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トッテナムは誰を獲得? モウリーニョが仕込む2つの戦略。得意の2年目で躍進するには…【プレミアBIG6補強戦略(6)】

今夏は昨年までの移籍市場とは状況が違う。新型コロナウイルスの影響で、財政難に苦しむクラブが多く、売りたいチームが多い一方で、買い手側のクラブで資金が潤沢なのはごく一部。そのため多くの交渉が非常に難しい状況になっている。あるいは資金を準備できず、トレードでの移籍も増えそうな夏でもある。一方で補強の動きを止めれば、チームの新陳代謝が止まってしまう。各クラブ工夫を重ねて強化を成功させようとしている。そんな特別な夏におけるプレミアリーグBIG6の補強はどうなっていくのだろうか。今回はトッテナムを解説していく。(文:内藤秀明)

シリーズ:プレミアBIG6補強戦略 text by 内藤秀明 photo by Getty Images

チーム状況

トッテナム
【写真:Getty Images】

 新型コロナウイルスの影響で多くのクラブが財政面で苦しんでいるが、トッテナムも例外ではない。試合が行われないことで1試合ごとに数億円程度の売上毀損が発生している見込みだ。

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 しかもスパーズには新スタジアム建設費用分の借金があり、毎年返していかなければならない。正確な金額は公開されていないが、イギリスの経済誌『Financial Times』によると、15年から30年かけて6億3700万ポンド(約890億円)の金額を返済していく必要があるという。これは利子を度外視しても年間約30億円もの負担がクラブに襲いかかることを意味する。

 一方で、トッテナムは元々BIG6の中では一番人件費を抑えているクラブである上に、2018/19シーズンにはチャンピオンズリーグで決勝まで進出したためCL関連で売上が大幅に増えている。トーナメントで勝ち進めばマッチデー収入が増える。また放映権料も決勝戦まで進めば金額は上がる。

 結果、2018年度の売上が約3億8000万(約530億円)ポンドだったのに対して、2019年度は約4億6000万ポンド(640億円)に上昇。約100億円近くも増えている。結果、利益も約6000万ポンド(約83億円)から1億800万ポンド(約150億円)に増えている。

 マイナス要素とプラス要素、両面を勘案した結果、スパーズの財務状況がどの程度厳しいのか詳細は出ていない。ただし楽な状況ではないことは間違いなく、事実、借金返済期限を遅らすための、借り換えなども行っている。また会長のダニエル・レヴィ会長は倹約家で有名であり、現在のリスクが数多く存在する状況では、財布の紐を固く縛る方向性なのは間違いない。補強は最低限になるのではないか。

監督の方針

ジョゼ・モウリーニョ
【写真:Getty Images】

 とはいえ、ジョゼ・モウリーニョ監督としては今年は得意な就任2年目だ。これまでとは違い就任1年目は途中就任だったにせよ、高額な給与に見合った何らかの成果を残したいところである。

 ピッチ内の話でいうと現段階のスパーズはプレシーズンマッチで2種類の戦い方を模索している。

 一つは昨季同様、右SBが高い位置をとり、最終ラインの残り3枚はやや右寄りに位置をとる右肩上がりの戦術だ。この場合、左SBは3バックの一角のように振る舞い、あまり上がることはない。この戦い方では低い位置からボールを繋ぎ、ボランチを経由して短いパスを多用しながら相手を押し込む。攻め込む展開の場合に採用される可能性が高い。大雑把にカテゴライズするなら、従来のモウリーニョらしからぬ戦い方だ。

 さてもう一方は、従来型のモウリーニョの戦い方で、右肩上がりの戦い方を捨て、両サイドで高さの差をつけない。むしろ両SB共にそこまで上がらず、ビルドアップも2ボランチを経由せず、積極的に最終ラインからロングボールを蹴る守備的な戦い方である。これはファンからは好まれないだろうが、同格以上の対戦、あるいはカウンターを得意とする相手との対戦で用いられるはずだ。

退団が予想される選手

 現段階で数名の退団が確定している。右SBのカイル・ウォーカー=ピータースは昨季もローンで所属したサウサンプトンに完全移籍が決定。CBのヤン・フェルトンゲンは契約満了で退団し、ベンフィカへの加入が決まっている。

 他にも契約満了でいうと、パウロ・ガッサニーガが第二GKとして定着したためお役御免となったミシェル・フォルムもクラブを去ることが決まった。そして若手MFのオリバー・スキップのノリッジへのローン移籍も決まっている。

