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岡崎慎司の“守備”はやっぱりすごい。連勝逃したウエスカ、敗因はミチェル監督の交代策にあり【分析コラム】

ラ・リーガ1部の第14節が現地18日に行われ、ウエスカはアスレティック・ビルバオに0-2で敗れた。2試合連続で先発起用されたウエスカの日本代表FW岡崎慎司は、61分に交代を告げられた。ところがチームは終盤に立て続けの失点を喫して敗れた。岡崎を早い時間に下げたミチェル監督の采配が妥当だったのか検証する。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

終盤に2失点し連勝逃す

岡崎慎司
【写真:Getty Images】

 敗因をDFのミスで片付けていいのだろうか。

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 ラ・リーガ1部の第14節が現地18日に行われ、ウエスカはアスレティック・ビルバオに0-2で敗れた。

 前節のアラベス戦でようやく今季初勝利を挙げたウエスカは連勝を目指してアウェイに乗り込んだが、勝ち点1の獲得が迫った終盤に失点を重ねて敗れた。

 ペナルティエリア内で背後を取られたセンターバックのホルヘ・プリードが、たまらずビルバオのFWケナン・コドロに手をかけて倒してしまい、2枚目の警告を受けて退場に。そしてPKをコドロに決められて先制を許した。

 すでに5人の交代枠を使い切っていたため新たにDFを投入することができず、数的不利に陥ったウエスカは後半アディショナルタイムにコーナーキックから2失点目を喫する。ウナイ・ヌニェスに完全フリーでヘディングシュートを叩き込まれた。

 試合後の記者会見の中でウエスカを率いるミチェル監督は、勝敗の分かれ目となったポイントについて「非常に引き締まった互角の試合で、86分までは我々もいい仕事をしていたが、マークのミスによってPKを与えてしまった」と語った。

 つまり指揮官が考える敗因は、プリードの退場とPKだったということなのだろう。だが、キャプテンの「マークのミス」が直接の敗因であるのは間違いないとして、もっと前の段階から苦しくなっていたことから目を背けてはならない。

 ビルバオ戦で勝敗を左右したのはミチェル監督の采配ミスだったのではないだろうか。61分に岡崎慎司を下げてラファ・ミルを投入した交代策が、相手に勢いを与えてしまった。

 この試合で先発した岡崎は交代前までの段階でボールタッチ10回、シュート0本と、スタッツ城はそれほどプレーに関与していたようには見えない。しかし、彼の貢献度の高さはボールに触らない場面によく表れていた。それは守備だ。

 負傷から復帰して本調子を取り戻しつつあるベテランの日本代表FWは、相手ボール保持者へのプレッシャーのかけ方が抜群にうまい。

岡崎が守備面で優れている理由

 例えばビルバオのセンターバックがボールを持った時、岡崎は相手のセントラルMFへのパスコースを切りながら徐々にボール保持者への距離を詰めていく。必ず相手センターバックと相手セントラルMFを結ぶ直線上に立っているのである。

 これをサッカー界では「背中で消す」や「背中を切る」などと表現するが、岡崎は常にチラチラと後ろを見ながら、次にパスを出されたら嫌なコースを消すようにポジションを取る。すると相手ボール保持者はプレーの選択肢が限定されるため、意図した通りにパスを出せなくなる。立ち位置によっては1人だけでなく、2人あるいは3人同時にけん制するような「間」を取ることも可能になる。

 前線からのプレッシングにおいては、先鋒となるFWの動きが基準となって他の選手たちの動きも決まっていく。もし岡崎がビルバオのセンターバックからセントラルMFへの縦パスを「消す」ことができていたら、次の選手はサイドバックや隣のセンターバック、あるいはGKへのバックパスを狙って動き出せばいい。

 全員で「どこで行くかor行かないか」のタイミングを合わせて意思統一を図りながら、パズルをハメるように連動して相手のプレーの選択肢を限定していき、最終的にはより高い位置でボールを奪うこと。それが前線からプレッシャーをかける際の最も重要な狙いとなる。ビルバオ戦前半のウエスカは、岡崎を基準としたプレッシングが機能していた。

 4-1-4-1あるいは4-4-2の陣形全体をコンパクトに保ててたいた前半のスタッツを見ても、ウエスカの連動したプレッシングが効いていたのは明らかだ。ビルバオのシュートはわずかに3本、そして枠内シュートは1本もなかった。

 一方、後半のビルバオは7本のシュートを放ち、うち3本をゴールの枠内に飛ばしている。そして終盤にセットプレーから2得点を奪った。前半は0本だったコーナーキックが後半は5本に増えていることからも、ウエスカが押し込まれる時間が長かったことがうかがえる。

 岡崎に代わってピッチに立ったラファ・ミルは、守備の際にほとんど動かない。先輩FWのように積極果敢に相手センターバックにプレッシャーをかけることはないし、もしボール保持者に寄せたとしても「寄せただけ」であって、相手のプレーの選択肢を限定できるような効果は生まない。

代わって入ったFWがブレーキに

岡崎慎司
【写真:Getty Images】

 最前線からのプレッシングが効かなくなったことによって、ウエスカは陣形全体が後ろ重心になり、自陣の深くまで下がらざるを得なくなった。試合を通じて2人の負傷者が出た一方、攻撃的な交代カードを次々に切ったビルバオが勢いを増していったこともあるが、60分以降に11対11でも劣勢を強いられていた大きな要因はラファ・ミルの存在感のなさにあるだろう。

 相手のボールを持つ時間が長くなれば、ウエスカが攻撃に出る機会は減る。そしてボールを奪う位置が低くなればなるほど、ゴールまでの距離は長くなり、攻撃の難易度も距離に応じて上がっていく。必要なプレーの数が多くなったり、カウンターに出てプレースピードを一気に上げたりすると、ミスの可能性が高くなるのも明らかだ。

 バルセロナのように選手個々の技術的な優位性が常に保証されているなら、低い位置からパスで攻撃を組み立ててもコンスタントにチャンスを作れるかもしれない。だが、昇格組のウエスカにとって陣形全体が押し込まれた状態からの攻撃は非常に難易度が高い。

 結局、ラファ・ミルがアディショナルタイム含め30分強のプレー時間の中でボールに触ったのは5回だけ。最前線までボールを効果的に運べず、1本もシュートを放てなかった。

 ミッドウィークのコパ・デル・レイに出場しておらず、ビルバオ戦に向けて1週間しっかりと準備できていたはずの岡崎を61分に交代させる必要があったのかは大きな疑問だ。今季初勝利を挙げた前節アラベス戦も86分までプレーしていて負傷の影響がもうないことは証明済みで、試合の流れの中でボールに触る機会が少なくとも重要な役割を果たしているのは明らかだったのに…。

 アウェイでの貴重な勝ち点1を目前で逃したウエスカは、相変わらず厳しい戦いが続いていく。常にチーム力で上回る相手に挑んでいかなければならない彼らにとって、岡崎というストライカーの重要性が改めて浮き彫りとなる一戦だった。

 ストライカーは得点数によって評価されると言われがちだが、実際はそれだけではない。ゴールを決める能力以外の面にもしっかりと目を向けていかなければチームは機能しなくなる。

(文:舩木渉)

【了】

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