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なぜ日本は団体競技で勝てないのか? その根源的理由に迫る【サッカー本新刊レビュー:老いの一読(6)】

シリーズ:サッカー本新刊レビュー text by 佐山一郎 photo by Getty Images

サッカー本新刊レビュー

9回目となる小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を選定。この新刊レビュー・コーナーでは、2021年以降に発売された候補作にふさわしいサッカー本を随時紹介して行きます。




『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか?』


(ソル・メディア)
著者:河内一馬
定価:1870円(本体1700円+税)
頁数:256頁

 わっ、難しそうな本だな、と経験豊富なはずのわたしが思わず叫んでしまうのはなぜか。センス良く引用されているノエル・キャロルやエマニュエル・トッドら何人かの本だって読み込んできたつもりなのに。

 理由はやはりタイトル中の〈闘争〉にありそうです。

〈闘争〉ということでは、アドルフ・ヒトラーの『我が闘争』や早稲田系ラグビー盲信者のバイブル、大西鐵之祐『闘争の倫理 -スポーツの本源を問う-』あたりが有名どころ。古くは「学園/街頭闘争」の果ての「火炎瓶/爆弾闘争」なんてのもあってか、どうも、〈闘争〉に日本人はアレルギー反応を起こしやすい。というよりもそれを得手としていません。そう言い切れたのは、稀有なるこの思想書の著者、河内一馬鎌倉インターナショナルFC監督によって蒙を啓かれたからです。

 読者諸兄妹もまたわたしと同じように第2章「分類の重要性と競争闘争理論(Competition and Struggle Theory:CST)」での2020東京オリンピックの分析に感心することしきりでしょう。

 58個の獲得メダルは過去最高と文中にありましたが、実際は過去2番目。27の金メダル数が過去最多なのですが、「団体闘争」に分けられる球技では(開催ご祝儀の追加競技であった)「間接的団体闘争」に分類される野球とソフトボールを外すと、メダルの獲得は女子バスケットボールだけ。我らが五輪スクォッドもメキシコに敗れてメダルを逃がしました。

 その指摘から先の、なぜ日本は「団体闘争」でのみ世界で勝てないのか──というアポリアの探求が本書の読みどころです。個人と団体における〈競争〉や個人の〈闘争〉では好成績を出せているのに、それが「団体闘争」となると、なぜ、なぜ、なぜ……。

 著者のオリジナリティーは、何にも増して(スポーツとしての)ゲーム分類にあります。全スポーツの一緒くたにこそ諸悪の根源があるとする著者の見解には諸手を挙げて賛成します。

 本書には46(45+表紙)ものグラフィック表示が添えられています。河内一馬ならではの独創的な純理論的思考が苦手なタイプは、図表類の出てこない最終第9章から読んでみるのも一考。

 そこでのタイトルづけだけは平易で「なぜサッカーは『かっこよくなければならない』のか」──。サッカーを愛しながらも、離脱感情との闘争を半世紀以上も続けてきたわたしには「クールであれ。弱いとダサいは比例するのだから」と説いてくれる著者のような人との出会いがなかったことが悔やまれます。

 デズモンド・モリス『サッカー人間学-マンウオッチングⅡ』を読んだとき以来の知的興奮があったことを最後に付記しておきます。

(文:佐山一郎)


佐山一郎(さやま・いちろう)
東京生まれ。作家/評論家/編集者。サッカー本大賞選考委員。アンディ・ウォーホルの『インタビュー』誌と独占契約を結んでいた『スタジオ・ボイス』編集長を経て84年、独立。主著書に『デザインと人-25interviews-』(マーブルトロン)、『VANから遠く離れて 評伝石津謙介』(岩波書店)、『夢想するサッカー狂の書斎』(小社刊)。スポーツ関連の電書に『闘技場の人』(NextPublishing)。

【了】

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