの勝ち点差は3ポイントしかなく、まだまだ上昇の可能性が残されている。

 アーセナル戦勝利をきっかけに本調子を取り戻し、トッテナムとモウリーニョ監督は最後に笑ってシーズンを終えられるか。プレミアリーグの欧州カップ戦出場権争いはラストスパートに入った。

(文:舩木渉)

【了】

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