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クロップはリバプールでどう変わった? 進化を知るための数値「PPDA」とは何か【クロップ戦術の進化・後編】

クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術を赤裸々にする12/14発売の『組織的カオスフットボール教典』から、「ゲームメーカーとしてのプレッシング」を一部抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

上昇から低下を始めた「PPDA」

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図19

 図19の表が、その質問への答えを見つける手がかりとなるかもしれない。クロップ就任以降のリバプールの各シーズンのプレッシングの強度を示すため、「PPDA」と呼ばれる指標を用いた。PPDAとは「守備アクションあたりのパス数」であり、チームが1回の守備フェーズでボールを取り戻すまでに相手チームに何本のパスを繋ぐことを許したかを示すものだ。このPPDAの数値が低いほど、よりアグレッシブなプレスをかけているといえる。

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 ご覧のとおりクロップの就任1年目の平均PPDA値は、前任監督のブレンダン・ロジャーズが指揮を執った試合の数値も含むものではあるが、この表の中で最も低い7.61PPDAだった。そこからシーズンを重ねるごとに数値は上昇し、2018/19シーズンには10.08PPDAに達した。しかし、興味深いことに、2019/20シーズンには数値が9.1と低下している。

 だが、PPDAが年々上昇しながらも、常にリーグ平均を下回っていたことには注目すべきだろう。昨シーズンにリバプールのPPDAが再び低下したことは、より積極的なプレッシング構造に立ち戻ったことを示唆している。

リバプールが繰り出すハイプレスの構造とは?

 クロップ就任当初のリバプールは、ドルトムントと同じではないとしても似たようなプレッシングスタイルを採用していた。だが、そこから大きな調整が行われ、現在我々が目にするような形へと変遷してきた。

 ハイプレスのトリガーが入った時、リバプールの前線の3人は驚異的なまでの激しさでボール保持者に対するチェックに行き、パスコースを切ろうとする。ここで注目に値するのは、現在のリバプールのプレッシングは激しさと戦術的インテリジェンスを兼ね備えていることだ。

 ドルトムントでのプレッシングは激しくはあったが、必ずしも常にインテリジェンスを伴うものではなかったかもしれない。相手のビルドアップの最初のラインに対してプレスをかけに行く時には、まず1人の選手がボールへ寄せて行き、もう1人はプレスをかける位置へと動きつつ、体の位置を使って相手がプレスから逃れる横パスも阻もうとする。リバプールの場合はそこからさらに、ボール保持者が容易にプレッシャーを突破してしまうのを阻むことを目的としたマンツーマンのプレッシング構造へと移行する。

 だが、このハイプレスの形は、現在のリバプールが見せる「唯一」のプレッシング構造ではないということを見逃してはならない。それもまた、彼らが守備面で示す天才性の一部分だ。リバプールには高い位置でボールにプレスをかけつつパスコースを切ることができる力があるが、同時に連続的なプレッシングトラップを組み上げて発動し、最終的にボール奪取へと繋げるプレスのトリガーが引かれるエリアへと追い込むことも難なくこなしてしまう。

(文:リー・スコット)

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『組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる攪乱と破壊』


定価:本体2000円+税

<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。

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【了】

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