明治安田J1リーグ第34節が17日に行われ、ヴィッセル神戸は鹿島アントラーズとホームで対戦した。3連覇を狙う神戸にとって、首位の鹿島との試合は“6ポイントマッチ”として非常に重要な意味を持っていた。しかしこの大一番はスコアレスドローに終わり、その差は縮まらず。決定機を逃した宮代大聖は自責の念に駆られていた。(取材・文:藤江直人)
ヴィッセル神戸の命運を分ける、首位チームとの“6ポイントマッチ”
ゴールを期待する大歓声がため息に変わる。相手ゴール前で仰向けになり、ホームのノエビアスタジアム神戸の上に広がる夜空を見あげたまま、ヴィッセル神戸の宮代大聖はしばらく動けなかった。
首位の鹿島アントラーズを迎えた17日のJ1リーグ第34節。キックオフ前の時点で神戸は勝ち点5ポイント差の4位。勝てば鹿島の背中を射程距離にとらえ、逆に負ければ鹿島に続く史上2チーム目のリーグ3連覇への可能性がほぼ絶たれる6ポイントマッチ。両チームともに無得点で迎えた27分だった。
「チームとしてやりたいプレーというのは表現できていた部分が多かったし、守備陣が相手を無失点で抑えてくれていたので、あとは本当に決めるだけだったというか、決め切らなきゃいけなかった」
宮代が思わず悔やんだ決定機は、自陣のゴール前から組み立てがはじまった。
FWレオ・セアラを狙った鹿島の縦パスを、DFマテウス・トゥーレルが余裕をもってマイボールに収め、パスを受けたMF扇原貴宏が自軍のペナルティーエリア付近からグラウンダーの縦パスを送った。
ターゲットはハーフウェイラインを越えて降りてきたFW大迫勇也。鹿島のDFキム・テヒョンを背負いながら、大迫は完璧なポストプレーからボールを右側のMF鍬先祐弥へ展開。このとき、ベンチ入りメンバーから外れた酒井高徳に代わり、右サイドバックで先発していた飯野七聖は縦へ駆けあがっていた。
自慢のスピードを駆使しながら、鍬先からパスを受けた飯野は相手ゴール前を俯瞰していた。
絶好球を前にした宮代大聖だったが…
「僕が抜け出したタイミングでエリキがニアに走り込んでいったのが見えたので、深いところまではいかずにアーリークロスで、低く速いボールを入れようと。あれが僕の持ち味というか武器でもあるし、エリキが相手ディフェンダーをつってくれたおかげで、結果的に(宮代)大聖がフリーになったので」
飯野が振り返ったように、ニアへ走り込んでいったFWエリキを鹿島のゲームキャプテン、DF植田直通が必死に追走する。しかし、飯野のアーリークロスはエリキの背後を通過していく。ボールが転がっていったペナルティーエリア内のゴール正面には、ぽっかりと大きなスペースが生じていた。
本来ならばキム・テヒョンがカバーすべきエリアへ、以心伝心で宮代が走り込んでくる。マークする鹿島の選手は誰もいない。宮代自身も「来た!」と心のなかで確信に近い思いを抱いていた。
しかし、右足からワンタッチで放たれたシュートはゴールの枠をとらえられない。ミートしきれず、左ゴールポストの外側をボールが力なく通過していった直後。囮になったエリキ、ファーに詰めていたFW武藤嘉紀、さらにその外側をフォローしてきた大迫、そしてベンチ前の吉田孝行監督が思わず頭を抱えた。
実は宮代がシュートを放つ直前にボールが不規則に、なおかつ小さく跳ねていた。
ノエビアスタジアム神戸のピッチ状態が、あまりにも劣悪だと指摘されて久しい。たとえば清水エスパルスに勝利した第32節。後半アディショナルタイムにスライディングしながら決勝ゴールを決めた酒井は顔面に無数の土を浴びてしまい、試合後の取材エリアでも目のなかに入った土を気にするほどだった。
「このレベルがJ1だというのが…」
鹿島もウォーミングアップの時点で、伝え聞いていたピッチの状態に驚きを隠せなかった。選手たちが「これは厳しい」と口をそろえるなかで、鬼木達監督はキックオフ前にこんな檄を飛ばしている。
「ピッチ(の悪さ)を言い訳にして、試合に入るのだけはやめよう」
鹿島の攻撃陣をけん引するFW鈴木優磨も、試合後にこんな言葉を介して神戸に同情している。
