アルテタ監督が冨安健洋を起用した意図と成果
トッテナムを率いるアンジェ・ポステコグルー監督のチームは、相手チームの状況や自チームの怪我人などのスカッド状況に関係なく、明確な自分たちの「型」を持っている。これは選手たちの共有力が上がれば上がるほど強さを発揮する一方で、相手チームからすると対策を講じやすい。
その対策の一環として、アルテタ監督は冨安を左SBとして起用したと考えられる。というのも、ポステコグルーのチームはボールをサイドに展開した際にアーリークロスを狙う傾向にあり、スペースを埋めつつマークしている選手にも堅実な対応ができる日本代表DFの抜擢は理にかなったものだった。
指揮官の狙いはピタリとハマる。この試合のアーセナルはいつも以上にクロス対応が抜群だった。最終ラインと中盤がスペースを空けることなく、周りの状況を見ながら適切な立ち位置に立つことでトッテナムのクロスを跳ね返し続けた。
確かに冨安は1対1の局面で抜かれてしまう場面もあったが、サッカーは個人の勝負ではなくチームで戦うスポーツだ。もちろん1対1で勝つことに越したことはないが、チームとしては「クロス対応」を最重要視した守り方を徹底しており、相手にクロスを上げられる行為そのものは致命傷にならない。
むしろ1対1で完璧な守備対応をすることよりも、逆サイドからのクロスに対してボールウォッチャーにならずに対応することの方が優先度としては高く、個人よりもチーム全体の構造を踏まえると冨安の起用は絶対的に正解だったと言える。
スタッツを見ると、トッテナムはコーナーキックをはじめとするセットプレーを含めて34本のクロスを上げているが、それが通ったのはたったの4本。オープンプレーに限定することほとんどクロスからチャンスを作らせなかった。失点シーンもラヤの個人的なミスとPKであり、現に流れの中からは1本も枠内シュートを許していない。
最後はホームサポーターの圧力もあって押されたアーセナルだが、しっかりとトッテナムのクロスを跳ね返して勝利を飾った。指揮官の準備とその期待に応えた選手たちが勝ち取ったこの勝利の勢いそのままに、最後まで王者マンチェスター・シティと優勝争いを演じられるだろうか。
(文:安洋一郎)