 他にも確定してはいないが、両SBのセルジ・オーリエとダニー・ローズは退団の噂が流れることが多く去就が不透明な状況である。他にも若手選手が何名かローンでの移籍はあるかもしれない。

 ただ上記の通り、そこまで大型補強することができない実態があるため、結果として退団する選手も多くはならないはずである。

補強が必要なポジション

 昨季の夏にキーラン・トリッピアーが退団して以降、トッテナムは右SBのクオリティに悩まされている。オーリエは身体能力が高く足元の技術もあるが、攻守ともにムラっ気があるタイプだ。しかも退団の可能性もある。オーリエが抜けた場合、代わりにCBとSBの両方でプレー可能なジャフェット・タンガンガや フアン・フォイスらがいるものの、彼らは守備的なタイプのため、右肩上がりの戦い方用に攻撃的なSBを補強しておきたいところだ。

 また昨季のスパーズはゲームメイカーのクリスティアン・エリクセンが抜けた穴が大きく、試合の組み立ての部分で大幅に苦しんだ。代わりに獲得したジオバニ・ロ・チェルソが近しい役割をこなしたが、現段階ではまだ1年目ということもあり、エリクセンほどの影響力を発揮しているとは言い難い。とはいえそもそも、一人の選手に依存する状況は健全とはいい難く、やはりもう一人中盤で試合のリズムを作れる選手を獲得したいところである。

 あとはケインの控えのストライカー、あとは、ベン・デイビスとレギュラー争いするレベルの左SBも獲得できれば、この夏の市場の動きとしては理想だろうか。

獲得が決まった選手、噂になっている選手

トッテナム
【写真:Getty Images】

 まず最重要ポジションでもあった攻撃的な右SBでいうと、 マット・ドハーティをウォルバーハンプトンから獲得している。前所属チームでは右ウイングバックとしてプレーし、90分間大外のレーンを上下動するだけではなく、時にはボックス内にも飛び込んで決定機に絡んでいた。守備面にやや不安を残すが攻撃性能は折り紙付き。スパーズの右肩上がりの右SBにフィットする可能性が高い。なおあまり内容がよかったとは言い難いが、一応ウルブズでは左SBでのプレー経験もある。

 そしてこの夏の人気銘柄でもあるピエール・エミール・ホイビュアの獲得もスパーズは決めている。ホイビュアは10代のうちにバイエルン・ミュンヘンでデビューし神童と呼ばれる時期もあったが、ドイツの地では活躍できず。アウクスブルク、シャルケなどにローンした後、サウサンプトンに完全移籍してその才能を開花させた。

 低い位置でシンプルにボールを繋ぎつつも、機を見て縦パスを入れるパスセンスはトップレベル。また強い縦パス一辺倒というわけでもなく、状況に応じてパススピードもコントロールする、いわゆる「点」であわせるパスも出せるタイプだ。

 原則的に高い位置にはそこまで飛び出さず低い位置でのビルドアップで良さを発揮する選手なので、彼がいれば2列目の選手たちが我慢しきれず落ちてくる状況は減るはず。ソン・フンミン、デレ・アリ、ロチェルソ、ルーカス・モウラ、 ステフェン・ベルフワインら、ワールドクラスの2列目の選手が躍動することを期待できる、まさにスパーズにもってこいの選手だ。

 なお余談だが、直近、エバートンがハメス・ロドリゲスの獲得を決めて、大きく話題になったが、名将カルロ・アンチェロッティ監督が一番欲しかったのはコロンビアの英雄ではなく、実はこのデンマーク代表MFだったという。いずれにしてもエリクセンと同郷の選手にかかる期待は大きい。

 さて財政的に苦しい状況で、2名も即戦力級がとれれば上出来だ。ただ理想を言えばSBとストライカーの補強が進めて欲しいところである。ただ信憑性のあるメディアからの移籍情報はほとんどなく、可能性があったとしたら、ボーンマス所属のイングランド代表FWカラム・ウィルソンあたりだったのだろうが、結局ウィルソンはニューカッスルの加入が決まっている。現実的にはこれで打ち止めなのかもしれない。

最後に

 確かに財政的に自由な状況ではなく、大型補強の夏にはならなかったが、既存戦力の前線にはワールドクラスのタレントが何名も所属しており、タイトル獲得も十分あるシーズンである。

 前線と比較すれば、最終ラインのタレントにやや不安を残すが、それこそモウリーニョの守備面での戦術でカバーできるかもしれない。ポルトガル人監督の2年目は躍進のシーズンになることが多い。北ロンドンの地でもそのジンクス通り、大きな結果を残すことができるのか。

(文:内藤秀明)

【了】

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