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ハーランドはなぜ、こんなにも凄いのか? 堅守セビージャを破壊したワールドクラスの巧さとは【CL分析コラム】

UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16・1stレグ、セビージャ対ドルトムントが現地時間17日に行われ、2-3でドルトムントが勝利した。アーリング・ハーランドは2得点1アシストの活躍で、ラ・リーガ屈指の堅守を誇るセビージャを撃破。ハーランドはなぜゴールを量産できるのだろうか。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

目を覚ましたドルトムント

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【写真:Getty Images】

 セットプレーからセビージャが84分に1点を返したが、走り勝ったドルトムントがアウェイでの1stレグに勝利。貴重なアウェイゴールを3つも持ち帰っている。

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 立ち上がりはドルトムントの距離感が悪く、前線にボールが渡っても孤立した。守備でもコンパクトさはなく、DFの間を突かれている。先制点となったスソのゴールも、寄せが甘くなったところを切り返してかわされ、ほぼフリーの状態でシュートを放たれたことで生まれたものだった。

 ただ、セビージャの先制ゴールでドルトムントは目を覚ました。ディフェンスはコンパクトになり、いい位置でボールを奪えるようになった。カウンターのチャンスとなれば、前線の3枚にはゴール前まで運ぶ能力がある。瞬く間にドルトムントは試合の主導権を奪っていった。

 先発に抜擢されたマフムド・ダフードの鮮やかなミドルシュートで同点に追いたドルトムントは、前半だけで3得点を奪った。ジェイドン・サンチョとのワンツーで抜け出したアーリング・ハーランドがゴールネットを揺らす。43分には敵陣で相手のミスを突いてボールを奪うと、マルコ・ロイスのパスを受けたハーランドがゴールを決めた。

 後半はセビージャペースとなったが、ディフェンシブサードでの守備は集中を切らさなかった。この試合の個人走行距離はトップ5までをドルトムントの選手が独占。ジュード・ベリンガムは11.25km、ダフード、エムレ・ジャン、ハーランドも10kmを超え、5位のサンチョも9.96kmを記録した。

プレースタイルのルーツ

 セビージャは公式戦7試合連続無失点中だったが、20歳の青年の前に無力だった。ハーランドは2得点1アシストの活躍。今大会8得点で単独トップに躍り出ただけでなく、大会通算でも13試合で18得点という驚異的なペースでゴールを量産している。

 圧倒的なパワーで空中戦を制するようなプレーは少ないのは少年時代の名残だろうか。身長194cm88kgという巨体を持っているが、16歳で母国の強豪モルデに移籍したころは小柄だったという。しかし、負傷でチームから離れている間に身長が一気に伸び、かつてプレミアリーグで活躍した父の身長も超えた。

 ボールと相手の間に身体を入れる技術は、小柄だったハーランドが身に着けた術なのかもしれない。ボールタッチも正確で、ターンも俊敏だ。スルーパスを引き出す動きに長けているのも合点がいく。

 フィルジル・ファン・ダイクやスコット・マクトミネイも、10代の後半に急激に身長が伸びたという。自分より大きな選手に対峙した経験は、成長期を経ても活かされる。その分、常に周りより大きかった選手よりも武器が多いのかもしれない。

特筆すべきハーランドの巧さ

 ハーランドがDFラインの裏に抜ければスルーパスが出るし、ライン間に降りれば縦パスが入る。ドルトムントはハーランドの動きに合わせてボールを出しているように見える。

 ハーランドにボールが集まるのは、ボールを奪われるリスクが少ないからだろう。データサイト『Whoscored.com』の集計によると、今大会でのボールロスト(ドリブル時は含まない)は90分平均で0.8回という少なさ。カリム・ベンゼマの1.6回、クリスティアーノ・ロナウドの1.4回、ロメル・ルカクの1.8回という数字と比べても秀でているのが分かる。

 ハーランドはボールを奪われてカウンターを受ける可能性が低い。なので、ハーランドにボールを当ててロイスやサンチョ、2列目の選手たちが積極的に上がれるというわけだ。

 左足でシュートを放つことからすべての動きが逆算されている。今大会の8得点のうち7得点は左足で、この日放った3本のシュートもすべて左足。2点目のシーンでロイスが出したパスに対する動きのように、パスを受けるときの面を作る動きが非常に巧い。

 ダフードへのアシストと自身の1点目は、ハーランドのドリブルから生まれている。フィジカルとスピードが目に付くが、相手の届かないところにボールを置くのが巧い。相手はボールに触れないので身体を当てるしかないが、194cmの巨体はびくとも動かなかった。

 ハーランドのプレーを抽象化すると、空間を認知する能力が抜群に巧いことが分かる。ボールとゴールの位置、そして相手の位置を瞬時に把握する能力はワールドクラスだ。身体の成長が追いついたことで、その能力が活かされるようになったのかもしれない。

 身体能力やボールテクニックに依存していないので、早熟の天才ではない。怪我さえなければ多くの記録を打ち立てるだろう。

(文:加藤健一)

【了】

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