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リバプール名参謀の仕事とは? ラインダースが明かす“アンフィールドの奇跡”の裏側【名参謀の流儀・独占インタビュー後編】

text by アルトゥル・レナール photo by Getty Images

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プレミアリーグ優勝をあと一歩でのがしたものの、今季のリバプールは国内カップ戦2冠(FAカップ、リーグカップ)を達成し、UEFAチャンピオンズリーグでは過去5シーズンで3度目となる決勝進出を果たしている。「参謀がサッカーチームを決める」と題した『フットボール批評issue36』(6月6日発売)では、名将ユルゲン・クロップの右腕として高く評価されるペピン・ラインダース(リバプールアシスタントコーチ)に独占インタビュー。今回はそのインタビューを一部抜粋し、3回に分けて公開する。(取材・文:アルトゥル・レナール、翻訳:山中忍)


アンフィールドの奇跡の裏側

Miracle of Anfield
【写真:Getty Images】

 敬愛の念はリバプール指揮官も同様だ。5月6日に助監督をインタビューするひと月ほど前、別件で話を聞いたクロップはラインダースを絶賛していた。当初、前体制下でコーチングスタッフ入りしていたオランダ人の続投は、クラブを所有する「フェンウェイ・スポーツ・グループ」の意向だったとのこと。

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 だが、一緒に仕事を始めて2カ月もすると、オーナー会社の経営者に「気に入るはずだからと言われましたけど、それは間違いでしたね。気に入るどころか……ベタ惚れですよ!」と、ジョークを交えて報告したのだという。「とにかくポジティブな男で、若い頃の自分を思いだすことも多い。あの活力に、あの打ち込み具合。練習グラウンドでのセッションを情熱と自信を持って仕切ってくれる」と、“ペップ”と呼ぶ自らの片腕を評していた。

 そのラインダースが、監督として祖国のNECナイメヘンに引き抜かれたのは2018年1月。しかし、半年もしないうちにリバプールでの再会をみている。表面的な肩書きは「助監督」だが、一般的に言われる「ナンバー2」の立場ではなく、より広範囲に及ぶ協力を求めたクロップも、直々の復帰要請に心打たれて快諾したラインダースも、揃って「パートナー」と呼ぶ関係でのアンフィールド帰還だった。2人は、今年4月後半に2026年までの契約延長に合意してもいる。

―日々の仕事の中で、コーチングスタッフが具体的にどのように機能しているのかを教えてほしい。

「もちろん、リーダーはユルゲン。チームの顔であって、その特性がチームの特性となる立場にある。互いにインスピレーションを与えあえる環境の中でも、やはり最大の影響力は彼。リーダーシップの強さと、モチベーターとしての腕前に関しても世界屈指の名監督だ。戦況だけではなく、選手の精神状態についても洞察力が鋭い。

 よくユルゲンについて聞かれた時に紹介しているのが、3シーズン前のチャンピオンズリーグ準決勝での出来事。バルセロナに0対3で負けた初戦でのハンディを跳ね返した決勝進出は、アウェーでの第1レグを終えた直後のロッカールームで、『俺たちの他にバルセロナから逆転勝利を奪えるチームなどいない』とチームに言い聞かせた監督のひと言で始まった。あの言葉で選手たちは、自分たちのサッカーは間違っていないという意識を新たにして、頭を上げて帰途に就くことができた。

 週の始めには、スケジュールや対戦相手によってハマる危険性のある落とし穴を指摘してくれるので、そのリスクを避けることも考慮して準備を進めることができる。チームのスタイルに関しては確固たるビジョンを持つ一方で、それを徹底して磨くためのトレーニングに関しては非常に柔軟。常に革新性を求めているタイプでもあるので、アイデアや意見を出す側としてもやりがいがある。

 僕自身は、練習メニューの作成が主なテリトリー。バリエーションは様々でも、基本中の基本と言える目的は変わらない。どのメニューも最終的には、相手コートの高い位置で素早くボールを奪って攻め続けるためのもの。特に、そのスタイルを貫くためのメンタリティを植え付けることにある。一緒にアシスタントをしているピート(ペーター・クラヴィッツ)は、対戦相手を含むパフォーマンス分析と、チームミーティングで使うビデオ映像の準備がメイン。毎回、意見を交わしながら意識すべきポイントを明確にして、それを効率良く、しかも意欲的に理解してもらえるようなトレーニング方法を考えることになる」

『フットボール批評issue36』

<書籍概要>

定価:1650円(本体1500円+税)

特集:参謀がサッカーチームを決める

「未来予想図」を作れない軍師はいらない

「参謀」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは“残念ながら”牧野茂だ。プロ野球・読売ジャイアンツの川上哲治監督を戦術面で支え、前人未到のV9を成し遂げたのはあまりにも有名である。組織野球の技術書『ドジャースの戦法』をそれこそ穴の開くほど読み込み、当時の日本では革新的な組織戦術でセ・パ両リーグの他球団を攪乱していった。しつこいようではあるが、サッカーチームの参謀ではない、残念ながら。

言い換えれば、すなわち日本のサッカー界で誰もがピンと来る参謀はいまだにいない、ということだ。世界に目を向けると、クロップにはラインダース、ペップにはリージョ、アンチェロッティには息子ダヴィデと、参謀の顔が瞭然と見える。今や参謀がチームの行く末を決定づけているなかで、日本ではそもそも参謀の役割すら語られることがない。日本から名参謀を生むためには、参謀の仕事をまずは理解することから始めなければならない。

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【了】

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