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「その瞬間、メッシがサッカーの神であることを忘れた」サッカーが持つ物語性【英国人の視点】

シリーズ:英国人の視点 text by ショーン・キャロル photo by Getty Images

その瞬間、メッシがサッカーの神であることを忘れた



 さて、日曜日の公式トロフィー授与を前にしたルサイルスタジアムのピッチ上の様子を見てみよう。大会が進むにつれてますます過剰に組織化され、不毛なプロセスとなり、祝賀ムードを盛り上げるどころか、むしろ損なわせているこのショーの準備が行われる中、何千ものカメラのレンズが、アルゼンチン代表の選手とスタッフに向けられ、彼らは互いに、そしてファンと共に成功の最初の瞬間を味わった。

 数分後、メッシがスタンドに降りてくる人を熱心に手招きしているのが見えたが、ほどなくして、アルゼンチン代表のシャツを着た興奮した人物に背後からつかまれた。

 メッシは最初、驚きや不満の表情を浮かべていた。FIFAがインフルエンサーを早くも解放し、不愉快なソルトベイ(注:ピッチに乱入して選手らと写真を撮り、トロフィーにキスをして波紋を呼んだトルコ人シェフ)が自分に声をかけていると思ったのだろうか。

 しかし、その驚きの表情は一瞬にして消え去った。彼は満面の笑みを浮かべ、“侵入者”である自分の母親と固く抱き合ったのだ。

 この瞬間、メッシがGOAT(歴史上もっとも偉大な選手)であり、ブランドであり、アルゼンチンサッカーの神であることを忘れ、私たちは彼の人間性、そしてサッカーで何ができるかに関係なく、彼が1人の生身の人間であるという事実を思い知らされた。

 多くの人にとってスーパーヒーローであっても、ある人にとっては単なる息子であり、夫であり、父親である。究極の栄光への旅は彼一人のものではないのだ、という事実がそこにはあった。

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