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J1 2か月前

「通用しないこともあった」早川友基は「じゃあ何をしなきゃいけないのか」を考える。サッカー日本代表の経験を鹿島アントラーズで活かす【コラム】

シリーズ:コラム text by 加藤健一 photo by NN

 今季の明治安田J1リーグで目覚ましいパフォーマンスを見せる鹿島アントラーズの早川友基は、サッカー日本代表に3度連続で招集されている。9月と10月の4試合で出場機会が訪れることはなかったが、試合や映像などには映らないところでも、早川は日々学び、自らのパフォーマンスを向上させようと前向きに取り組んでいる。(取材・文:加藤健一)

宇佐美貴史と早川友基の高度な駆け引き

サッカー日本代表GK早川友基

【写真:NN】

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「打ってくると思っていました。宇佐美(貴史)選手は今までも直接FKを決めてきたり、中に(クロスを)上げるふりをして(シュートを)打ってきたり、そういう選手なので」

 ガンバ大阪戦後の早川友基に、78分のシーンについて尋ねた。ペナルティーアークでガンバのデニス・ヒュメットが収めて、左サイドにパスを出す。これを受けた宇佐美は左足を振り抜き、ニアに低い弾道のシュートを放った。

「あれは正直、いいポジションで対応できたと思います」

 記者席のあるメインスタンド2階から見ると、早川が取ったポジションだとニアにシュートコースが空いているように見えた。しかし、早川は「いい準備ができていた」と言う。

「まずはニアがしっかり行ける状態。で、なおかつ左(ファーサイド)も行ける状態」

 早川はあえてニアを空けて、シュートを誘っていた。ゴール前にはガンバの3選手が走り込んでいる。意図的に空けたニアに反応できる意識を持ちながら、ファーにふわりとクロスを上げられても対応できるポジションを取っていた。

 GKのプレーは一瞬で、身体能力や反射神経に目がいきがちだが、このような周到な準備や細かい駆け引きからスーパープレーは生まれる。そして、その準備というのは、練習によって積み重ねられる。

 それにしても今季の早川のパフォーマンスは素晴らしい。ガンバ戦のように、早川の活躍で勝ち点を拾った試合はいくつあっただろうか。

 7月の東アジアE-1サッカー選手権、9月のアメリカ合衆国遠征に続いて、早川はサッカー日本代表に選出された。早川のプレーを見ている人からすれば継続的に招集されていることは納得できる。

リーグ戦出場ゼロから始まったプロキャリア

 7日の練習で、興味深い一コマがあった。

 強烈なシュートを止めた早川友基は、納得がいっていないという表情で首を傾げた。素人目には好セーブのように見えたのだが、本人からすると理想とは違っていたのかもしれない。

 そのような飽くなき向上心が、早川の活躍を支えているのだろう。

「自分がいつ試合に出ても、いいパフォーマンスをしてチームを勝たせるというところに向けて準備していますし、それは本当に日頃の積み重ねだと思う。自分がやっていることしか試合で出せないので、全力でやりたいと思う」

 代表の舞台まで上り詰めたが、常に順風満帆だったわけではない。

「自分のキャリアから考えたら、特に今年は右肩上がりに来たというか。本当に日々充実した環境で過ごしているので、こういったところでやれるのは自分にとってプラスですね」

「自分のキャリアから」と早川が言ったのは、J1リーグでは一度も出場できなかった1年目があるからだろう。明治大学から加入した1年目の2021シーズンは一学年下の沖悠哉の後塵を拝した。ただ、22シーズンの終盤にチャンスを掴むと、そこから約3年に渡ってフルタイム出場を続けている。

「最初はJリーグでやっていて、試合に出始めて、代表でやって。1個ずつレベルが上がってきてはいると思う。その中で例えば代表でそのベースの部分をどれだけやれるのかというのを、1個ずつ上げていきたい。上の環境でやればやるほど成長は絶対にできると思うので、そこは大事にしたい」

 自らのミスから失点をした試合もある。それでも、早川は1つ1つの積み重ねを大事にしながら、階段を上ってきた。

「代表に行ったら全然通用しないこともありました」

「実際にJリーグに帰ったときにパフォーマンスで出せたり、逆にJリーグでプレーしていたけど、代表に行ったら全然通用しないこともありました。じゃあ何をしなきゃいけないのか。サイクルを自分の中で(回し)、常に試行錯誤しながらやれているからこそ、現状があるのかなと思っている」

 代表の練習では、上田綺世や堂安律など、欧州のトップレベルで活躍する選手たちのシュートを間近に受けた。鹿島でともにプレーしたことのある上田については9月に「あいつのシュートはやっぱ久しぶりに受けると、ちょっと速すぎて止まっちゃいますね」と笑いながら話していたが、どうやったらそれを止められるようになるか、考えを巡らせていたはずだ。

 現状の日本代表では、鈴木彩艶、大迫敬介に次ぐ3番手という立ち位置だ。9月、10月と、早川に出番は訪れなかった。しかし、その経験は決して無駄にはならない。

 鬼木達監督も「やっぱり意識は高くなりましたよね」と言い、早川の成長に目を細めている。

「フィールドプレーヤーの意識のところは感じている部分があると思う。(代表で感じたことを)嬉しそうに説明してくれる。僕もそうやって代表が今どういう形で進めているのかを聞いている」

 日本代表で積んだ経験は鹿島にもつながっていく。守備者へは相手に寄せる身体の向きなど、本当に細かいところまで目が届くようになった。

 ブラジル代表戦から中2日で行われるヴィッセル神戸との一戦は、早速その経験を活かす絶好のチャンスとなる。

(取材・文:加藤健一)

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【了】

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