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コラム 2か月前

ドイツサッカー「BoS」の理想と必要悪。ボール奪取直後にリスクを負うべきシチュエーションを解説する【BoS理論(6)】

シリーズ:コラム text by 河岸貴 photo by Getty Images

理想と必要悪。「できるだけ速くゴールに向かうべき」だがそれがすべてではない

 ちなみに、自陣深くでのボール奪取直後は相手のゲーゲンプレスを受けやすい、というよりはボール保持側は意図的にアタッキングサードに近づけば近づくほどゴールに直線的に向かいたいため、幅を最小限に使います。一方でこれは、シュトゥットガルトのようにボールロストした直後にゲーゲンプレスをかけやすいという意図もあります。パスミスをしたウォルトメイドだけがプレスに行くのではなく、その他の選手も攻撃の構造上、素早いゲーゲンプレスに移行できます。

 この横へのパスはできるだけ速くゴールに向かうべきというボール奪取後の理想に対して、状況的に必要悪だと言えます。ただし、縦軸ではない横軸のプレーは最大1回で、さらにプレーするレーンをひとつ分だけ変えます。この例で言えば、ハーフスペースからセンターへのレーン変更です。そうでなければ、前進速度の低下とパスカットされる危険性が高く、必要悪からただの悪、逆カウンターを受けるだけのパスに成り下がります。
 
 このパスを受けたピアリンガーはプレスから解放され、プレースピードを上げるべきタイミングであることと横軸のパスでタイムロスをしているので、出来る限り速いテンポで前進します。中央を締めにかかるシュトゥットガルトのDF3人に対して、それでもワントップのベックはゴールへの最短距離のランニングコースを選択し、ピアリンガーはその厳しいコースにスルーパスを通します。
 
 日本では往々にしてこの場面ではサイドのオマル・トラオレへのパスになるでしょう。さらなる横軸のパス、レーンの変更は「BoS(ベーオーエス)理論」的には良しとしません。
 
 このスルーパスはそれほど簡単ではなく、ちなみに前述したレヴァークーゼン対ケルン戦の2点目につながるダミオン・ダウンズのスルーパスはよりギリギリのラインを通しています。スピードに乗ったドリブルから厳しいコースに強く正確なパスを出せることもモダンサッカーの技術のひとつです。
 
 あわせてゴールから大きく離れて逃げるのではなく、ゴールに直線的に狭いDF間を割って入るランニングコースを取りボールを受けるFWのプレー態度も重要です。このようなことを意識したパスコン(パス&コントロール)を2024年末にJリーガーのミニキャンプで実施しました。その様子がYouTubeで少しだけ見れます(7分38秒から)。よろしければ参考にしてください。


参照元:YouTube

この項をまとめると、
・相手のゲーゲンプレスからの解放でプレー軸を変える横パスは1回のみ
・解放の横パスの後、相手ゴール方向へ最大のテンポとリスクを

【次回に続く】
 
(文:河岸貴)

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【了】

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