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やっぱりアザールはえぐい。レアルは個で圧倒、ウエスカは岡崎慎司の不在が響き…

現地10月31日にラ・リーガ1部第8節が行われ、レアル・マドリードはウエスカを4-1で下した。今季未勝利の昇格組を、昨季王者は個の力で圧倒した。そしてエデン・アザールが約1年ぶりのゴールで大勝の口火を切り、復活を印象づけた。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

アザールが1年ぶりの復活弾

エデン・アザール
【写真:Getty Images】

 獲物を狙う獣は、一瞬の隙をも見逃さず首もとに食らいつく。

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 現地10月31日に行われたラ・リーガ第8節のウエスカ戦で、レアル・マドリードのエデン・アザールが392日ぶりとなるゴールを奪った。

 今季初先発を飾った背番号7のベルギー代表FWは40分、フェデリコ・バルベルデからの縦パスをゴール正面で受けて素早く反転すると、左足を振り抜いてミドルシュートを突き刺した。ゴールまで27mの距離だったが、前を向いて顔を上げた時にはウエスカの両センターバックの間に大きなスペースがあり、開けた視界には無限のシュートコースが見えていたはずだ。

 左足でアウト回転をかけたボールは、GKアンドレス・フェルナンデスも半分諦めながら跳ぶほどの無慈悲な軌道を描いてゴールネットに吸い込まれていった。

 ウエスカも失点するまでは悪くなかった。マドリーのプレスをかわしながら的確なビルドアップでハーフウェーラインを超えることができていたし、ボールを持っている時間もそれなりにあった。

 しかし、敵陣に入ってからなかなかスピードを上げられず、プレー精度も低く、チャンスにはつながらない。そんな煮え切らない展開の中で、アザールに圧倒的な個の力を見せつけられた。

 うまくいっているように見えたのは、もしかしたらマドリーの戦略の一部だったのかもしれない。前半はあまり積極的にプレッシャーをかけず、ウエスカにボールを持たせておいて、隙を見せた瞬間に首もとを食いちぎる……。勝つためにはそれだけでよかった。

 後半に畳みかけるマドリーの圧力は、昨季王者のそれだった。守備はセルヒオ・ラモスやカゼミーロを中心に締め、どんどんボールと人を動かしてチャンスを作っていく。先制されたウエスカは勝ち点を確保するために前がかりにならざるをえず、その反動でおろそかになった背後を狙えば、より簡単にゴールを陥れることができる。

 事実、マドリーは後半に3つのゴールを奪った。ウエスカは途中出場のダビド・フェレイロが一矢報いたものの、時すでに遅し。“白い巨人”が王者の貫禄で4-1の大勝を収めた。

まだ完全体ではないが…

 ウエスカを率いるミチェル監督は「アザールのゴールまで我々はうまく戦うことができていて、相手にダメージを与え、いくつかのチャンスもあった。ところが個の力によるあのゴールが我々を切断し、それからの5分間の競争力の欠如につながった。彼らに圧倒される可能性があるのはわかっていたし、(集中が切れたのを)利用されてしまった」と、先制されたあとのリアクションのまずさを悔やんだ。

 マドリーは前半終了間際の45分にルーカス・バスケスからのクロスを胸で見事にコントロールし、左足シュートにつなげたカリム・ベンゼマが追加点。後半に突入して53分にはアザールとのパス交換でペナルティエリア内左の深くに侵入したベンゼマから、逆サイドでフリーになっていた味方に絶妙なお膳立てが渡り、受けたバルベルデは低く抑えてアウト回転をかけた右足シュートでゴールを射抜いた。

 立て続けのゴールでリードを3点に広げ、マドリーが勝利をほぼ手中に収めた。90分にベンゼマが自ら起点になった展開から再びゴールネットを揺らして4点目。このダメ押し点までの流れでは、途中出場で気合が入りまくっていたロドリゴの右サイド突破や折り返し、らしさ溢れるプレーで健在ぶりをアピールしていたマルセロの柔らかいクロスなど個人の技術力が光った。

 マドリーとウエスカの選手個々のクオリティに、埋めがたい差があったのは間違いない。

 特に目立っていたのはアザールの状態の良さだ。ジネディーヌ・ジダン監督は試合後に「彼は不快感を覚えてはいないし、ゴールに満足しているだろう。それはチームメイトたちも同じ思いだ」と語り、今季初めて先発出場のチャンスを与えた背番号7のハイパフォーマンスに賛辞を送った。

 ゴールを決めたのは昨年10月以来で、冒頭で述べた通り392日ぶりのことになる。昨季はリーグ戦16試合出場にとどまり、年間を通して負傷やコンディション不良に苦しんだが、ようやく本来の状態を取り戻しつつあるようである。

 まだチェルシー時代のような左サイドからの切れ味抜群なドリブルでの突破など、完璧に元どおりというわけではなく、鳴りを潜めている部分はある。それでもコンディションが上がってきていると感じるのは、狭いスペースの中でも技術にブレがなく、俊敏にワンタッチやツータッチでのコンビネーションプレーを自信たっぷりにこなしている姿が見られたからだ。

 左サイドから中央にかけてのエリアで周りの選手と小気味よいテンポで絡むアザールのプレーは、常にウエスカのディフェンス陣の脅威だった。そして必殺の一撃をここぞの場面で繰り出せるクオリティも存分に発揮していた。

不在時に実感する岡崎慎司の重要性

ベンゼマ アザール
【写真:Getty Images】

 マドリード先週末のエル・クラシコでバルセロナには勝利したものの、昇格組のカディスに不覚をとった。さらにUEFAチャンピオンズリーグ(CL)ではグループステージ初戦のシャフタール・ドネツクに敗戦、第2戦はボルシアMGに負け寸前まで追い込まれるなど、決して流れはよくない。

 そんな状況で3日後には負けが許されないCLの大一番、インテル戦を控えているが、アザールが復活傾向にあるのは朗報。ウエスカ戦ではコンディションを考慮してか60分でお役御免となったが、ポジションを争う選手たちにとっても大きな刺激となっただろう。

 敗れたウエスカはボール運びがうまくいっていた一方で、守備面に強度を出せなかったのが痛かった。不在の時に、改めて豊富な運動量と積極性を発揮できる岡崎慎司の影響力の大きさを感じざるをえない。彼がいれば前線でプレッシャーのスイッチを入れてチームに勢いを与えただろうし、停滞しがちな攻撃においても巧みにマドリーのディフェンスラインと駆け引きしてパスを引き出そうとしたはずだ。

 単純な個人能力の比較でセルヒオ・ラモスやカゼミーロらと渡り合うのは難しいかもしれないが、組織の中の1人となった時に岡崎がワールドクラスの相手とどんな勝負を繰り広げるか見てみたかった。負傷が癒えず欠場を余儀なくされたのが残念でならない。

 ウエスカは初勝利が遠く、開幕から未勝利が続いている。逆にマドリーは何だかんだと安定して勝ち点を積み重ね、暫定首位に立った。「先制されたあとは『負けている』という気持ちになってしまった」とミチェル監督は悔いるが、たった1つのゴールで相手の心を折るほどの圧力を与えられるのが王者たる所以である。

 そして、突発的な左足のひと振りで相手から自信を奪い去るタレントも恐ろしい。負傷に端を発した低迷があまりに長引いたため、一時はもう終わった選手になってしまったかに思われた。いやいや、そんなことはない。気高さや猛々しさを取り戻しつつある、やっぱり“危険”だったアザールの完全復活はもうすぐだ。

(文:舩木渉)

【了】

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