ピルロのアンカー起用は発明ではなかった? アンチェロッティが持つ職人的な感覚【ACミランの黄金期(5)】

ACミランが今季は好調だ。120年以上の歴史を持ち、18度のセリエA優勝と7度の欧州制覇を誇るミランには、隆盛を極めた時代が何度もあった。ミランの黄金期を時代ごとに紹介する本連載の第5回は、カルロ・アンチェロッティ監督の下で2度の欧州制覇を成し遂げた2000年代を振り返る。(文:西部謙司)

2021年01月29日(Fri)10時00分配信

シリーズ:ACミランの黄金期
text by 西部謙司 photo Getty Images
Tags: , , , , , , , , , ,

イタリアの伝統とピルロのアンカー起用

0129Pirlo_getty
【写真:Getty Images】

 2002/03シーズン、ACミランは久々のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)制覇を成し遂げる。前シーズンの途中で就任していたカルロ・アンチェロッティ監督はこの後、サッキ・カペッロ体制以来の黄金時代を築いた。

【今シーズンのACミランはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 CLとコッパ・イタリアの二冠を達成したシーズン、リバウド、クラレンス・セードルフ、アレッサンドロ・ネスタが加入している。リバウドの在籍は1シーズンだったが、セードルフとネスタはチームの中心として長く活躍することになった。

 アンチェロッティはMFをダイヤモンド型に組む4-4-2を採用し、アンドレア・ピルロをアンカーポジションに起用した。このピルロのレジスタ(司令塔)は大当たりだった。

 アリゴ・サッキが始めたハイラインのプレッシングは、この時期には世界的に広まっていてラインも下がっている。従ってプレスを仕掛ける位置も低くなった。そうはいっても、フラットラインでなければラインコントロールはできない。

 このミドルプレス全盛の時期に、ピルロの存在は対戦相手にとっては厄介だったに違いない。ピルロとDFでボールの確保ができる。つまり相手のハイプレスは効かない。そしてボールが確保できるので、深すぎないフラットラインの裏をピルロからの1本のパスでつくことができた。

 アンカーポジションに司令塔を置くのはアンチェロッティ監督の発明ではなく、むしろイタリアの伝統ともいえる。インテルのルイス・スアレスやイタリア代表のジャンカルロ・アントニオーニ、ジュゼッペ・ジャンニーニなど、中央の深い場所にプレーメーカーを配置するのは定番で、アンチェロッティも現役時代に経験していた。

 バルセロナのジョゼップ・グアルディオラ、レアル・マドリードのフェルナンド・レドンドといった先例もある。ただ、ミランの戦術革命がイタリアの伝統を壊していて、このポジションには守備力に長けたタイプを起用するのが普通になっていた。

 ピルロの両脇には“闘犬”ジェンナーロ・ガットゥーゾと万能のセードルフを配し、トップ下はマヌエル・ルイ・コスタ、フィリッポ・インザーギとアンドリー・シェフチェンコの2トップ。リバウドとルイ・コスタの2シャドーによる4-3-2-1もあった。

5季で2度の欧州制覇

0129Ancelottti_getty
【写真:Getty Images】

 03/04シーズンはセリエA優勝。このシーズンはカフーとカカが加入した。無尽蔵のスタミナとスピード、確実なテクニックの右SBカフーはディフェンスラインを完成させ、カカは破格の突破力と頭脳的なプレーで新たな看板選手になった。

 04/05はセリエA連覇を逃し、CLも準優勝。トルコのイスタンブールで行われたファイナルでは、3-0で折り返したミランの完勝と思われた。ところが後半に巻き返したリバプールに3点を連取されて延長へ。ミランはPK戦で敗れた。

 05/06はイタリアサッカー界を揺るがす「カルチョ・ポリ」という審判買収など大規模な不正が発覚し、ミランにはマイナス44ポイント、次のシーズンをマイナス15ポイントからスタートという裁定が下る。ただしペナルティは軽減され、このシーズンを3位でフィニッシュしてCL出場権を手にした。これが次のシーズンのCL優勝へつながった。

 06/07、カカの大活躍でアンチェロッティ監督下での2度目のCL優勝。決勝の相手は2シーズン前に「イスタンブールの奇跡」を起こされたリバプールだった。5シーズンで3回のCLファイナルで優勝2回。セリエA優勝は1回だけだったが、アンチェロッティ監督のミランはCLに強かった。イスタンブールの決勝も油断しなければ優勝できていたはずである。

アンチェロッティの職人的な感覚

 この時期のエースだったカカはブラジル人としては異色のタイプだ。冷静に試合を読めるプレーメーカーで、それ以上に無双のドリブラー。大きなストライドで相手を置き去りにスピードドリブルが独特だった。

 遠い間合いから仕掛けて通過していくので、スペースを与えたら止めようがなかった。豪快な突破からのシュートも正確かつ強烈。ジンガを駆使するよりスケールと迫力で圧倒していた。

 オフサイドぎりぎりの男、フィリッポ・インザーギも得点を量産した。オフサイドぎりぎりというより、ぎりぎりオフサイド。VARのある現在なら、インザーギの得点は半減していたかもしれない。多くのシュートが至近距離、ポジショニングで勝負する狡猾なストライカーだった。

 アンチェロッティは選手の能力を生かしながらチームをくみ上げるのが上手い。サッキのようなイノベーターではなく、職人的な感覚で安定したチームを作り、多少時間はかかっても間違いのない監督になっていた。

 ミランのような会長の力が強いクラブでも上層部と揉めることはなく、選手にもフェアで必要以上にプレッシャーをかけることもない。理想的な中間管理職といっていいかもしれない。

(文:西部謙司)

【了】

新着記事

↑top