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「プレスマスター」による戦術は…? チームを躍進させた圧倒的数値【マルコ・ローゼの章・後編】

text by 結城康平 photo by Getty Images

今季からボルシア・ドルトムントを率いるマルコ・ローゼ。順調にキャリアを歩む「プレスマスター」と称される監督哲学に迫る。好評発売中『フットボール新世代名将図鑑』から、宝石ハーランドを授かった昇竜のプレッシングマスターとして収録「マルコ・ローゼ」の項を一部抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:結城康平)

驚異的な数値を記録した「PPDA」

マルコ・ローゼ
【写真:Getty Images】

 プレッシングにおいて、欧州で最も戦術的に優れた若手指導者だったローゼはオーストリア時代、「プレスマスター」として注目を集めてきた。そのフットボール哲学の根本にあるのは、チームワークと選手の献身だ。あくまでも積極的にボール狩りを仕掛け、主導権を奪うのがローゼのフットボールなのだ。レッドブル・ザルツブルクでプレーしているブラジル人DFアンドレ・ラマーリョは、ローゼのアプローチについて次のようにコメントしている。

「自陣からビルドアップで攻撃を構築するチームは多く、彼らは素晴らしい選手を揃えている。我々がプレスを仕掛けなければ、彼らは簡単にプレーすることになる。彼らはプレッシャーがない状況では時間を使い、最適なオプションを選べる。しかし、プレッシャーが強ければ相手も最適な選択が難しくなる」

 国内リーグでは絶対的なチームとして攻撃を仕掛ける時間が長かったザルツブルクだが、ローゼのチームはヨーロッパリーグでも成功している。そのカギとなったのが、相手が選択する時間を奪う意識だ。激しく献身的にプレッシングを仕掛けるチームによって、相手のビルドアップは妨害される。「PPDA」(パスごとの守備アクション数値。ハイプレスの強度を測る指標として使われている)というプレッシングの強度を測る指標があるが、ローゼ時代のザルツブルクは6.6という圧倒的な数値を記録している。プレミアリーグの平均が1.4~1.5であることを考えれば、そのプレッシング強度は脅威だ。

 ザルツブルクは前線から容赦なく相手を妨害し、中盤でボールを回収していく。そのメカニズムは、師であるクロップの思想とも適合するものだ。もともとクロップは、次のように理想的なプレッシングについてコメントしたことがある。

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「チャンスがあれば、私はダイヤモンドのフォーメーションでプレーしてきた。2人のストライカーと4人の中盤をダイヤモンドに並べることで、私のシステムは機能する。3トップであっても、同様にダイヤモンドの関係性は意識している」

 ここで彼が語るダイヤモンドの目的は、あるスペースを「4人で消すこと」だ。例えばリヴァプールを例にすると、前線のロベルト・フィルミーノと中盤の3人はダイヤモンドを形成している。それによって、相手チームの中盤を機能不全に陥らせるのがクロップの狙いだ。モハメド・サラーとサディオ・マネが前線の高い位置からプレッシングを仕掛けるリヴァプールのシステムは、機能性という面では[4-4-2]に酷似している。

 ローゼのメカニズムも、根本的にはクロップに近い。2トップがCBからSBへのパスコースをカバーシャドウで消しておいて、中盤はダイヤモンドでボランチ2枚のスペースを封鎖。それによって、相手はロングボールで逃げるしかなくなってしまう。

 もう1つの選択肢としてGKに戻しても、ショートパスのコースが消されているので長いボールを強要される。特に両CBとアンカーへの厳しいプレッシャーが特徴的で、GKが選択しやすいコースを消しておくのだ。それがトップ下を置く1つのメリットであり、ローゼのザルツブルクは徹底して後方の組み立てを遮断。ロングボールに競り勝てる選手を揃えていたこともあり、ボールの回収も成功する確率が高かった。

(文:結城康平)

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