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アーセナルは曖昧で、トッテナムは難攻不落。監督就任から約1年、露わになった完成度の差【分析コラム】

プレミアリーグ第11節、トッテナム対アーセナルが現地時間6日に行われ、2-0でトッテナムが勝利した。ジョゼ・モウリーニョは昨年11月、ミケル・アルテタは昨年12月に監督に就任。戦術が浸透しないアーセナルに対してトッテナムは確固たるスタイルを築きつつある。(文:本田千尋)

text by 本田千尋 photo by Getty Images

曖昧だったアーセナルの守備

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【写真:Getty Images】

 まさに“モウリーニョのゲーム”だった。12月6日に行われたプレミアリーグ第11節、トッテナム・ホットスパーは、少し客足が戻ったホームにアーセナルを迎えた。

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 14位と不調のガナーズの中途半端なポゼッションに対して、13分にスパーズのカウンターが炸裂。上がったエクトル・ベジェリンのクロスをエリック・ダイアーが頭でクリアしてステーフェン・ベルフワインに繋ぐ。ベルワインも頭で中央のハリー・ケインに渡して、ケインは左のソン・フンミンを走らせる。韓国代表FWは悠々と仕掛けてミドルシュートを決める。自陣深く守る固い守備からケインを中心とするカウンター、という得意のパターンでスパーズが先制に成功した。

 こうしたモウリーニョのカウンターに対して、アーセナルのボールロスト時の守備は不徹底だったと言わざるを得ない。この試合に限らず、今季これまでの失点の場面を振り返っても、カウンターを食らった時、DFラインの前で仕掛けられた時などで、ガナーズはチームとしての守備戦術が整備されていないようだ。

 コーチとしてペップ・グアルディオラの薫陶を受けたミケル・アルテタ監督は、おそらくポジションが流動的でボールを保持するサッカーを目指しているのだろう。だが、ボールを失った後のチームとしての守備を徹底しないと、やはりポゼッションは中途半端なものになってしまう。この点で、前節に対戦したチェルシーはモウリーニョのカウンターを警戒し、ボールロスト時の守備が徹底されていた。

 しかし、今節のアーセナルは、ボールホルダーに対して誰がどこで奪いにいくのかなど、チームとしての守備が曖昧だった。そして守備面に留まらず、そもそもアルテタの意図するところが、それが選手たちにとって理解できるものなのかそうでないのかは別として、全体的に浸透していないようである。

難攻不落のトッテナム

 このように中途半端なアーセナルに対して、前半終了間際の46分、またもスパーズのカウンターが炸裂。ピエール・エミール・ホイビュルクを中心とする引き締まった守備から、今度はジオヴァニ・ロ・チェルソが中央を持ちあがる。そして左のソンへ。好調の韓国代表FWは、今度は自分ではシュートを打たず、外を回るケインに渡す。10番を背負うエースFWはニアを打ち抜いて追加点を奪う。

 前半の内に2点のリードを広げたことで、後半のスパーズは自陣で守備を徹底。ベルフワインも最終ラインに入る[5-3-2]の布陣で構える。場合によってはソンもボックス内に戻る深い守備で、アーセナルを寄せ付けず。もちろん最後の笛が鳴るまで守備の強度を保ち、2-0のスコアを維持し続けることは簡単ではない。だが、ホイビュルクがリーダーシップを発揮するスパーズの選手たちは、最後まで集中を切らさなかった。

 ガナーズにボールを持たせ、91分にはベルフワインに代わってCBのジョー・ロドンが入る徹底ぶりで勝利をモノにした。固い守備からのカウンターでしぶとく勝ち点をもぎ取るという、まさに“モウリーニョのゲーム”だった。

 未だにアルテタの戦術が浸透していないアーセナルとは対照的に、トッテナムは確固たるスタイルを築きつつある。この日先発したロ・チェルソ、ホイビュルク、セルヒオ・レギロンら今季加入の新戦力は順調にフィット。ロ・チェルソは、体調不良でベンチ外となったタンギ・エンドンベレに代わって公式戦8試合ぶりの先発出場となったが、チーム全体のクオリティは変わらなかった。

 こうしてプレミアに“難攻不落”の要塞を築きつつあるモウリーニョ。その砦がいかに強固なものであるか、16日にアウェイに乗り込むリバプール戦は格好の試金石となりそうだ。

(文:本田千尋)

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なぜ、あえて今アーセナルなのか。
あるアーセナル狂の英国人が「今すぐにでも隣からモウリーニョを呼んで守備を整理しろ」と大真面目に叫ぶほど、クラブは低迷期を迎えているにもかかわらず、である。
そのヒントはそれこそ、今に凝縮されている。
感染症を抑えながら経済を回す。世界は今、そんな無理難題に挑んでいる。
同じくアーセナル、特にアルセーヌ・ベンゲル時代のアーセナルは、一部から「うぶすぎる」と揶揄されながら、内容と結果を執拗に追い求めてきた。
そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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