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「その瞬間、メッシがサッカーの神であることを忘れた」サッカーが持つ物語性【英国人の視点】

シリーズ:英国人の視点 text by ショーン・キャロル photo by Getty Images

「だから私はサッカーが好きなのだ」サッカーが持つ力とは?



 モロッコ代表がポルトガル代表を倒し、アフリカ勢として初めての準決勝進出を決めた後、モロッコ代表のソフィアン・ブファルがピッチ上で母親とダンスし、前立腺癌と戦うオランダ代表監督ルイ・ファン・ハールは、選手たちと思いのままキスをしていた。アメリカ人ジャーナリストのグラント・ウォールがオランダ代表対アルゼンチン代表戦の取材中に悲劇的な死を遂げ、サッカー界からは溢れんばかりの愛情が寄せられるなど、大会を通してこうした人間の話が目につくようになった。

 また、チュニジア代表とモロッコ代表がかつて植民地であったフランス代表とスペイン代表に勝利したことは、両国に歓喜の瞬間をもたらした。サウジアラビア代表とカメルーン代表もグループリーグで南米の強豪アルゼンチン代表とブラジル代表に大勝し、選手とサポーターに一生の思い出を与えてくれた。

 そしてもちろん、日本代表もそうだった。グループステージでドイツ代表とスペイン代表を撃破し、世界中に衝撃を与え、ラウンド16では惜しくも敗退することとなった。

 決勝戦後、アルゼンチン代表が歓喜に沸く中、NHKの解説者をしていた森岡隆三は「いつかサムライブルーがこのような喜びを味わう姿を見たい」と言った。しかし、忘れてはならないのは、このような瞬間は大舞台に限ったことではなく、スポーツには毎週末、選手とファンとの間にこのようなつながりを提供する力があるということである。

 サッカーは戦術や統計、肉体的な決意だけでなく、ピッチを離れたところにそれぞれの人生や個性、葛藤を持った人間によってプレーされているのです。メッシがドーハで味わったような見返りはもちろん少ないが、こうした物語の一つひとつは、一度物語に入り込めば、同じように満足することができる。

 だから私はサッカーが好きなのだ。ワールドカップが終わり、2023年に全国のスタジアムで繰り広げられるドラマの中に身を置くために、Jリーグの新しいシーズンが待ち遠しいのである。顔ぶれは変わっても、サッカーに終わりはない。

(文:ショーン・キャロル)

【了】

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