「ものすごく滑るんですよ。ピッチが悪すぎて跳ねたりするし、ワンタッチプレーがすごく怖い。正直、このレベルがJ1だというのが。神戸もずっとストレスを感じているはずだし、改善してほしいですね」
絶好の先制機でボールが小さく跳ねたのも、ピッチの状態と無関係とはいえないだろう。それでも宮代は「ピッチを言い訳にはしたくないので」と、自らに矢印を向けながら努めて前を向いた。
「合わせにいきすぎた、という部分があるというか、ちょっと丁寧にいきすぎたかなと思っている。ああいうところを決め切らないと、こういう強い相手には勝てない。反省点が多い試合だった」
川崎フロンターレから神戸へ加入して2シーズン目。神戸の攻撃陣では最多となる今季リーグ戦30試合に出場してきた宮代は、4試合を残した段階で昨シーズンのゴール数に並ぶ11ゴールをマーク。これはチーム最多で、リーグでも6位につける数字であり、プレータイム2490分も昨シーズンの2085分を大きく上回っている。
「移籍を決断した時点で…」
小学生年代から川崎のアカデミーで心技体を磨き、2018シーズンにトップチームへ昇格した宮代は、出場機会を求めてJ2のレノファ山口FC、同じJ1の徳島ヴォルティス、そしてサガン鳥栖へ期限付移籍を繰り返した。そして川崎に復帰した2023シーズンには、キャリアハイとなる8ゴールをマークした。
しかし、そのオフに神戸への完全移籍を決めた。アカデミー時代を含めて14年間も所属してきた川崎から離れた宮代は「移籍を決断した時点で、正解だと思っていた」と神戸入りを振り返ったことがある。
「日本国内のクラブへの移籍を考えていたなかで、J1のなかで一番レベルの高いチームにいこう、と。神戸は優勝チームだったし、プレーの強度がものすごく高いチームだと思っていたので。周囲から『ヴィッセルへいってよかったね』と言われたなかで、あらためて選択は間違っていなかったと思えました」
神戸は試合翌日がオフになるケースが多く、クールダウンを含めて、選手個々が独自の法で工夫を凝らしている。新天地のチームメイトたちに倣い、宮代も昨シーズンから神戸市内のジムに通いはじめた。
「他チームの結果を見ても何も変わらない」
「連戦になっても監督に使ってもらっていたなかで、すべての試合でいいパフォーマンスを出さなきゃいけないし、その意味でも疲労という言い訳は絶対にしたくなかった。まずは怪我をしない体作りを目指したし、自分のコンディションを自分で調整していけるような選手になりたいとずっと思っていたので」
積み重ねてきた不断の努力が、ゴール数やプレータイムといった今シーズンの数字にも反映されている。大黒柱の大迫や昨シーズンのリーグMVPを獲得した武藤が怪我で離脱を強いられ、インサイドハーフでコンビを組んできた井手口陽介も4試合続けてベンチ入りメンバーから外れている。
文字通りのフル回転で今シーズンの神戸をけん引してきた。攻撃陣の中心を担ってきた自覚が、鹿島との勝ち点差を詰められず、逆転優勝へ黄信号が灯った状況で神戸に必要なものを宮代にこう言わせた。
「アグレッシブに、前に圧力をかけていくのはもちろん大事だけど、そのなかでどれだけ冷静に試合をコントロールできるか。何がなんでも前へいけばいい、というわけじゃないので。
特に攻撃の部分でもっと共通意識をもって、どのようにしてシュートまでもっていくのか。連覇して相手に分析されているなかで、必然的にそうなった、というシーンをもっともっと作るべきだと思う」
画竜点睛を欠いてしまった自分のシュートを責めながらも、ミスを挽回する強い気持ちを神戸の最後の武器に変えていく。宮代は「すべて勝つしかない。他チームの結果を見ても何も変わらない」と残り4戦に全勝して人事を尽くし、そのうえで天命を待つ決意を言い残して取材エリアを後にしていった。
(取材・文:藤江直人)
【関連記事】
禁断の後出し!? J1リーグ順位予想1〜5位【2025シーズン】
あまりにガラガラ…。Jリーグ収容率ワーストランキング1〜5位【2025シーズン】
200人以上に聞いた! Jリーグ、チャントが最高なクラブランキング1〜5位
