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なぜアーセナルはGKラヤを起用するのか? ラムズデールにはない能力とは【分析コラム】

シリーズ:分析コラム text by 竹内快 photo by Getty Images

ラムズデールにはないラヤの強み



 最も印象的だったのは、ビルドアップ時にゴールマウスを離れてGKではなくなる、ラヤの「偽GK」化だ。

 この試合のアーセナルの最終ラインは右からベン・ホワイト、ウィリアム・サリバ、ガブリエウ・マガリャンイス、オレクサンドル・ジンチェンコというお馴染みの布陣。ボール保持時は、左SBジンチェンコがMFデクラン・ライスと共に中盤に入って4バックから3バック(ホワイト-サリバ-マガリャンイス)に可変し、[3-2-2-3]に近いフォーメーションを形成する。柔らかなタッチと優れたパスセンスを持つジンチェンコと、“強さ”、“高さ”を持つライスが2ボランチ気味の位置でプレーすることでビルドアップに高い安定感をもたらすことが可能だ。

 この3バックにさらなるアクセントを加えるのが、先述したラヤの「偽GK」化。より正確に言えばラヤの「左CB」化かもしれない。ラヤはこの動きをUEFAチャンピオンズリーグ・PSV戦でも見せていたが、この試合ではその効果がさらに絶大なものとなっていた。

 右CBサリバにボールが渡ると、ラヤがゴール前を離れてペナルティエリア左前方へ移動。それに連動して左CBマガリャインスがさらに左側へシフトし、左サイドでサリバ-ラヤ-マガリャンイスで3バックを組んでいるような位置を取った。

 これには3つのメリットがある。ラヤが左CBとしてビルドアップに参加することで、
(1)最終ラインからの組み立てで数的優位な状況を維持する
(2)最終ラインと前線を繋ぐ、ジンチェンコとライスをより高い位置で留まらせる
(3)プレスに来た相手FW/MFの重心を左サイドへ寄せる
ことが可能だ。

 ラヤを経由した中央(サリバ)から左サイド(マガリャンイス)にかけてのパス回しにボーンマスの前線が食いつかせたタイミングで、ラヤがロングボールで一気にサイドチェンジ。引き付けてから逆サイドに展開することで、ホワイト、ウーデゴール、ブカヨ・サカが抜群の連係を見せる右サイドを活性化させた。この試合でラヤは5本のロングパスを成功させている(データサイト『Sofa Score』参照)。精度の高いロングボールで、局面を打開できるのはラムズデールにはないラヤの強みだ。

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