PK戦では常に驚異的な力
契約満了により、移籍金が発生されなかったこと、年俸が700万ユーロ(約11.2億円)にも上ることから、米ドル(イタリア語で「ドッラロ」)をもじり、“ドッラルンマ”、“守銭奴”と激しく罵られた。
ちなみに、移籍専門サイト『Transfermarkt』によると、当時のドンナルンマの評価額は、6000万ユーロ(約96億円)に達し、史上最も価値の高い、“ゼロ円移籍”となったと伝えられている。
それでも、その年に行われたEURO2020(欧州選手権)では、圧倒的な存在感で、アッズーリの“守り神”となった。これほどの選手を、1円も得られずに失ったミラニスタの心中が穏やかでなかったのも、無理はないだろう。
その欧州選手権、スペイン代表との準決勝は、アルバロ・モラタのシュートを、イングランド代表との決勝では、ジェイドン・サンチョとブカヨ・サカのそれを完全に読み切ってセーブ。イタリアを欧州の頂きに導くとともに、この大会の最優秀GKに選出されるだけでなく、最優秀選手にも選ばれている。このとき、まだ22歳の若さだった。
欧州選手権やリヴァプールとの大一番だけでなく、PK戦では常に驚異的な力を見せていた。
2016年12月23日、カタールで行われたスーペルコッパでは、ユヴェントスとの対戦で、5人目のパウロ・ディバラのシュートを右手1本で弾き出し、もう一人の偉大な“ジャンルイジ”との対決を制して、ミラン加入後、初のタイトルを獲得している。2018年2月28日のラツィオとのコッパ・イタリア準決勝でも輝きを放った。セルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチとルーカス・レイヴァのシュートを防ぎ、雨中の大熱戦で勝利をもたらした。
2020年10月1日には、ポルトガルのリオ・アヴェとのUEFAヨーロッパリーグ(EL)予選プレーオフにおいて、両チーム合わせて24名ものキッカーが登場した壮絶なPK戦をモノにした。自らも蹴ったPKは大きく外れてしまったが、ラストキッカーのシュートをブロック。この試合のヒーローとなった。
唯一の敗戦は、2022年1月31日に行われたクープ・ドゥ・フランスのベスト16、ニース戦。敗れはしたが、PK戦で1本のシュートをストップしている。これまでに経験した7回のPK戦のうち、実に6度もチームに勝利をもたらした。PKの強さは、単発のPKでも存在感を放ってきた。
PSGとミラン時代、イタリア代表も含めた公式戦において、試合の流れの中のPKでも、58本中15本も防いでいる(クロスバーやポストに弾かれたものも含め)。キッカーが圧倒的な有利に立つと言われるPKにおいて、実に4人に1人ものPK対決に打ち勝っているのだ。ゴールマウスに立ちはだかる、1メートル96もの巨体が、キッカーに無言のプレッシャーを与えているのだろう。