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トッテナムはワールドクラス。試合を支配したチェルシーが陥ったジレンマとは?【分析コラム】

プレミアリーグ第10節、チェルシー対トッテナムが現地時間29日に行われ、0-0の引き分けに終わった。チェルシーは60%以上のボール保持率をマークしたが、守りを固めるトッテナムの牙城を最後まで崩せず。フランク・ランパードとジョゼ・モウリーニョの師弟対決は勝ち点1ずつを持ち帰る結果となり、トッテナムが首位をキープした。(文:本田千尋)

text by 本田千尋 photo by Getty Images

チェルシーは支配したが…

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【写真:Getty Images】

 11月29日に行われたプレミアリーグ第10節、チェルシーはジョゼ・モウリーニョ率いるトッテナム相手に0-0のドロー。ここ数試合でティモ・ヴェルナーを左ウイングで起用する[4-3-3]という方向性は固まったものの、まだチームは成熟し切っていないことを踏まえれば、決して悪くはない結果のように思われる。しかし、フランク・ランパード監督はこの結果に満足していないようだ。試合後には次のようなコメントを残した。

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「我々はゲームの大部分を支配したし、敵のカウンターの脅威を本当に上手く無効にしたと思う。勝つことができたし、おそらく勝つべき試合だった」

 そうランパード監督が言及したように、自陣深く“バスを停めた”スパーズに対して、チェルシーが「ゲームの大部分を支配した」。そもそもブルーズの選手たちのパス交換はテンポが良く、それぞれ球離れが速かったので、相手にボール奪取の的を絞らせなかった。また、カウンターの起点となるソン・フンミンへのパスはエンゴロ・カンテがカットし、ハリー・ケインに対しては3人で囲い込む場面も見られるなど、前節のマンチェスター・シティのようにはトッテナムにカウンターを許さなかった。

トッテナムを崩すには「魔法や運が必要」

 しかし一方で、がっつり引かれてスペースを消されると、左サイドのヴェルナーも活きてこない。対面したSBセルジュ・オーリエにもしっかりマークされ、ドイツ代表FWは24日のレンヌ戦(UEFAチャンピオンズリーグ)のようには躍動できなった。そうかと言って、右ウイングのハキミ・ツィエクも、アヤックスで魅せていたような持ち味を発揮できず。大海から狭い水槽の中に放り込まれ、上手く泳げない魚のようだった。

 ランパード監督は「この試合に勝ちたかったのなら、今日はボックスの中と周りでもう少し魔法や運が必要だった」とも話している。言い換えれば、何か突発的な事態でも起こらなければモウリーニョの守備ブロックを崩すことは出来なかった、ということだろう。最終ラインはもちろんのことだが、85分を過ぎてもムサ・シソコとピエール・エミール・ホイビュルクのダブルボランチは強度を保ち続け、ソンは最後尾まで守備に戻り、対面するSBベン・チルウェルに激しく食らいつく。

 81分には、メイソン・マウントがドリブルから「ボックス」の外で強烈なミドルを打つが、ウーゴ・ロリスに阻まれる。この敵の守護神のビッグセーブを、ランパード監督は「ワールドクラス」と評したが、スパーズの守備全体が「ワールドクラス」だったとも言える。おそらく欧州中のどのチームにとっても、この日のトッテナムを崩すのは難しいのではないか。

モウリーニョの巧みな“勝利”

 試合後にモウリーニョ監督は「チェルシーは通常はもっとリスクを取ってくるが、彼らは注意深かった。もう少し冒険的であることを期待していたが、そうではなかった」と話したように、もちろんチェルシーはカウンターを警戒しながらゲームを進めた。しかし、仮にボールロスト時の守備などお構いなしでオープンな展開に持ち込めば、それこそモウリーニョの思う壺。チェルシーが「もう少し冒険」できなかったのは、やはりステーフェン・ベルフワインやソンが走るカウンターが念頭にあるからであり、そうした脅威になるカウンターが備わっているからこそ、トッテナムの守備ブロックは「ワールドクラス」とも言える。

 そういった意味では、この試合で無得点に終わったからと言って、ヴェルナーを左ウイングに置く[4-3-3]の可能性が絶たれたわけではないだろう。後半に入って、クリスティアン・プリシッチ、オリヴィエ・ジルー、カイ・ハフェルツと、選手が入れ替わってもチーム全体のクオリティが落ちなかったことを考えると、むしろ総合力は高まっている。

 しかしこの試合に限れば、スコア上は0-0のドローに終わったが、スパーズが1ポイントを持ち帰って首位を守ったことを踏まえると、若きブルーズの指揮官に比べ経験豊富なモウリーニョが、巧みに持ち去った“勝利”だったと言えるかもしれない。

(文:本田千尋)

【了】

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