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Jリーグ 2か月前

サンフレッチェ広島、荒木隼人を変えた「あの経験」。世界基準を体感し、意識すること。「悔しい思いが強くて」【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子 photo by Noriko NAGANO

 YBCルヴァンカップ2025決勝が11月1日に行われ、サンフレッチェ広島は柏レイソルを3-1で下して優勝を決めた。この試合で先制点をあげたのは、最終ラインの一角に入った荒木隼人。高さをいかしたセットプレーは、入念な準備と明確なビジョンがあってのもの。失意の北米遠征を経て、荒木は人一倍の努力を重ねていた。(取材・文:元川悦子)

徹底的な対策が実ったサンフレッチェ広島

荒木隼人 サンフレッチェ広島
【写真:Noriko NAGANO】

 2022年のミヒャエル・スキッベ監督体制発足後、同年のYBCルヴァンカップを制したものの、その後はリーグ・カップ戦ともに常に上位にいながら、タイトルをつかめずにいたサンフレッチェ広島。

 2025年も現時点でJ1、ルヴァン杯、天皇杯と3冠全ての可能性を残しているが、J1に関しては10月25日の横浜F・マリノス戦を0-3で落としたことで、非常に難しい状況に追い込まれた。

 それだけに、11月1日のルヴァン杯決勝・柏レイソル戦を是が非でも勝って、今季最初のタイトルを手中にしなければならなかった。

「我々は常に連戦が続いている状態で、なかなか1週間(の調整期間)を取るのが難しい状況だった。今週は落ち着いて、トレーニングに向かえたことが大きかったし、2日間、セットプレー練習に割くこともできた」と指揮官はコメントしている。

 AFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)の日程がようやく空き、今季を通しての課題だった“得点力不足”に取り組めたことには大きな意味があった。

 特に柏との体格差・身長差に着目し、リスタートに磨きをかけるというのは、広島にとって最善のアプローチ。そこで重要な役割を担ったのが、ロングスローを投げられる中野就斗と打点の高いヘッドで脅威になれる荒木隼人の2人。その彼らがいきなり成果を残したのが、25分の先制点だった。

「今日だったら競り勝てるな」

 中野が右タッチライン際から長いボールを送り込むと、GK小島亨介の前に佐々木翔と東俊希が立ち、守護神をブロック。その背後からジャンプした荒木が競り合いに勝って、値千金の先制弾を決めたのだ。

「あの1個手前、2個手前くらいにも同じようなボールが入っていた。(GKを)ブロックしてくれている選手もいたし、今日だったら競り勝てるなという自信はありました。

 それで本当にいいボールが入ってきたんで、決められてよかった。中野の肩が今日はすこぶるよかったんで、いつもよりいいボールが飛んできました」と背番号4は満面の笑みを浮かべたが、この1点が柏に与えたダメージは想像をはるかに越えていた。

“広島鉄壁3バックのセンター”というイメージの強い荒木だが、彼の得点能力についてはスキッベ監督も高く評価している。1週間前のマリノス戦でも終盤にFW起用したほどだ。

「前に入った時はしっかり競り合いに勝つこと、あとはゴール前の高さを出すことを意識しました。でも自分が前に出なきゃいけない状況にならないようにするのがベストかなと思います」

 本人は複雑な表情をのぞかせたが、流れの中から点の取れていない広島が一発勝負のカップ戦ファイナルで勝ち切るためには、やはり荒木の高さに賭けるのがベストな選択。指揮官の前向きな割り切りが、試合の流れを引き寄せる原動力になったのは確かだ。

「今年すごく伸びた選手」

 その後、広島は前半のうちに東の直接FK弾と中野のロングスローからのジャーメイン良のゴールを追加。3-0にして試合を折り返すことに成功した。

 そうなれば、柏は後半、なりふり構わず攻め込んでくる。案の定、リカルド・ロドリゲス監督はベンチに置いていた細谷真大、仲間隼斗らを投入し、一方的に押し込んできた。

 荒木にとって悔やまれたのが、81分の細谷のゴールシーン。小屋松知哉のスルーパスに反応した背番号9にかわされる形になり、完封を逃してしまったのだ。

「もう少し体を寄せたり、ぶつけに行こうと思ったんですけど、そこは最悪、スライディングでボールを触りに行ってもよかったかなと。彼の動き出しは警戒はしていましたけど、上回られた。また頑張ります」と背番号4は悔しさを噛みしめた。

 最終的に3-1で勝利し、チームとして悲願のタイトル獲得を達成。個人としてもMVPを受賞し、スキッベ監督から「今年すごく伸びた選手。技術面が伸び、1対1にも自信を持てている。彼の成長があってこそ、(2022年から)3年経ってもDFラインがうまくやっていけている1つの要因だと思う」と絶賛されている。

 とはいえ、荒木本人の中では「どこか足りない」と感じているはずだ。

 ご存じの通り、彼は日本代表として今年7月の東アジアE-1サッカー選手権2025決勝大会 韓国と9月のアメリカ合衆国遠征に帯同。特に後者では欧州組メンバーと共闘し、アメリカ代表戦にスタメン出場した。

 奮闘は見せたものの、世界トップ基準を前に2失点完敗を喫した。その経験値は大きな糧になったという。

失意のアメリカ遠征から2か月「今まで以上に…」

「あの経験は正直、悔しい思いが強くて、アメリカから帰ってきてからは、自分なりに今まで以上にいろんなことに取り組んでいます。

 具体的に言うと、もっともっとフィジカル能力を上げたいなと。特に下半身の強さが必要だと感じたんで、この1か月半は試合がある時でも前日くらいまでハードに追い込んだりして、苦しい中でも意識高くやることを自分に課しています。

 それが結果として数多く出ているかというと、難しいところはありますけど、決勝をこうやって戦えて、点を取れて、気持ち的にも嬉しいのは確か。これをポジティブに捉えたいですし、意識的に取り組んできたことが生かせたかなと思います」

 荒木は努めて前向きに語ったが、日本代表定着、2026年FIFAワールドカップ(W杯)滑り込みを果たそうと思うなら、そうやって少しずつレベルアップしていくしかない。

 29歳という年齢は決して若くないが、谷口彰悟のように30代になってから海外移籍に踏み切り、大ケガを乗り越えて再び代表復帰を果たした選手もいる。

 それを考えれば、荒木はもっともっと飛躍できる。2002年日韓W杯のドイツ代表に携わった名将・スキッベ監督も大きな期待を寄せているに違いない。

 そのためにも、この柏戦から一気にスパートをかけるべき。まだ天皇杯の可能性は残されているし、J1も首の皮一枚つながっている状況だ。

 ACLEも入ってくるため、まだまだ過密日程が続くが、取れるものは全て取り切る覚悟が彼らには必要になってくる。

 30代の塩谷司、佐々木翔のリーダーシップに頼ることなく、荒木がそのけん引役になってくれれば理想的。彼にはこの先も重責が託されるのだ。

(取材・文:元川悦子)

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【了】

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