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お騒がせGKの知られざる素顔。エミリアーノ・マルティネス、アルゼンチン代表GKの“愛”に溢れた生き方【コラム】

シリーズ:コラム text by 安洋一郎 photo by Getty Images

初めて定位置を与えてもらった「クラブへの愛」


【写真:Getty Images】


 マルティネスのキャリアは決して順風満帆なものではなかった。10年間過ごしたアーセナルではなかなかチームの構想に入ることができず、計6クラブへのローン移籍を含めた公式戦の出場試合数は101試合しかなかった。

 特に厳しかったのがヘタフェでプレーした2016/17シーズンで、ラ・リーガではたったの4試合しか出場することができなかった。家族とも離れて生活をしなければいけなかったため精神的にも疲弊し、引退を考えるほど追い込まれていたそうだ。

 こうした長い下積み時代を過ごしたマルティネスが初めて手に入れた“安住の地”が現在プレーするアストン・ヴィラだった。彼にとって加入初年度の2020/21シーズンがキャリアで初めて正GKとしてフル稼働した1年となり、そこからの3シーズン弱でアーセナルでの10年間を上回る公式戦125試合に出場している。

 自らにプレミアリーグでのチャンスをくれたクラブに対しては強い愛情と感謝の気持ちを持っている。「今の自分があるのはアストン・ヴィラのおかげだ」と何度も語り、現在は2027年夏までの長期契約を締結している。

 アストン・ヴィラは2部時代の18年夏にナセフ・サウィリス氏とウェズ・イーデンス氏がオーナーとなってから「UEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝」を目標に強化を行っている。この長期的なプロジェクトにマルティネスも賛同しており、事あるごとに「アストン・ヴィラでトロフィーを獲得したい。CLに出て優勝したいんだ」と語っている。

 彼の人となりの良さとアストン・ヴィラへの愛着は、記事の最後に添付した動画を見れば感じ取ることができるだろう。

 そして現在チームを率いるウナイ・エメリ監督の存在も大きい。彼はアーセナル時代に初めて自身をトップチームの構想に入れた人物であり、2番手ではあったが明確に戦力としてカウントしていた。このスペイン人指揮官の決断があったからこそマルティネスはアーセナルから放出されることなく、ブレイクのキッカケとなった2019/20シーズン後半のパフォーマンスにも繋がった。

 キャリアを変えた恩師とも言ってよい存在であるエメリとの関係性は良好で、彼がアストン・ヴィラの監督に就任したときの心境を「彼がクラブと契約したとき、私は大喜びした。自分にとって彼は今世界で5本の指に入る監督だ」と明かしている。

 マルティネスも絶賛するエメリ監督の手腕のお陰で、“眠れる古豪“は大幅な強化に成功している。第10節終了時点で首位と勝ち点4差の5位に位置しており、ホームでは昨季から12連勝を達成。クラブが掲げる目標に向けて、順調な歩みを進めている。

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